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様々なオーディオ・エフェクトの楽曲使用例Spotify Play List

様々なオーディオ・エフェクト(エフェクター)の楽曲使用例をコレクションしたものをSpotify Play Listで作成したのでここに紹介します。当初、自分の参考用に作っていましたが、結構豊富な内容になったこともあり、各エフェクトの原理、歴史的背景、リスト中の楽曲の特筆すべき点なども付記し公開する事にしました。そんな事もあり選曲は自分の好みを大きく反映しており、かつ新しめの曲は少なめだったりしますが、その開拓者達による音という点を重視し、1950年代あたりから電気処理による音創り、表現の幅が大きく広がって行った事を感じて頂けたらと思います。こう並べて聴いてみると良く知ってたエフェクトや曲でも新たな発見があります。エフェクターの良い点の一つとして、その様々な使い方、組み合わせにより自分ならではの"音"、ひいては"楽器"を作る事が柔軟に出来るというのがあると思います。それまでの既存の楽器音に飽き足らず、音と音楽の拡張をとことん行った先人のサウンド・クリエイター達、ミュージシャン達をリスペクトし、単なるリファレンスとしてだけでなく自分なりの音を追い求めてゆくうえでのヒント、糧にできたらとも思います。


Fuzz

1960年代に入ったころから出現したギターの音を意図的に歪ませるエフェクトで、米国Maestro社のFZ-1が初のファズとされている。トランジスタを過剰にオーバーロードさせたり、全波整流回路を通して倍音を多く発生させたりすることにより得られ、時にサックスやチャルメラの様な管楽器を彷彿させつつも刺激的、破壊的で狂暴なサウンドが特徴である。1962年のThe Venturesの"The 2000 Pound Bee"、Phil SpectorプロデュースのBob B. Soxx and The Blue Jeansの”Zip-A-Dee-Doo-Dah”あたりが最初期に使われた例で、その後はThe Rolling Stonesの"Satisfaction"(1965年)、The Beatlesの"Think for Yourself"(1965年 これはベースに使用)などで使用され、60年代後半になると非常に多くの使用例がある。

  全波整流回路型のファズはRoger Mayer作Octaviaと、日本のHoney社のファズBaby Cryingが代表的なもので(両者が同時期に全波整流回路を採用したのは偶然のようである)、強烈で破壊的な歪が得られる一方、ギターのトーンを絞ってハイ・ポジションで演奏すると1オクターブ上が強調されたサウンドが得られる面白さがある。Octaviaを使用したJimi Hendrixの"Purple Haze"(1967年)のソロはその代表的な例である。一方HoneyのファズBaby Cryingは、回路はほぼそのままにShin-ei、Uni-Vox Super Fuzz、Shaftesbury等々、地域や流通経路によりブランド名称を変えたりコピー品も出回りまくり(その詳細はこちらを参照)、The WhoPete TownshendGenesisSteve HacketSoft MachineのベーシストのHugh HopperRadioheadのベーシストのColin Greenwood等がこのタイプのファズを使用した狂暴/刺激的な音の演奏を残している。また弾き方によってはチャルメラ的な音色がアジア地域の音感覚にもフィットしたのか当時の国内は勿論、台湾や香港などのポップスでも良く聴く事が出来る。例えばこのSpotify Song Listで紹介しているテレサ・テン心酸孤単女(1971年、森進一の港町ブルースの福建語カバー)ではいかにもファズという音がフィーチャーされているが、その音をよく聞くと1オクターブ上の音が非常に強調されており全波整流型ファズを使用していることが推測される。

 なお、サイケデリックの時代を過ぎた1970年代に入るとその刺激的、破壊的な音の使用頻度は減ってゆき、ギターアンプをオーバードライブさせたナチュラルなディストーション・サウンド、ないしその感じの再現を狙った音的にも回路的にもより洗練されたディストーション・ペダルが主流となっていった。その後の歪んだギターサウンドに関しては、非常に奥深いものでありそれだけで1稿できる程の内容であるが、超定番な事もあり様々な所で話題になっている。私からの情報としては機会を改めてお届けできたらと思う。

Tremolo

周期的に音に強弱をつけて揺らすエフェクト。元々は古いギターアンプの機能の一つとしてついており、The Venturesなど60年代当時のギターインスト系バンドの楽曲でよく確認できる。変調波はサイン波~台形波的な柔らかいものが主流だが、Radioheadの"Bones"のように先鋭パルス的な変調波の使用例もある。またRage Against the Machineの"Know Your Enemy"では矩形波的な変調波をリズムに合わせてスピード変更するというユニークな使い方をしている。The Rolling Stonesの"In Another Land"ではボーカルに、Yesの"Starship Trooper"ではベースに掛かっている。またSly and the Family  Stoneの"Que Sera Sera"のようにエレクトリックピアノにも掛けられている例も多く、そのエレピに内蔵されているトレモロ・エフェクトが、変調波の周期をステレオ左右で逆位相にすることで音が左右に飛び交うようになっているケースもあり、これはAuto Panとも呼ばれる(Jeff Beckの"She's a Woman"がその一例)。

 さらにエレキギターのピックアップ切り替えスイッチを手動で高速で切り替えることで音を出したり切ったりするスイッチング奏法も力業による一種のトレモロ効果といえよう(David Bowieの"John I'm Only Dancing"のエンディングなど)。

Chorus / Automatic Double Tracking

このエフェクトの登場背景から話すと、多重録音で一人でユニゾンをして歌や音に広がりと厚みを付けるDouble Trackingの手法はLes Paulらによる多重録音の開拓期である50年代からあり、The Beatlesの初期の作品群でも多用されていた。それをオートマチックにできないものかというJohn Lennonの希望をかなえるべく1966年にアビーロードスタジオのエンジニアのKen Townsendが考案した手法がCHORUSエフェクトの元祖で、Automatic Double Trackingと呼ばれている。これは原音に微妙に音程をずらした(Detuneさせた)音を重ねることで得られる。音程をずらす方法は、ディレイエフェクトの遅延時間を早くしたり遅くしたりすることでドップラー効果を起こすことにより得られる。当時の方法ではテープ・レコーダーを利用したテープ・ディレイでその再生速度を変更することで得ており、数10msec程度の遅延時間を中心に遅延量を微妙に揺らすことで所望の効果を得ていた。またディレイタイムを0~数msecで動かすと後述のFlangerエフェクトになり、ディレイタイムを高速(10Hzとか)で揺らすとVibratoエフェクトにもなり、また違ったサウンドエフェクトの側面も現れる。

