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誰でもできるホームシアター入門 #1

第1話 「ホームシアターの話をしよう」

登場人物
A美:映画好きな主人公。自宅で楽しめるホームシアターに憧れている。
B子:A美の友人でアニメオタク。ホームシアター好きというわけではないが映画館にはよく行く。
X氏:ほどほどに著名なAVライター。変人。
Z氏:X氏がいつもいる喫茶店の店主。詳細不明。

A美:というわけで、ホームシアターのことを教えてください。
Z氏:おいおい唐突だな。

作者は文章が下手なので、状況説明をはじめとするト書きは必要最小限とさせていただく。

大学入学を機に一人暮らしをはじめたA美は、かねてから憧れていたホームシアターを自分の部屋に作ることを考えていた。しかし、ホームシアターと言っても何をすればよいかもわからなかった。そんなおり、マンションの近くにある喫茶店にAVライターという職業の男がいつもそこにいると聞き、喫茶店を来訪。挨拶もそこそこに本題を切り出したようだ。
そして、蛇足だが、この話はもともと2020年頃に書いていたもののため、時代は2020年。すでに完結した『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開前の時点のお話である。フィクションだけどね。

X氏:ホームシアターとは、家庭用の映画館という意味だ。極端に言えば、あなたもよく知る映画館を家の中に造るというわけで、防音やらシアターの設備やらで何千万ものお金がかかる。そういうホームシアターをご所望か。
B子:無理ですよ~。家賃やら生活費でカツカツの暮らししている苦学生に何を言ってるんですか。あ、アタシA美と一緒に暮らしてるB子です。よろしく~。
X氏:ハタチそこそこの小娘がタメ口とはイイ度胸だな。だが、言っていることはわかる。わからんのはあなたの方だ。A美さん。
A美:え!? ネットでZ氏の記事を読みましたけど。いつも「さあ、ホームシアターをはじめよう」とか言っているじゃないですか。それで、何をすればホームシアターなのかを聞きにきたんです。
X氏:ぜひお金を払ってHiViという雑誌を買ってくれ。そこにいろいろ書いてある。

宣伝である。

A美:そんなに大変、っていうか時間がかかってしまうんですか。もっと気軽に始められるものかと思っていました。
X氏:気軽、ね。そういうことなら、BDなりDVDなり、あるいは動画配信で、自分の好きな映画を見ればよろしい。映画がはじまったら、そこがホームシアターだよ(キリッ)
A美:ドヤ顔で適当なこと言って誤魔化さないでください。
X氏:Difficult
A美:?
Z氏:ご注文をどうぞ。ちなみに「Difficult」とは翻訳すると“あなたって面倒くさい”という意味になります。『スターウォーズ:スカイウォーカーの夜明け』でレイがポーに対して言っていた台詞です。X氏のお気に入りのようですね。

A美とB子、メニューから飲み物を注文する。X氏は何も言わずにぼんやりとしている。

X氏:あなた方はどんな映画をよく見るのかな。

A美、意外な質問を投げかけられ、返答に窮する。

B子:アタシはエヴァ。完結編が楽しみっす。

A美、なぜか恥ずかしそうな顔で、B子を止めようとする。

X氏:エヴァというと、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のことだね。僕もどのような決着になるのかは気になっているよ。
B子:でしょ! 『Q』でシンジ君があまりにも可哀想だったから、どうやって立ち直るのかが早く知りたい。
X氏:「僕は僕だ! 僕はここにいたい!」。わぁ~パチパチパチ。で終わりだろ。いいラストじゃないか。
B子:それ旧TVシリーズのオチじゃん! 宗教の集会とか自己啓発セミナーみたない感じのヤツ。
X氏:エヴァってそういう話でしょう。旧劇場版も結局同じだった。
B子:「・・・気持ち悪い」。あっ。もしかしてそういうこと?
X氏:そういうことだろうね。もしもシンジ君がハッピーな結末を迎えるとして、その手前でどうしようもなくへこたれていたシンジ君が自分を再発見する。あるいは自分のやらかした事や世界の惨状を認めて、受け入れる。何が行われるかはわからないが、それはもう洗脳レベルの大変身だよね。感情移入できない人にしてみれば、それは「気持ち悪い」印象を抱くんじゃないかな。それは、新劇場版でも変わらないと思うよ。
B子:X氏っておっさんなのにエヴァ好きかと思ってたけど、実はエヴァ嫌い?
X氏:(おっさん言うな)いやいや、大好きだよ。
B子:でも、なんか批判的。
X氏:好きだから全肯定ってわけじゃない。B子さんも『Q』は嫌いなのでは?
B子:「Q」は全然ダメ。シンジ君が可哀想。

