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「ハリポタ」特番を観て。80年後もきっと、魔法は解けない。

※このnoteでは『Harry Potter 20th Anniversary : Return to Hogwarts』のネタバレを一部含みます。

わたしの人生にある幸運のうちのひとつが、いくつ年を重ねても7歳の頃の気持ちで楽しめる物語に出会えたことじゃないかと思う。

その物語の主人公は、世界中でいちばん有名な魔法使いの男の子。そう、ハリー・ポッターだ。

昨年2020年は、ハリー・ポッターシリーズの1作目『賢者の石』が公開されてちょうど20年。

今年のお正月、この20周年を記念してハリポタ出演陣による”同窓会特番”が放送された。その名も『Harry Potter 20th Anniversary : Return to Hogwarts』。

その内容は映画に登場したセットに当時のキャストと制作陣が集合、撮影の裏話や今だから明かせる本音などを存分に語るというもので、ファンにとっては「懐かしい!」と「そうだったんだ!」と「ありがたや……」の大洪水になること間違いなし。

しかし問題があって、番組はHBOmaxというアメリカの配信サービスが放映したのだが、当日の1月1日時点では日本での配信予定すら立っていなかった。

これにはかなりじれったい思いをしたのだが、少ししてから無事、U-NEXTでの配信が開始された。

ありがとう、U-NEXT!しかも初回登録はお試し期間で31日間無料で観れるの、神でしかない!!

というわけで、この特番を観るためにU-NEXTに登録。1月某日、金曜の夜、ひとり鑑賞会を開催した。というのを、ちょっと時間が経った今さら振り返る。

当日はさっさと在宅勤務を切り上げ、なんとなく金曜夜っぽいメニューの夕飯をいそいそと用意。生涯の推しコンテンツ、ハリー・ポッター公式からの久々の供給だ。存分に向き合うための環境を整えた。

『賢者の石』公開時、わたしは7歳。今は27歳になったので、鑑賞のお供はあの頃のなっちゃんオレンジではなく缶カクテルである。

正直下戸だしお酒を飲むタイプじゃないんだが、ここ最近無性に「呑みてぇ!」とアルコールを求める夜がたまにある。ひとり暮らしの寂しさか。転職後、前職よりも仕事が忙しいせいか。

おつまみメニューが中心。卓は準備万端だ。

さてそれでは、昂ぶる気持ちをおさえつつ、このために購入したFireTVのリモコンで、再生ボタンを押す。

開始10秒だった。10秒で撃墜された、20年選手オタクは。

気付けば最初から最後までぼろぼろ泣きながらみていた。涙でにじんで字幕読めないところがあったのでもうあと2~3回は観ると思う。

プロローグにまず登場するのは、ハーマイオニー役のエマ・ワトソン、ハグリッド役のロビー・コルトレーン、そしてネビル役のマシュー・ルイス。彼らの元に、蜜蝋で封をされた羊皮紙の封筒が届くところからが始まりだ。

封筒の中から出てきた招待状をひとめ見て、息をつくエマの表情。次の瞬間、画面は切り替わり9と4分の3番線へ……

画面に映るすべての光景に、次々現れる懐かしのキャスト陣に、そしてお馴染みのテーマ曲に、いちいち肌は粟立ち目頭が熱くなる。笑わないでくれ。酒をのんだアラサーは涙もろいのだ。

と、その一方で、20年前ハリポタの世界に夢中になっていた子ども時代に、一気に引き戻されたような感覚もあった。ただただ純粋に「なんだこれ、めちゃくちゃ面白い!」と脳がピリピリ興奮した、あの頃に。

だって、この『Return to Hogwarts』、本編シリーズに負けないくらい演出が凝りに凝っているのだ。ホグワーツ大広間を舞台にしたオープニング映像の美しさと言ったら!とにかくこの数分間だけでもいいから、この世のすべての人に見てもらいたい……。わたしはこれで寿命が恐らく1年伸びましたよ。

改めて気づかされたのは、ハリー・ポッターの世界がいかに圧倒的な存在かということ。もちろんほかにも好きな本や映画はたくさんある。けれど、今もこの先も、この物語はわたしの特別だ。

ファーストインパクトから何年経っても褪せることのないその魅力は、まさに魔法と呼んでいいと思っている。

どうしてこんなにも惹かれるのか……ハリポタ特番を観たわたしが導き出したのは、3つの理由だ。

まず第一に、ハリー・ポッターこそわたしにとってフィクションの原体験であるということ。それも極上な。

私は小学生になった頃初めて『賢者の石』を読んで、その後は本が出たら必ず発売日にゲット、映画は絶対に劇場で観ていた。

最終章の『死の秘宝』が出版されたのが中学2年のとき、映画シリーズが完結したのが高校1年くらいのときなので、まさに子ども時代を一緒に過ごした作品なのである。
だから当然、ハリポタシリーズはひいき目に出来良く感じるのだ。