 The Beatlesの作品では1966年の"Revolver"より使用されて始めている("And Your Bird Can Sing"、"I Want to Tell You"等のボーカルで多用)。因みにこのアルバムでは曲によって旧来通りの多重録音によるダブル・トラッキングと、Automatic Double Trackingの両方が確認できるのが興味深い(例えば"Here There and Everywhere"や"Got to Get You into My Life"におけるポールのボーカルは間違いなくマニュアル・ダブル・トラッキングである。ADTはいいだしっぺのジョンのボーカルに掛かっているケースが多い)。またボーカルのみならず様々な楽器音の加工に利用されたが、中でも印象的なのはWhite Album収録の"While My Guitar Gently Weeps"でのリード・ギターへの使用だろう。これはリードを弾いたEric Claptonが「そのままの音じゃストレートすぎる。もっとビートルズっぽくしなくちゃ。」との提案で掛けられたとのことである。

 その後、70年代に入るとテープディレイの代わりにBBD(Bucket Brigade Device)という遅延素子を応用し、効果的にもより深くディチューンさせ広がりのあるサウンドにしたボイシングでコンパクトな形で登場し、CHORUSと呼ばれるようになる。PoliceAndy Summersを始め70年代末あたりから非常に有効な使用例が多くでてきて、Princeの”Purple Rain”Pretendersの”Brass in Pocket”、Cyndi Lauperの”Time After Time”などでのクリーンなギターサウンドでコードやアルペジオ弾きに大きな効果を上げている。ディストーションギターにだとBostonの"More Than Feeling"が代表例だろう。ここでは原音と変調音を左右に振る形のCHORUS効果を掛けている。80年代はヒットチャートをにぎわした多くのギターサウンドでCHORUS効果を聴くことができるようになり、遅延素子もBBDからデジタルデバイスによるものが主流となった。またボーカルやギターはもちろん、エレクトリック・ストリング・アンサンブル・キーボードにもその壮大さや広がりを与える上で非常に有効で、Arp社ソリーナなどのサウンドの要でもある。

Flanger

音を微妙に遅延させ、かつその遅延時間を動かした音を原音にミックスして効果を得るという意味で、先述のCHORUS/Automatic Double Trackingと手法的には同じだが、こちらはその遅延量を0~5msecという極めて短い時間で動かしたときに得られる効果で、その櫛型の周波数特性ゆえComb Filterとも呼ばれている。遅延系のエフェクトとはいえ、このくらいの極めて短い遅延時間になると人間的にはディレイやダブルトラッキングではなく干渉による音色変化に感じるようになりCHORUSエフェクトとはサウンド的に大きな違いがある。そして勿論その中間的な遅延量ではCHORUSとFLANGERの中間的なサウンドになる。

 その実践は意外に古く1959年のToni Fisherの"The Big Hurt"ですでに行われている。当時はテープ・プレイヤーを2台用意し、同じものを録音したテープをそれぞれのプレイヤーで同時再生し、片方のプレイヤーのテープリールの縁(=Flange)を弄るなどして再生速度を微妙に動かして双方の相対的な時間差を得たうえで両者をミックスすることで効果が得ていた。(こちらに実演動画あり) 物理的にジェット機が過ぎ去るときに聴けるシュワーンというサウンドと同じ原理である。

 Toni Fisherのあと暫し実践は無かったが、60年代後半のサイケデリックの時代になると実践例がどっと増える。前項で紹介しているAutomatic Double Trackingの副作用でThe Beatlesが"Blue Jay Way"等で使用し(因みにFlangerの名はJohn LennonとGeorge Martinのスタジオでの会話から命名されたとの事である)、Small Facesの"Itchycoo Park"、Jimi hendrixの"Axis Bold as Love"、The Byrdsの"Wasn't Born to Follow"あたりがその代表例だろう。日本では、70年代前半のはっぴいえんどの"抱きしめたい"(エンジニアは、吉野金次)、安西まりあの"涙の太陽"(エンジニアは、行方洋一)あたりが最初期の使用例だろう。またドイツの名プロデューサーで音の空間処理では他の追従を許さないConny PlankもFlangerを非常に効果的に使った人で、Kraftwerkの1stアルバム収録の”Ruck Zuck”(1970年)、Neu!の"Für immer"(1973年)等で強烈な音を残している。

 またRolling StonesのBrian Jonesは1968年にモロッコの民族音楽を現地で録音しフランジャー処理を施した作品を制作し、アルバム"Brian Jones Presents the Pipes Of Pan At Joujouka"として本人の死後の1971年にリリースされた。恐らく短波ラジオ帯で自国に届くフェージングが掛った異国の音楽をイメージしてこの処理したのだろうと思われる。フランジャー効果を聴いた60年代後半当時のミュージシャンには、短波のフェージング現象を想起した人が多かったようだ(当時イギリスではロック・ポップスを掛ける放送がBBCの限られた時間枠でしかなく、代わりに隣国からの短波放送のラジオ・ルクセンブルクなどがロックを良くかけており、それを聴いていたいた若者が多かった)。

 暫くの間は、上述のようにスタジオでテープレコーダー2台利用した大掛かりなシステムが必要で、かつリアルタイムに効果をかけるのではなくミックス時のポストプロダクションで掛ける形だったが、BBD(Bucket Brigade Device)という遅延デバイスの登場により、70年代中盤にEventide社からラックマウントタイプで、その名もずばりInstant Flangerというリアルタイムに効果をかける事が出来る製品が登場。そして1980年頃になると小型エフェクタとしても市場にでまわるようになり、一般化し手軽にライブでのユースも可能となった。現在ではデジタルの遅延回路を使ったものが主流である。

 最後にユニークなフランジャーも2点紹介したい。まずFrank Zappaの”Envelopes"の冒頭のギターでは、周期的に変化するフランジャー効果ではなく、ギターの入力レベル(エンベロープ、と言っても曲タイトルとは関係ないと思うが)に応じてフランジャー効果を変化させている。また上昇、下降感を繰り返すのが一般的フランジャーであるが、Judas Prestの"Turbo Lover"は、曲全体を通して延々上昇してゆくように工夫したフランジャー効果を聴くことができタイトルに相まった表現がなされている。

Phaser

周期的に位相をずらした音を原音にミックスすることで両者が干渉しあうことで得られる変調エフェクト。原理も音もFlangerに近いが、Flangerは音全体を微妙に遅延らせたものを原音にミックスして干渉を得るのに対し、Phaserは、周波数によって位相シフト量が異なる、言い換えると周波数によって遅延時間が異なる音を原音にミックスして干渉を得る。また60年代当時は、Flangerはテープレコーダー2台の大掛かりな装置が必要だったのに対し、Phaserはトランジスタ回路により小型に作ることができた違いもある(70年代後半以降はFlangerも小型化した)。両者の音は、区別がつきにくいケースもあるが、私のイメージだとFlangerはシュワーっと高域にかかるイメージが多いのに対し、Phaserはウワーン、モワーンと低域~中域にかかるイメージが多い。