唐突に時代は現代へと移行する。SFでもなんでもないので、こういうのは2度とやりません。

X氏:いや、驚くほどきちんと風呂敷畳んで、大団円に持っていったね。ここまできれいに決着付けるとは思わなかった。
B子:どうゆうこと?
X氏:エヴァは繰り返しの物語だから。終わったような終わってないような結末になるかと思っていた。
B子:アスカがちょっと可哀想とか、細かいところはいろいろあるけど、結末は良かった。
X氏:心が浄化されるよね。映画も歌と同じくリリンが生み出した文化の極みだよ。
B子:似てないからやめれ。
X氏:旧エヴァのネタもわかるとか、若いのにアニメたくさん見てるんだな。
B子:そうでもないよ。親はうるさいけど。

呆然とエヴァ談義を見守っていたA美、ハッとして口を開く。

A美:B子、このくらいでいいでしょ。アニメの話をしにきたんじゃないのよ。X氏に迷惑でしょ。
X氏:そんなことはない。わかっていないのはA美さん、あなたの方。僕はB子さんと楽しくホームシアターの話をしているじゃないか。
A美:意味がわからない。
X氏:じゃあ今度はA美さんとホームシアターの話をしよう。好きな映画は何かな。

A美、今度も答えられない。

X氏:好きな映画のひとつやふたつ、ポンポンと出てこないものなのか。本当に映画が好きなのかな。僕ならば、アニメなら『伝説巨神イデオン』、映画なら『ブレードランナー』、音の良さなら『ガールズ&パンツァー』、いくらでも出てくるよ。
A美:・・・
X氏:Z級のダメな映画をあげたとしても、「そんな映画が好きなの。趣味悪~い」なんて言わないよ。でも、話はじめたら止まらないくらいの好きな映画がある人でもないのに、ホームシアターが必要とは思えないな。
A美:映画を見るのが好きなんです。テレビの映画番組は全部見ているし、NetflixとAmazon Prime Videoも利用してます。とにかくいろいろな映画を見て、泣いたり笑ったりするのが好きなんです。それじゃダメですか。
B子:A美は本当にいつも映画を見ているんだよ。昔はいつも映画館かレンタルビデオ屋に居て、彼氏にフラれたくらい。
A美:そんなことまで言わなくていいでしょ!
X氏:大好きな映画についてはいつか教えてもらうことにするとして・・・。でも、映画が見るのが好きで、それこそヒマさえあれば映画を見ているのなら、もう必要なものは揃っているでしょ。今はどうやって映画を見ているの?
A美:ノートパソコンで見てます。イヤホンで。
X氏:映画を見るには十分だと思うけれども。何か不満でも?
A美:映画館で映画を見ている雰囲気じゃないというか。没入って言うんでしたっけ? もっと映画の世界に入り込めないかなって、それにはホームシアターが必要なのかと思ったんです。
X氏:「大体わかった」。
B子:どうでもいいけど、ちょくちょく物真似するよね。
X氏:上手いでしょう。
B子:似てない。おっさん臭い。
X氏:失敬な。それはさておき、ホームシアターの話をしよう。
A美:はい。そんなに多くはないですが、多少は貯金もあります。
X氏:そういう話は電器店に行って相談してきなさい。僕はセールスマンではないし、好きな映画が何かを教えてくれない人にどんなテレビを選んだらいいかがわかるような超能力者でもない。
A美:そういう理由だったんですか・・・。
X氏:僕は最初からホームシアターの話をしている。残念ながらそれ以外の与太話の相手をするほどヒマじゃない。というわけでさっさと結論を言おう。薄型テレビを買うとか、それ以前にやることがある。
A美:何をすればいいんでしょうか。
X氏:映画を見る前に、まず部屋を真っ暗にしろ
A美:はい?

第1話 了


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