でもそれにしたって、この作品の作り込み力がえげつないのは事実じゃないだろうか?。何度でも繰り返し楽しめ、面白さがすり減らない。それどころか、体験するたびに新たな発見を得られるというのもミソだ。

『Return to Hogwarts』でも、作り手たちのハリポタへの熱量がいかに大きかったかが見て取れた。特に今回観て改めて感じたのは、この映画のキャスティング力は本当に半端じゃなかったんだな、ということ。

まず、ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンのメイン3人。10年もの長い月日を、自分の青春時代をかけて作品に費やしてくれた。彼ら以上に、ハリー・ロン・ハーマイオニーを表現することはきっとこの先大変に難しい。3人のプロ根性はもちろん、それを支えた周りにも、ファンとしては感謝の気持ちでいっぱいだ。

そして自分が成長して色々な映像作品を観るようになったからわかる、脇を固める大人キャストの豪華さ。マギー・スミス、アラン・リックマン、ジュリー・アンドリュース、エマ・トンプソン、ヘレナ=ボナム・カーター、ゲイリー・オールドマン。

「ハリポタに出たこの人、ほかでもよく見かけるようになったなあ」と思っていた10代のわたしよ、違うんよ。ハリポタに出て有名になったんじゃなくて、この作品に、名だたる名優たちが集結してくれてたんよ……

2つめが、そのスケールの果てしなさ。JKローリングが生み出した魔法界は2軸にファンタスティックだ。

どこまでも大きく広がっていく豊かな想像力。そしてそれを支える、緻密に練り込まれた設定の細やかさ。そのどちらもが一級品なものだから、ファンタジックな世界観にわくわくしつつ、どこか「もしかして魔法は実在するのでは……?」と感じるリアルさもあり、それが一層心をときめかせてくれる。

そして第3の理由。『ハリー・ポッター』は単純な冒険活劇ではなく、ひとりの男の子が大人になっていく過程、そして周囲の人間模様が丁寧に描かれたヒューマンドラマであるという点。

特番に登場したキャスト陣も、しばしばこの点に触れていた。

作品の中では、ハリーの友情や恋愛という他者との関わり合い、そして彼が抱く優しさ、喜び、悲しみ、憤り、嫉妬心、勇気など内面の部分が丹念に描かれている。そして、作品の根幹となる愛や死という壮大なテーマも。

思えば、はじめて鮮烈に物語の中の死を意識したのも『ハリーポッター』だ。登場するキャラクターの死には、本当に親しい人を亡くしたような喪失感を味わった。長いシリーズものならではのことかもしれない。

『Return to Hogwarts』で素敵だったのが、制作陣やキャストたち自身も、この物語のファンであるということがよく伝わってきたこと。そして、たびたび差し込まれる世界中のハリポタ・オタクたちの映像も印象的だった。

新刊の発売日や映画のプレミアに集い沸き立つ人々。遠く離れた国に、自分と同じようにこの物語を愛する人たちがいるということに、これまた思わず目が潤んでしまった。

設定のアイディアやキャラクターの個性は革新的な一方で、ベースにあるのは王道の成長物語、勧善懲悪のシンプルな倫理観という点が、やっぱり多くの人の共感を呼んだ背景なのではないかと思う。

子育て中のJKローリングがカフェで書き始めた小説がここまで世界中で愛されるようになるなんて、フィクションが持つ力って本当にすごい。

他にも『Return to Hogwarts』の感涙ポイント・大興奮ポイント・くすっと笑えるポイントは数えきれないのだが……それを全部書き挙げていくにはもうあと半年くらいかかりそうなので、今日はちょっとやめておく。
語りたい気持ちは山々なので、周りの人が観てくれるように布教活動を続けていきたい。

さて、原作誕生から数えると四半世紀が経ったハリポタワールドだが、

・外伝のファンタビ最新作が今年公開予定
・続編の舞台『呪いの子』がついに日本上陸
・ステーションギャラリーでは特別展を開催中
・Siriでハリポタの呪文が使える機能が実装開始(私はこれを使いたいがために、言語設定を英語に変えた)

と公式からの供給が止まらない。
さすがメガコンテンツ、沼に押し込めてくるパワーがエグい。というか、たぶんこの世界がいつまでも続いてほしいと願い、それを自らの手で実現してくれる人がたくさんいるのだろう。
とてもありがたいことだし、”そちら側”になれることが羨ましくも感じる。

80年後、『ハリー・ポッター』は映画公開100周年になる。当時の作り手たちは天寿をまっとうしているだろう。それでも、80年後の未来にもきっと、「この世界を表現したい」と思う人がいて、この物語の魔法は変わらず湧き出ているに違いない。

その頃わたしは107歳。正直かなり怪しいラインだけど、もしもまだ生きていたら、そのときにはまた7歳の子供に戻って新しい『ハリー・ポッター』の魔法にかけられているのだろうと思う。


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