なお、Flanger効果をPhase Effect / Phaserと呼ぶミュージシャンやエンジニアもおり混乱する方もいるかもしれない。確かにFlangerも位相干渉による効果の一種なのでPhase Effectと呼んで間違いでないと思う。ただエフェクタ市場的には上述のように手法とサウンドの違いで名称を区別するのが一般的に感じる。

 1967年に日本のHoney社が出したPsychedelic Machineというファズと変調エフェクトを複合した機材の変調エフェクト部がその最初期のものと言えるだろう。Psychedelic Machineは当時のドリームマシーンと言えたかもだが、あまり売れず、Honeyは早々にファズ部をBaby Cryingとして、変調エフェクト部をUni-Vibeとしてそれぞれ別個にして売ることにした。その結果、それぞれが各方面で使用される名機となった(HoneyのFuzz - Baby Cryingとその系譜と使用状況に関しては本noteのFuzzの項を参照)。Uni-VibeJimi Hendrixのお気に入りとなり、1969年のウッドストック・フェスティバルでの伝説的な"星条旗よ永遠なれ"のパフォーマンスで聴けるうねったサウンドはUni-Vibeを使ったものであり、ほかにも彼の1969~70年のライブの様々なシーンで聴くことができる。Hendrixは、Flangerが大のお気に入りであったが(アルバムAxis Bold as Love(1967年)、並び特にElectric Lady Land(1968年)で多用)、当時その効果を得るにはテープレコーダー2台の大掛かりな装置が必要であり、かつミックス時のポストプロダクションで掛けるものであり、リアルタイムに掛けるのは困難でライブでは使えなかった。そこにコンパクトなUni-Vibeが登場しライブ用に飛びついたのだろうと思われる。また、Pink Floydの”Breathe”、Robin Trowerの"Sign of Bridges"、はっぴいえんどの"氷雨月のスケッチ"や"無風状態"(など1972年の3rdアルバム収録曲で多用)でUni-Vibeを使ったサウンドを聴く事が出来る。

 一方で70年代に入るとMaestro社、MXR社、Electro Harmonics社が変調波形をマイルドにしたり、掛る帯域を変更する等のボイシングを変え、よりコンパクトな物を出すようになった。それらはPhaserという名称でしられるようになり、様々な音楽でその音を聴けるようになった。その辺はプレイリスト中の楽曲を参照されたい。中でもThe Rolling StonesKeith RichardsはPhaserが大のお気に入りで1978年のアルバム"Some Girls"中の楽曲群では様々なセッティングによるフェイザーサウンドを聴くことができる。またギターはもちろん、エレクトリックピアノにも有効に使われているケースが多い(The Rolling Stonesの"Fool to Cry"、Billy Joelの"Just The Way You Are"、StuffのキーボードプレイヤーのRichard Teeの諸プレイなど)。またシンセサイザー音楽でもよく聴くことができ、Jean Michell Jarreの"Oxgen"、Tangerin Dreamの"Mysterious Semblance At The Strand Of Nightmares"、”冨田勲”の”展覧会の絵~古城”等でのシンセやメロトロンに掛けたうねりのあるサウンドも印象的である。

Rotary Speaker

元々はハモンドオルガンのための変調器付きスピーカーであり、開発者の名前からLeslie Speakerとも呼ばれている。文字通りスピーカーのホーンを回転させてドップラー効果による変調を得ている。原理的にフェイザーやコーラス/フランジャーな要素があるが、それらと違うシグネイチャーなサウンドでもある。ハモンド・オルガンにかけて使うのが正統な使い方であるが、Leslie16並びFender Vibratoneというギター向けの小型版のレスリースピーカーが60年代後半に出たこともあり、サウンドの拡張に躍起になっていた当時のミュージシャンたちはギター、ピアノ、ボーカルなどにもつかうようになり(尤もオリジナル開発者のレスリー氏はオルガン以外に使われることをあまり良く思っていなかったそうだが・・・)、ポップスのサウンド・バリエーションに大きく寄与したといえるだろう。ギターでは、The Beatlesの"Let it Be"(Single version)や"Old Brown Shoe"のギターソロ(他にも1970年前後、George Harrisonはレスリーを多用。映画Get BackでApple Studioでレスリーを使用しているシーンが多く観れる)、Jimi Hendrixの”Angel”、"Drifting"、Creamの"Badge"、ピアノに掛けた例ではThe Beatlesの"Don’t Pass Me By"(この曲ではスネアドラムにも掛かっている)や、Pink Floydの”Echoes”の冒頭のピーンという音から始まる部分などがある。またユニークな所ではBlack Sabbathの"Planet Caravan"やAlain Toussaintの"Southen Night"ではボーカルに掛けられている。勿論、正統な使い方としてJimmy SmithProcol HarumMathew FisherPink FloydRick Wrightらのオルガンプレイヤーたちの使い方も注目したい。オルガンだと盛り上げ効果の感があるが、オルガン以外の音に掛けるとそれとは相反したなんとも幽玄だったり、幽霊なイメージの音になるのが興味深い。

Wah / Filter

Wah Pedalは、バンド・パス・フィルターの中心周波数をフットペダルで動かすことにより文字通りワウワウという感じの効果が得られるエフェクトである。60年代中盤、当時のVOX社のギターアンプに入っていた機能でMid-Range-Boost(MRB)という3段階の中域ブーストによるトーン切り替えスイッチがあり、これをスイッチ切り替えでなくボリュームで連続的に変化させた所、非常に面白いサウンドが得られたことに端を発しているらしい(こちらを参照)。67年初頭にVOXより販売され、トランペット奏者で1920年代よりそのベルにミュートをバタバタさせることで音色変化を作り出していたClyde Mccoy音との類似性にちなんで、Vox Clyde McCoy Wah-Wah Pedalという商品名で販売した。(つまりMccoy自身は当時健在だったが、ペダルの使用や開発とは関係が無かった。今やどちらかというとワウ・ペダルで名前だけが知られるMccoyだがトランペット演奏はこんな感じで成る程と頷くと同時に素晴らしい)  そして、Frank Zappa、当時CreamにいたEric ClaptonJimi Hendrixらがいち早く取り入れ、Creamの”Tales of Brave Ulysses”(1967年)に於ける使用が録音作品での初出と言われている。翌68年以降は他のギタリストもこぞって使うようになった。またClyde McCoy本人は使わなかったものの、やはり以前よりミュート・トランペットを良く披露していて、60年代末期当時はバンドをエレクトリック化し、自身も電化したトランペットを吹いていたMiles Davisは、トランペットにワウを掛ける事を多用し、また当時のMiles Bandのメンバーもそれぞれの楽器でWahを使用している。

