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心に留まる宿 “無い場所にただ在る” ume yamazoe

奈良市の中心部から車を走らせ、調べた道が合ってるか不安になった頃に姿を表すume yamazoe 。丘を登った先にあるこのホテルは、山添村の元村長の邸宅に手が加えられたもので、フロントと客室からは裾に広がる村を見渡すことができる。

フロント兼キッチンバーのある本棟のほか、客室となる分棟が三つあり、屋外には界隈で話題のフィンランド式サウナがひっそりと佇んでいる。ロウリュに使われる水には、裏山に自生している杉の間伐材から抽出された精油が含まれており、サウナストーンから蒸発する杉風味の湯気が全身を包む。

支配人の梅守志歩さんはとにかく山と自然を好いている。山添村の森林形態については日本でも普遍的なものだというが、梅守さんの目にはこの裏山がどのように映るのだろう。

辺りにはなにもない。自然が広がっているという意味での「人工物がない」という意味ではなく、誤解を恐れずに言うと、土地として一瞥するだけだと「魅力と思える場所が見当たらない」のだ。谷には高架が通され、まばらながらも車は行き交い、道に沿って体系化されたような民家がぽつぽつと並ぶ。畑も無ければ農場もない。おいてけぼりにされた村。そんな印象を受けた。

だからこそ、ume yamazoeの異質さは際立ち、世界が確立されている。施設内の無駄な要素は削ぎ落とされ、創られたような要素は感じられない。ホスピタリティ溢れる宿泊体験は、それを目的として土地に人を呼び寄せる力強さがあるということを思い知った。

夜になると辺りは一面暗くなり、なにも聞こえなくなった。そんな無い時間の中で、個々は己と対面する。四方のうちニ方がガラス戸である客室にいると、闇に恐ろしさを感じ始め、時折聞こえる鹿の声がなおさら孤立感を煽る。

そんな中待ち侘びた早朝の朝焼けは美しかった。目を覚ますと目の前に広がる東の空が白み始め、早起きをした鳥の声が聞こえる。一晩かけて温めた布団の温もりに包まれながら、寝ぼけ眼で見たその日の始まりは長く短い時間だった。

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