君はこの気持ちを知らずに去っていった
また会おうと約束した10年後の八月はとうに過ぎ、
みんな大人になったけど、それはそれでなかよしで
だけど君はいなくなってしまった。そしてまた10年が経ちます。
小説で、10年って永遠みたいだと思わないって言われて そうだねって返す主人公がいて、10年を永遠とは思えない もうそんなに若くない人間の 淡い諦観をなんとなく受け取ったけれど、それでもそれは年月というものをまだ実感しない淡いものだったと今は思う。
あの頃、こんな気持ちは、知らなかった。
10年なんて あっという間に過ぎ去ってしまう。
ほんとうに、あっという間に、過ぎてしまった。
ずっと、私は、君がいなくなったということがよく分からなかったんだ。
家族ではないから、「いっしょにいた人がいなくなってしまった」という現実感はなく、もともと約束をしなければ会えなかったから逆に今も、会おうと約束すれば会える気分が続いていて。
でも君がいなくなってからもいろんなことがあって、
そう いろんなことがあって、
街も変わり、新しい好きなものや友だちや興味のあることも増え、こんなのきっと好きだろうなとかこれ相談したらなんて言うかなとか、
思う度、もういないんだと、少しずつ思い、
慣れて
いちばんあの頃と違うのは子どもたちで、みんな、自分の道を考えたり歩き出したりしている。心配なんかしなくたってもう一人でどこへでも行ける。まあ心配はしちゃうんだけどさ、そうすると却ってこっちを励ましてくれたりするんだ。
君は、おいていってしまうことをあんなに心配していたけれど、大丈夫だよ、みんな大きくなった。
やっぱり10年はすごい年月なのかな。
あの頃、こんな気持ちは、知らなかった。
この気持ちをなんというのだろう。
あっという間でさびしいとか、かなしいとか、
少し違うんだ。
月日を愛しく思う気持ちもあり、何も持たずに一人でこんなに遠くまできてしまったという途方に暮れたみたいな気持ちもあり
君のいないことに少しずつ慣れていったように、
いつの間にか、静かに静かに心の中に時が降り積もって、
いつかまた 今は知らない気持ちにたどり着くんだろう。
今は この気持ちにつける名前を 私は思いつくことができず、
それを知らないまま去っていった君へ 思いを綴っています。
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