 Cry Babyという商品名のワウもあるように、歪と相まって泣き叫ぶような表現(例:Hendrixの"VooDoo Child"、Funkadelicの"Margot Brain")や、カッティングプレイなどにリズミックにフットコントロールし掛ける事によるファンキーなプレイ(例:Jeff Beckの"Got the Feeling"、David Bowieの"1984")、ゆったりと動かしたりディレイと併用することで浮遊感を出すプレイ(例:Gongの"Sold to the Highest Budda"の後半JAM部分と”Castle in the Clouds”、Soft Machineの"Slightly All the Time"の後半のオルガン)、小まめに足を動かしてのトレモロ表現(例:Pink Floydの"Stay")などプレイヤーのコントロールのし方で様々な表情のプレイを聴くことができる。またFixed Wahといって好みのポジションで止めた状態で音を歪ませ、木管楽器の様だったり、或いは沸騰したかのような熱量のある歪サウンドを出すプレイヤーも多く、Led Zeppelinの"Communication Breakdown"、David Bowieの"Ziggy Stardust"(Mick Ronson)、Michael Schenkerの"Attack of the Mad Axeman"、Flower Traverin Bandの"Satori Part2"(石間秀機)、Guns N' Rosesの"Sweet Child o Mine"などの例が挙げられる。またFrank Zappaはピエゾ・ピックアップ搭載のギターにワウをかけて他とは一味違ったアコースティック・ライクなワウ・ギターを"Twenty Small Cigarettes"、”Grand Wazoo”、"Blessed Relief"等の曲で披露している。

 更にギター以外にもベース、エレクトリック・ピアノ、オルガン、クラヴィネット、トランペット、サックス、エレクトリック・バイオリンなど、60年代末以降のエレクトリック楽器奏者でサウンド拡張に貪欲な人はこぞってワウペダルを使用した。また当時のギタリストは、アンプで歪ませていた事もあり、ワウ→歪の順番が一般的であるが、歪ペダルを使って、歪→ワウの順にするとシンセサイザーチックなサウンドになり、また面白い。因みにワウのバンド・パス・フィルターをローパスフィルターにしレゾナンスを強めにしたりするとよりシンセチックなサウンドになる(Radioheadの"Paranoid Android"等)。アナログ・シンセのフィルター部は主にレゾナンス付きローパスフィルターが使われているからだ。

 またWahが登場する前の60年代前半、ギターのトーンコントロール相当のマイルドな掛かりのフィルターをフットペダルでコントロールして音色変化させたケースもあり、Chet Atkinsの"Boo Boo Stick Beat"、Michael Coxの"Sweet Little Sixteen"、Dave Berryの"Cring Game"などで聴く事ができる。 

 なお冒頭で記したWahの基となった当時のVoxアンプに搭載されていたMid-Range-Boost(MRB) スイッチだが、The Beatlesは"Birthday"でエレクトリック・ピアノをMRB搭載のVoxアンプに入力し、MRBを音符に合わせて切り替えることで独特な効果を得ている(こちらを参照)。
 もう一つ番外編な話だが、Pink Floydの"Echoes"の中盤で聴けるカモメが鳴いているようなサウンドは、VOXのワウペダルのInとOutを逆接続することで発信器として動作してしまうことを逆手に利用したもので、ギターのボリュームを調整することで鳴き加減をコントロールしている(こちらを参照)。

Auto Wah / Envelope Filter / LFO Filter

ワウのバリエーションとして、前項で記したフットペダルによるコントロールでなく、入力のレベルによってフィルターのカットオフ周波数を可変するオート・ワウ(エンベロープ・フィルター)がある。ギターへの使用では、The Whoの"Going Moblie"、Frank Zappaの”Inca Roads”、U2の"Mysteryous Ways"、Greatful Deadの"Estimated Project"、Metallicaの"I Dissappear"等がある。またQueenの”I Want to Break Free”はスタジオ版ではシンセソロの部分をライブではオート・ワウを噛ましたギターとなっている。

 ベース奏者もそのファンキーでシンセチックなサウンドで愛用者が多く、Bootsy CollinsRed Hot Chili PeppersFreaは、様々な曲でエンベロープ・フィルタをヘヴィに活用している。他にもDavid Bowieの"Fascination"ではサックス(David Sanborn)とベース(Willie Weeks)に、Brecker Brothersの"Inside Out"では、Michel Breckerサックスにといった例がある(因みにこの曲ではRandy Breckerのトランペットにはペダルワウが掛けられている)。

 またLow Frequency Oscilator(LFO)で周期的にフィルターのカットオフ周波数を動かす手法も面白い(Weather Reportの"Orange Lady"や、Breadの"If"The Whoの"Won't it Get Fooled Again"、Red Hot Chili Peppers"Falling into Grace"等)。またフィルターのカットオフ周波数を一定時間毎にランダムに切り替えるRandom Step Filterもシンセチックで面白くFrank Zappaの"Black Napkins"、"Ship Ahoy"、Brian Enoの"The True Wheel"などで聴くことができる。

Talking Modulator、Talk Box

口腔に音をくべ、口腔の形を変えて共鳴させた音をマイクで拾うことにより楽器がしゃべっているような効果を得るTalking Modulatorの歴史は古く1930年代までさかのぼる。Vocoderと極めて似た効果が得られるが、Vocoderは周波数帯域ごとに分析して音を合成するという複雑なプロセスをしているのに対し、こちらはある意味原始的な手法である。その初期のものとしてSonovoxがあり、これは喉に音振動するアクチュエータを押し当て口腔で音を共鳴させそれをマイクで拾う手法を使った1940年のパフォーマンスがyoutubeで幾つか確認でき(動画1動画2)、ギタリストのAlvino Rayは、ペダル・スチールギター演奏に応用した(動画)。 Sonovoxは演芸と医療の両方面向けに考案された物との事で、医療面では声帯を失った人のために使われた。

