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第20話「本土最南端佐多岬」(鹿児島県)

自転車日本一周旅〜人生で大切なことはすべて旅で学んだ〜

本土最西端「神崎鼻」を制した後、自転車旅は南下を続け鹿児島県に入った。
日本本土最南端は鹿児島県の佐多岬である。
日本地図を眺めると鹿児島は蟹のツメのように2手に分かれている。
挟まれたら一番痛いであろう場所が桜島だ。

左側が薩摩半島で右側が大隅半島だ。
佐多岬は大隅半島の先っぽになる。
桜島の噴煙を間近で体感し、本土最南端佐多岬を目指すため、国道220号線、269号線を南下していく。
対岸の開門岳がどんどん大きくなってくる。洋上に浮かぶ道北の利尻富士のように雄大だ。
いよいよ佐多岬が目前に迫ってきた。
登山家が頂を極めたいのと同じく、日本一周を目指す旅人にとっては、佐多岬は、最高峰と同じ重みを持っているのだ。
自転車という自走力で旅を積み重ねてきた人間には、日本一の富士山の頂に立つことと同じなのである。
本土の最北端「宗谷岬」(北海道稚内市)。
最東端「納沙布岬」(北海道根室市)。
最西端「神崎鼻(こうざきばな)公園」(佐賀県佐世保市)。
3つ制した。東西南北制覇まで、残すところ、この最南端「佐多岬」(鹿児島県南大隅町)はあと一歩のところまで来ていた。
富士山なら9号目を通過し、登頂まであと数十メートルの位置にある。
佐多岬はもうすぐ手の届くところまで来ていた。

しかし、これまで全国各地で出会った旅人との情報交流で、佐多岬は自力踏破ができないところであると事前に分かっていた。
登山なら、もう頂は目と鼻の先なのに、そこから山頂まではヘリコプターでいかねばならないのだ。
そうなのだ。
この佐多岬に繋がる「佐多岬ロードパーク」は、約10キロの区間、有料自動車専用道路なのである。
自転車、徒歩は通行禁止。
佐多岬に行く方法は、自動車、自動二輪車に限られる。
自転車、徒歩の旅行者は、ロードパーク入口から、毎日数本運行している専用バスに乗車するしか方法がないのだった。
有料道路ゲートのおばさんに事情を説明して、なんとか自転車で行かしてくれないかと頼み込んだが、無理だった。

「ルールはルール」」

ときっちり断られた。
仕方がない。
バスで行く事にした。
せっかく日本東西北を自走力で制覇したのに、最後の最南端にこんな形で制するのは歯痒かった。
ここまでやってきたのだから最後まで自力で到達したかった。
残念。無念。
わずか10キロの距離に泣いた。
北海道最北端「宗谷岬」からここまで直線距離で2700キロの道のり。最東端、最西端も自力で制覇し、コツコツ自走を積み重ね1万キロほど、ペダルを漕いできた。
しかし、わずか10キロの道のりに泣いた。

残念だったが仕方がない。
ロードパークを妬みながら、その日は佐多岬ふれあいセンター前の大泊キャンプ場でテントを張った。
佐多岬ロードパークのゲート前にあるキャンプ場だ。
ここで俺はある作戦を練った。
ロードパークは、16時に閉門された。
翌日は9時から開門される。
ということは、早朝、まだ係が来ない時間帯を見計らって、有料道路「佐多岬ロードパーク」のゲートをこじ開けて最南端佐多岬を目指せばいいのだ。
わずかここから10キロの距離。
往復1時間だ。

そうだ、ゲートの向こうに夢があるなら、ゲートが開くまで叩き続けるんだ。開かなければこじ開ければいい。

困難のハードルは、高い方がいい。越えようとしなければいい。ハードルは高ければ高いほどくぐりやすい。

思っていても行動しなければ、思っていないのと同じことや。

やれなかった、やらなかった、どっちなんだ?

×だって斜めから見ると+に見える。

自分に出来ないことを出来る人は、スゴいと思うけど、そのスゴい人との差は、やるかやらないかの違いだけ。

常識とは多数の意見であって、正解ではない。

過去は気にしなくていい、もう終わったんだから。

今ここで諦めたらクセになるで。


モンモンとポジティブワードが頭を駆け巡った。
ここでやらなかったら後悔するだろう。
やってしまった後悔はだんだん小さくなるが、やらなかった後悔はだんだん大きくなる。

翌朝5時作戦決行。
6時任務完了。
直後、テント撤収、荷物を自転車に素早く積み込んで、その場から撤収した。
まるでルパン三世のような、逃亡劇場だった。


挑戦することより、諦めることを恐れよう。

PS:この話は2001年のこと。2007年以降は自転車日本一周旅人の願いが通じたのか、全面無料開放されているようだ。

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