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美味しいものを食べる時

一人で、あるいは食一点に集中できる環境で美味しいものを食べる時は、時間が止まる。
美味しいものが口の中で、複数の味を、バランスが良く感じさせてくれた時に、私は一気に目の前にある食べ物に引き込まれる。
口の中の情報処理に必死になるので、会話を続ける事がままならなくなる時もある。結果、おいしい…おいしい…と繰り返すことになる。

誰かとそういう瞬間を共有するのも好きだけれど、一人で延々と噛み締める時間も必要だと感じる。何故ならそれは救いだから。
味覚と、味覚から繋がる範囲が狭い感情に集中すると、常に身体の底に重く溜まった不安から離れられる。
味覚という私にとっての事実を淡々と感じている時が、一番真摯に自分と向き合えている時間であるように思う。いわゆる現在に集中する、自分に素直になる、自己肯定を素直に行えているとても短い時間。
そうしていると、ふとした瞬間に、生きてて良かった、という滅多に辿りつかない感情が通り過ぎていく。後ろから吹き抜けて行く風のように。
通り過ぎたのを見送った時、時間の流れが再び始まる。
時間が止まってたな、と思うと同時に、美味しいものを食べたんだと改めて知る。
少し汚れたお皿やカトラリーの上でゆるやかに霞んでいく幸せを眺めて、もう止まらない時間と共に進んでいく。

いただいたサポートでおいしいものをたべるため、明日を生きます。