 暫くするとスピーカーの音をホースで伝えて口腔に送り込み、口腔内で共鳴させた音をマイクで拾うという手法も出てきた。これが現在Talking Modulator、ないしTalk Boxと呼ばれるものである。その初期のパフォーマーとしてペダル・スティール・ギタリストのPete Drakeが挙げられ、彼は60年代に"Forever"というTalk Boxを使用したヒット曲を出している(youtubeにパフォーマンス映像あり)。因みにあるセッションでPete Drakeのパフォーマンスを観て感化されたのがギタリスト兼歌手のPeter Framptonで、彼は1976年にTalk Boxを使った"Show Me the Way”という大ヒット曲を出した。Talk Boxの代表的なユーザーとして、ギタリストではJeff Beck、Jeff Baxtor、渡辺香津美、Joe Perry、Joe Walsh、Ritchie Sambola、シンセキーボードに利用した例ではStevie Wonder、ZappのRogerらが挙げられる。

 因みになぜ当初あったSonovoxタイプの手法は音楽界では見られなくなり、ホースタイプのTalk Boxが音楽界で標準になったのかはよくわからない。ただSonovoxの手法は今でも声帯を失った人の補助機器に使用され続けている。またベトナムにはアコースティックなトーキングモジュレーター弓奏楽器というべきクニィという大変面白い楽器があるので興味ある方はぜひチェックして頂きたい(youtube)。

Vocoder

Vocoderはマイク入力と楽器入力を備え、楽器を弾きつつマイクに向かって歌ったり喋ったりするとその音声に応じて楽器音が変調されるというものである。いにしえの音声合成技術、音声圧縮技術を応用したもので、元々は第二次世界大戦以降の政府高官や軍事関係者の通信時の秘話装置として利用されていた技術の音楽方面への転用である。ただ大掛かりな装置だが秘話装置としては性能が未だいまいちで、そのロボットがしゃべっているようなボイスに使用者は気持ち悪るがったりイライラしたという(イギリスの首相チャーチルらの談)。そんな奇妙なボコーダーサウンドを逆手に取り音楽的に利用しようと考えた人が現れたのは1960年代末の事で、アメリカの電子音楽のパイオニアBruce Haackは、1970年の自身のアルバム"The Electric Lucifer"中の"Electric to Me on"で自作ボコーダーによる演奏を披露しておりこれが初出と思われる。本格的に世に知られるようになったのはKraftwerkの1974年作の"Autobahn"あたりからであろう。Stevie WonderHerbie Hancockもうまい使用をしている。またそのロボットチックなサウンドゆえ、KraftwerkYMOをはじめとする1980年前後のテクノポップには非常マッチしたといえよう。テクノに感化されたNeil Youngのアルバム"Trans"(1982年)での使用も特筆すべき点である。なお、音としては前項のTalking Modulator/Talk Boxに非常に似ており、1960年代以前の楽曲でロボットボイスがフィーチャーされている場合、それはVocoderではなくTalking Modulatorによるものと言えるだろう。

 また90年代半ばになると音程を矯正するエフェクトが出現しカラオケ業界を中心に使用されるようになり、これが洗練されたものがAuto-Tuneとして知られるようになる。これもVocoderの一種として語られることがあるが、先述の旧来のVocoderとは大分質感が異なる(より人声に近づいている)のと手法的にもFFT技術などを応用した全くの別物である。Auto-Tuneは音程を修正する用途だけでなく、音程をクオンタイズする事で新感覚なロボットボイスを表現するエフェクトとして90年代末期より積極的に音楽プロダクションに使われるようになる。1999年のCherの"Beleive"や、Puff Daddy(Diddy)のアルバム"Forever"に収録の楽曲あたりからメジャーシーンで使われ始め、2001年のDaft Punkの"One More Time"は代表曲と言えるだろう。今日ではUSヒットチャートの曲を適当に聴いているとヒップホップ系の楽曲を中心に多々その使用を確認することができる。私的に90年代後半以降に出てきた新しいタイプのエフェクトで最も成功、活用されているものと感じている。

E-Bow

ギターのブリッジ付近の弦に近づけることで、ギター弦を励振させて持続音を出すツールである。これまで紹介してきた音声信号を電気処理するエフェクターとは異なり、弦に電磁力で物理的に働きかけるものであり、擦弦楽器の弓(Bow)に掛けて、Electric Bow→E-Bowとネーミングされている。原理的にはフィードバック奏法としても使われるエレクトリック・ギターの弦振動とスピーカー間のフィードバック現象を応用したものと言えるかと思うが、アタックがない分その音の質感はだいぶ異なり、バグパイプや笛、あるいは文字通りバイオリンやチェロを想起させる演奏を多く聴くことができる。Wikiによると1969に開発され、1974年のGenesisの”Carpet Crawlers”で使われたとある。その後、Frank ZappaJapanBig CountryU2Pink Floydらが印象的なプレイを残している。私が在籍するWananbani-en種石幸也は"Floating Clouds"という曲でベースをE-Bowでプレイしている。

Spring Reverb

文字通り張ったバネ(スプリング)にアクチュエータで音振動を与え、その共鳴を電気的にピックアップし残響効果として扱ったもの。バネの長さや質により、チープな響きからゴージャスな響きまであるが、一般的には40年代に出現したハモンドオルガンや、50~60年代以降のギターアンプや電子オルガン類に内蔵されている30~50cm程度のバネによるスプリング・リバーブが知られたところだろう。(因みに筆者は1m程度のバネによる非常によく響くスプリングリバーブを所有している→こちらのページの2番目の楽器を参照) スプリングの特性ゆえアタックでピチャンという音がするのが特徴で、The AstronautsThe Venturesなどのエレキバンドはそれを積極的に生かした演奏を披露している。またジャマイカのダブのオリジネイターのKing Tubbyはそのミックスにおいてテープディレイと共にスプリングリバーブ音の非常に効果的な使用をしている。

 プロ仕様で場所も喰うPlate Reverb残響室(Echo Chamber)にくらべ、ずっと安価、小型にできることもあり、80年代半ばくらいまではアマチュアにとってリバーブといえばスプリング・リバーブが定番だった。80年代末あたりからはデジタル・リバーブが安価になったためスプリング・リバーブは過去のものとなった感があったが、今世紀に入ったくらいからその特徴的なサウンドが再評価されてきて、本物のスプリングを使用したものは勿論、デジタルで再現したものも出てきている。

Pitch Shifter / Whammy Pedal

Pitch Shifterは、入力を一定な音程量ピッチシフトさせるエフェクトであり、CHORUSで利用されているドップラー効果による音程変化を応用し、ずっと同じ一定な音程シフトを得るよう工夫したものである。シフトした音のみを利用するだけでなく、原音と混ぜて一人二重奏を演出するのも効果的である。

 歴史的な面から話すとノンリアルタイムな処理であれば、テープの再生/録音時の回転数を変えることでピッチ変化が得られ、Les Paulは"Nola"等の1950年代の作品で高速再生によるピッチ上げ効果を既に多用しており、音色変化、高速演奏の両面で効果を上げていた(Double Speed Gutarなどと称されていた)。The Beatlesの"In My Life"(1965年)の間奏(ピアノの倍速再生)や、フォーククルセーダースの"帰って来たヨッパライ"(1967年)もその応用である。これらの場合、再生速度を変えるため音程だけでなくテンポも一緒に変わる事を考慮して楽曲を制作する必要があった。

 そしてリアルタイムに入力を音程変化処理できるピッチシフターは、70年代半ばに出現した。その黎明期の使用例として、Frank Zappaの"Purple Lagoon"(1977年)でのMichel Breckerサックス・ソロとRandy Breckerトランペット・ソロの双方に、そのBrecker Brothers自身も"Some  Skunk Funk"(1978年)に、Paul McCartney & Wingsは"To You"(1979年)のギターソロに、Yesは"Owner of the Lonely Heart"(1983年)のギターソロに・・・といったものがあり、いずれも強力な名演と言える。Residentsとの共演などでも知られるギタリストSnakefingerは1979年に出したソロアルバムChewing Hides the Soundに於いてPitch Shifterを最大限に活用し、彼のユニークでアブノーマルな世界作りに大きな役割を果たしている。トランペット奏者のJon Hasselもピッチシフターを巧みに使って独特なトランペット音色を得ている。また1980年ころのドリフターズのコントで志村けんが女性歌手が歌うときにその音程をピッチシフターでめちゃめちゃにして弄るというものがあったのも思い出深い(youtube)。

 また同じく黎明期のユニークな使用例としてSteve Hillageのアルバム”L”(1976年 プロデュースはTodd Rundgren)に収録の楽曲"Electric Gypsies"のエンディングのスネアドラム音に掛けられているのが挙げられる。ここでは低い音程方向に設定したピッチシフターの出力を、入力にフィードバックさせることで時間と共にピッチが下降するスネアドラム・サウンドを得るというシンセサイザーチックな利用がされている。この手法を発展させ全編に使用したのがDavid Bowieの1977年のアルバム"Low"で聴けるドラムサウンドで、ここでは更に音にゲートをかけて音の尻尾を切るという過激で凝った音つくりがされている。Hillage氏自身が「Bowieの”Low”のドラム音は私の"Electric Gypsies"での手法を応用したものだ」と言及しているインタビュー記事(THE EFFECTOR BOOK Vol.13 シンコー・ミュージック・ムック)があり、確かに両者は非常に似ている。この"Low"のドラム音はニューウェーブ以降のドラム・サウンド、80年代に隆盛するゲート・ドラム・サウンドに大きな影響を及ぼした。 

 1990年ころになるとピッチシフターのピッチシフト量をフットペダルでコントロールできるようにしたWhammy Pedalが出現。Pink FloydDave Gilmourや、PanteraDimebag DarrellRadioheadJohnny Greenwoodらが名演を残している。またSteve Vaiの名人芸ともいえるWhammy Playも必聴である。いずれもプレイリスト中の曲を参照されたし。

Octave Effect

入力の1オクターブ下の音程の音を出すエフェクトで、Octave BoxOctaverなどとも称される事もある。コンセプト的には先述のPitch Shifterに似ているが、ドップラー効果の応用によるピッチシフト音ではなく、こちらは入力音を分周器に通し得られる1オクターブ下(ないし2オクターブ下)の矩形波をローパスフィルターで丸い音にして、原音にサブベース音を加えるような用途で使われる。なお分周器を使っている都合、和音を入力すると濁った音が出力されるので、基本単音弾きで使用する。(ただ近年はそれを解消したタイプのものもある)

クリーンサウンドで使えば、ウェズ・モンゴメリーがやっていたオクターブ奏法のようなサウンドが得られる。一方、このエフェクトの後にディストーションを掛けると、重厚かつエグいディストーションギターサウンドが得られる。以下のセレクションはそのような歪ませたタイプのサウンドが中心となっている。

なお、当初管楽器向けもに作られていたという話もあり、亡くなる直前のJohn Coltraneがこのエフェクトに興味を示していたという話が残されているのと(書籍”コルトレーンの生涯―モダンジャズ・伝説の巨人”を参照)、実際当時Frank Zappa & Mothers of Inventionの管楽器担当のBank Gardnerは、トランペットにこのエフェクト掛けた演奏を残している。ここではZappaの”King Kong”(1968年)を選んでみた。

Ring Modulator

リングモジュレーターは、入力した音程を足し算方向と引き算方向の両方向に一定周波数シフトさせるエフェクター(ゆえにDouble Side Band Modulationとも呼ばれる)で、前述のピッチシフターのように掛け算方向にシフトするものではないため、(一般的に整数次倍音で構成される)楽音は、非整数次倍音なサウンドに変貌し、入力音程からは予測のできない金属的な響きのサウンドとなる。その性格上、音響的、効果音的、ないしパーカッション的なアプローチをした使われ方が多いと思われがちだが、控えめなシフト量にしある程度メロディを残しつつもプッシュホンのようなサウンドでアウトさせた雰囲気を演出しているケースも多い。原理は簡単で、入力にサイン波を掛け算することにより実現できる。そのサイン波の周波数分、足し算方向と引き算方向にシフトした音程のサウンドが得られる。その基本回路の主要部分にリング状のダイオード・ブリッジを使用していることからリングモジュレーターと呼ばれている。

 非常に古くからある物で、1950年代以降の映画の音効(Sound Effect)や、20世紀半ばの現代音楽の分野で早くから使われていた。初期の使用例として、Forbidden Planets - Main Theme(1956年)、Karlheinz Stockhauzenの"Gesang der Jünglinge(少年の歌)"(1956年)、"Kontakte"(1960年)等々の電子音楽作品、Delia Derbyshireの"Doctor Who"(1963年)などがあり、シンセサイザー登場前の未知なサウンド作りの要として多用されている。

 ロック~ジャズ~フュージョンでは、Black Sabbathの"Paranoid"(1970年)のギターソロ中で左に通常音、右にリングモッドでややアウトさせたサウンドを配置している。また同アルバム収録の"Iron Man"ではOzzy Osboneの声に掛けロボット感を演出している。Frank Zappaの”Big Swifty”(1972年)ではGeorge Dukeがエレクトリックピアノに掛けた金属的でパーカッシブなプレイを披露している。Jeff Beckもうまい使い手で"Goodbye Porkpie Hat"(1977年)での要所にコブシを掛ける様な使い方や、Liveアルバム収録の”Earth(Still Our Only Home)”(1977年)のソロでは派手な活用をしている。United States of Americaの"I Won't Leave My Wooden Wife for You”(1968年)では間奏でバイオリンと思わしき楽器に派手に掛けたSFチックなプレイが聴ける。一方、Wayne Kranzの"Left it on the Playground"(2009年)は曲全体がリングモジュレーター大会となっている。

 またMiles Davisのバンド、ないしそこにいたミュージシャンの使用も目を引く。John Mclaughlinは、Mahavishnu Orchestraのアルバム"Visions of Emerald Beyond"(1974年)の要所で使用しており、特に”On the Way to the Earth”は、曲の前半全てにリングモジュレーター・ギターをフィーチャーし、非常に効果的に使用している。Joe Zawinulは、Weather Report1st Album(1971年)においてエレクトリックピアノに多用。Chick Coreaは1970年頃のMiles Band在籍時やはりエレクトリックピアノに多用している(Play ListではMilesのFilmoreでのライブから"Directions"(1970年)をセレクトした)。またギタリストのPete CorsyはMilesの”Agharta”(1975年)でリングモジュレータを使用。CoreaもCorsyもMiles Bandではリングモジュレーターで白熱した演奏に拍車をかけている。

Guitar Synthesizer

シンセサイザーは、60年代後半にMoog社が出した電圧制御型のものが70年代になり徐々にポップミュージックのジャンルでも使われるようになったが、そこでギターの音程を電圧に変換し、シンセサイザーを駆動させる形で70年代前半から実験的にギターシンセサイザーが使用されている例が確認できている。例えばPink Floydのビデオ作品"Live at Pompeii"では、アルバム"Dark Side of the Moon"制作時の録音風景映像(1972年)があるが、そこでギターをEMSシンセサイザーに入力し、ギターを発振音に変換して演奏しているシーンがある。ただしアルバムではその音は採用されなかった様子。同時期、Brian EnoもEMSシンセサイザーの熱心な愛用者で、1973年の"Here Comes Warm Jets”や、1975年の”Another Green World"といったアルバム中の楽曲の幾つかではギターをEMSシンセサイザーに通してプロセスされたサウンドが聴くことができる(Snake Guitar等様々な名前でクレジットされている)。Enoは、David Bowieの"Low"や"Heroes"(共に1977年)といったアルバムでもこの手法を使いギターをシンセサイズしたサウンドをクリエイトしており、特に"Beauty and Beast"、"Blackout"あたりの強烈にシンセサイズされたギターサウンド(ともにアルバム”Heroes”収録で演奏はRobert Fripp)は印象的である。

またEMS社はやはり70年代前半にSynthi Hi-Fliというエレクトリックギター向けの複合シンセ・エフェクトをリリースしている。これは歪、エンベロープやLFOで中心周波数を変えるフィルター、リングモジュレーター、フェイズシフター、コーラス、ビブラートといったエフェクトの複合体で当時としてはかなり多彩で画期的なマルチエフェクターに感じる。発振器はついてない感じだが、設定によって常套的なフェイズ、コーラスサウンドから、非常にアグレッシブでシンセティックなサウンドまで得ることができる。これを使った例として、Pink Floyd"Any Color You Like"(高速なLFOで変調したフェイズ)、Todd Rundguren"Initiation"(リングモジュレーター、フィルターetc)、Genesisの"Counting Out Time"(コミカルなビブラート)、Rolling Stonesの”Time Waits For No One”(フェイズ&フィルター)などがある。

 一方、日本のRolandは、ギターシンセサイザーに特化したGR-500を1977年にリリースしており、Steve Hillageの1978年のアルバム"Green"ではこのギターシンセが全面的に使われている(Wikiより)。Steve HackettもGR-500ユーザーでアルバム”Please Don’t Touch”で使っている(当時のインタビュー記事1記事2)。またBowieの1980年の”Ashes to Ashes”のコーダで聴けるソロとレイヤー音もGR-500による物である。 またARP社は70年代末にAvatarというギターシンセサイザーを作り、普及はしなかったもののPaul Mccartney & Wingsのアルバム"Back to the Egg"(1979年)中の"Reception"等、ごく少数の録音が残されている(もっと使われるべき音だったと感じる)。KORGは、 X911というギターシンセサイザーを1980年ころリリースしておりフュージョン系のギタリストの間などで活用されたとの事である。

 Rolandはその後もGuitar Synthesizerの開発を継続し、80年代初頭に出したGR-300は、当時のPat MethenyKing Crimsonのアルバムでそのシグネイチャーなサウンドを多く聴くことができる。日本だと渡辺香津美(Spotifyにないが80年代のMoboシリーズのアルバムで多用)や、川崎燎もギターシンセサイザーを大いに操ったギタリストである。更にRolandは80年代半ばになるとG-707というネックとボディの間にスタビライザー(現振動の安定性を狙っている)を付けたギターと、GR-700という音源部の組み合わせによるギター・シンセ・システムをリリースしている。当時Steps Aheadというフュージョン・グループが良い演奏をしている動画がyoutubeにある。またAlan Holdthworthは、80年代後半にでたSyntaxeというギター型のコントローラーも使用していた(デモ動画)。これは、弦振動する楽器としてのギターからは離れたもので、ギターの弾き方で演奏する"シンセサイザーのコントローラー楽器"だった。

 その後、各社よりPCM音源をコントロールするギターシンセサイザーなどより高性能なものが色々出た。ただあくまで個人的な意見であるが、ギターのテイスト(スライドやビブラート等の奏法)を反映つつもシンセサイズされたサウンドをクリエイトするのがギター・シンセサイザーの魅力であり、例えばギターでまんまピアノな演奏するといった事に魅力は感じられないかな・・というのはある。

Electric Sitar

エフェクトではなく特殊ギターに入るが(電気的でない物理的なエフェクターを付けたエレキギターとは言えるか)、ユニークなギターサウンドとして紹介したい。インドの楽器シタールには、ブリッジに弦振動をビビらせるジャワリという機構があるが、これをエレクトリック・ギターにつけてシタール風のサウンドが出るようにしたものである。弾き方はギターと同じでOKであり、正しくはエレクトリック・シタール・ギターというべきものであろう。60年代後半にセッションギタリストのVinnie BellDan Electro社と協力して開発したもので、Vinnie Bell自身このギターのデモンストレーションともいうべきアルバムをリリースしている。その後、多くの楽曲で使用されているが、因みにモロにインド風な楽曲や演奏での使用例は思いのほか少なく、インド風楽曲という事にこだわらず、ソウル、プログレ、ポップ、ロック、ハードロック、メタルなど様々なジャンルの楽曲でオリエンタルな音色を加える形で使われているケースが大半なのが興味深い。中でもStylisticsDelfonicsといったフィラデルフィア・ソウル勢の使い方がオシャレに感じる。(なおThe Beatlesの"Love You, too"、 "Within You Without You"、The Rolling Stonesの"Paint it Black"のようなモロにインド~中東インスパイアな楽曲は本物のシタールで演奏されている)  

逆回転 Tape Reverse Effect

テープの逆回しは、オープンリールのテープユーザーであれば、意図的に逆にテープをセットしたり、うっかりセッティングを間違うことによりハプニング的に聴いたであろうことは容易に想像できる。それをただの間違いと思うか、面白いと思い音楽的に使うことにトライするかが分かれ道だったといえよう。古くは現代音楽シーンでテープを使った音楽で実践されており、1948年頃からフランスのPierre SchaefferPierre Henryらが、日常の生活音などの具体音をテープレコーダーに録音し、それを逆回転など様々なデフォルメ再生したものを編集し組み立てる音楽、ミュージックコンクレートを始めた。英国では、BBCのRadiophonic WorkshopにいたRon GrainerDelia Derbyshireもそういった実験を行っており、テレビ番組Doctor Whoのテーマ曲(1963年)で逆回転サウンドを採用している。その後、やはりスタジオでのハプニングでテープの逆回転サウンドを聴いたThe Bealtesのメンバーはそれを音楽的に応用できないかを模索する。プロデューサーのGeorge Martinは、1962年に先述のBBCのRadiophonic Workshopに関わり楽曲を制作していた事もあり、そういった実験に寛容だった。結果1966年のアルバム"Revolver"以降、いくつかのビートルズ作品で印象的な逆回転サウンドがフィーチャーされており、私的に異次元に飛ばされるかのような感覚を覚えた。また同時期にJimi Hendrixも逆回転サウンドに飛びつき、1967年のデビュー作に入っている"Are You Experienced”も強烈な印象を残す。Hendrixは、その後も"Castle Made of Sand" ,”Drifting”といった楽曲で洗練度を高めた逆回転の名演を残している。またKing Crimsonも"Book of Saturday"(Album"Larks Tongues in Aspic"収録)や"Ladies of the Road"(Album"Islands"収録)など逆回転ギターの名演が多いのでぜひチェックして頂きたい。個人的にぱっと思いつくのはこのあたりの時代の楽曲だが、よく思い起こしたり、調べているうちに、現在に至るまで様々な楽曲で使用されていることを知り、このリストも3時間を超えるものとなった。

 またバリエーション効果で、Led Zeppeinの1st Album収録の曲の幾つか、例えば"You Shook Me"のラストあたりでは、逆行させた状態でリバーブをかけてミックス録音し、それを順方向再生にすることで得られる逆行リバーブ(ボーカルに掛かっている)を聴くことができる。ギターにかけた同様の効果がThe Rolling Stonesの”You Got a Silver”(Album”Let it Bleed"収録)でも聴ける(手掛けたエンジニアはZep、StonesどちらもGlyn Jones)。同じ手法でボーカルに逆行ディレイエフェクトをかけた例がDavid Bowieの"Holy Holy"で確認でき、両者とも本リストの中に入れておいた。

 基本的には録音作品ならではのエフェクトであるが、一定時間録音しその区間をリアルタイムにディレイ逆再生するReverse Delay Effectがデジタル系のディレイエフェクトの1バリエーションとして存在する。完全にコントロールを効かせたプレイは困難だが、200~400msecくらいに設定すれば旋律をあまり崩さずにかなり近い雰囲気を出す事が出来る。田畑満の"Ah Huh"は、Reverse Delay Effectをうまく使った一例である。

参考サイト・文献

Tone Bender Time Line(Part1) Tone Bender Time Line(Part2)
Tone Bender Time Line(Part3) : 英国ファズTone Benderを軸に展開するファズの歴史。非常に興味深い話の連続で、エフェクター・マニアのみならず、1960'sブリティッシュ・ロックファン必見のサイトでもある。

UNIVOX SUPERFUZZ (FROM THE 70S): HISTORY : Honey FuzzとUni-Vibeの基となったHoneyのPsychedelic Machineの系譜のFuzzが多くの写真と共に書かれている
Honey~Shin-eiの伝説

Wikipedia - ADT(音響機器)
Wikipedia - Automatic Double Tracking
Wikipedia - Flanging
Tape Flangerの実演動画
Wikipedia - Phaser

自伝 鈴木茂のワインディング・ロード : はっぴいえんどの3rdアルバムでUni-Vibeを使ったエピソードがある
音職人・行方洋一の仕事 : 日本で最初期にFlangerを使った話で安西マリアの"涙の太陽"でTape Flangerを自作し使ったエピソードがある。
開発者・三枝文夫が語るUni-Vibe

ザ・ビートルズ・レコーディング・セッションズ
ジミ・ヘンドリックス レコーディング・セッション 1963-1970 : ビートルズ書、ジミヘン書、ともにADTやフランジャーの開発経緯、その手法、本人たちとの関連について書かれている。
サウンド・マン - グリン・ジョンズ著:60年代より数々のロック名盤を手掛けたプロデューサー、エンジニアの回想録。数々のエピソードはロックファン必読。黎明期のフランジャーや逆行リバーブの使用についての記述がある。

エレクトロ・ヴォイス 変声楽器ヴォコーダー/トークボックスの文化史
The Inventor of the Sonovox
Wikipedia - Talk Box
Wikipedia - ヴォコーダー
Wikipedia - Phase Vocoder
Wikipedia - Auto-Tune

Wikipedia - E-Bow
Wikipedia - Electric Sitar

Wikipedia - Reverse tape effect
Wikipedia - BBC Radiophonic Workshop
Time Beat : George MartinがRay Cathode名義で1962年にリリースした実験的シングルでBBC Radioworkshopにて製作されテープループなどのテクニックを使用している。The BeatlesのRevolverの布石の一つと考えられるだろう。

ロッキンf別冊・エフェクター自作&操作術 : 私にとってのバイブル。80年代の自作本だが今でも有効な部分は多いと思う。

その他

メロトロンを使用した楽曲Spotifyプレイリスト
Electric 12弦ギター使用曲 Spotifyプレイリスト


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