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やっぱりサイボーグになりたい

除菌ウェットティッシュが好きだ。使いすぎてすぐになくなる。買いに行くのがめんどうなのでいっそのこと除菌ウェットティッシュを太ももに内蔵されたサイボーグにしてほしいと思った。戦闘力には欠けるが、戦いが終わり血やら土やらで汚れた仲間達にそっと除菌ウェットティッシュを渡してあげたい。

事前に美容室でカラーと髪質改善トリートメントを予約していた。これでゴワついた髪がツヤツヤのサラサラになればいいな〜とひっそりとワクワクしながら今日美容室に向かった。
初めて行った店だったのだが外装も内装も新しく綺麗でキラキラしていた。わたしは清潔感を何より重視するタイプなのでとりあえずホッとした。女性のスタッフさんから席に案内されると別の男性の美容師さんが現れた。挨拶をされ、どんな感じにしたいのか、どうするべきなのかなどを話していると美容師さんはちょいちょいマスクの上から口の辺りを引っ張っていて、その手で髪を触られるのかと思うと気になった。気にしすぎかな…と思ったが、この美容師さんは髪に関する知識を長々と熱弁するタイプの人で、話が長くなればなるほどマスクがどんどんズレていき鼻がむき出しになる。それをまたマスクをつまんで戻す。また熱弁する。マスクズレる。戻す。わたし気になる。繰り返す。うん。もう喋らんでくれ。まだなにも施術されてないのに帰りたくなってしまった。
熱意があるのはいいことだ、と前向きに捉えようとしていた矢先、美容師さんがわたしの髪をクシでときながら「髪バッシバシですね!!」と言った。直球ディスりに驚きながら「ですね…」と苦笑いするしかできない。洗い流さないトリートメント、オイル、シャンプートリートメント、ヘアパックをしっかりするように言われた。うん、全部してる。してるのだけど、バッシバシと言われてしまったのでこんなに色々やってバッシバシだと絶望的なのでちゃんとしていないバッシバシを演じることにした。「ちゃんとしなきゃですね(汗)」と言いながら変に意識してヘラヘラしてしまった。目だけマリモッコリみたいになっていた。そして髪の毛にはたんぱく質が必要なことやたんぱく質が血や筋肉などを作りその残りで髪と爪を作ることも教えてくれた。うん、ごめん、知ってる。たんぱく質は意識して取ってる。取ってるけれど先程バッシバシと言われたから取ってるのにバッシバシと思われたくなくて「そういうの大事なんですね(汗)」と知らんぷりのバッシバシをキメてしまった。

わたしの髪がバッシバシだからかクシが通らず、頭皮ごと持ってかれそうなくらい髪を引っ張られる。力を入れそれに耐えた。仕方ない、髪がバッシバシなわたしがいけないのだ。しかしこんなに引っ張られたのは記憶にない。痛い。もしかして力尽くでいこうとしてる?最近抜け毛が気になりすぎて育毛剤を検索したんだけどその話したほうがいいかな?めっちゃ引っ張るやん。ハゲる。父親ハゲなんですって言って未来ハゲを匂わせたらやめてくれる?

あまりにも引っ張られすぎて「髪切ったほうがいいですか!?」と美容師さんに聞くと「伸ばしてるなら切らないほうがいい」と言われた。「切ったら伸びないんで」当たり前だ。「いや、伸ばしたいなとは思ってて」と言うと「伸ばしてる理由があるんですか?」と聞かれた。そこに理由がいるのか?と思いながら「なんか伸ばしたくて…(汗)」と言ったけど「願掛けしてます」とか言えばよかったのか?

テンションがなんとなく下がったままカラーもトリートメントも終わりドライヤーで髪を乾かしてもらう。雑誌も見飽きたので鏡を見ていた。最初は見まちがえかと思ったが、美容師さんはわたしの髪を乾かしながら自分の前髪をチャッと触る。触った手でわたしの髪を触る。それを繰り返す。…いやもう前髪気にしないでくれん!?気になるならオールバックかなんかにしてガチガチに固めておいてくれ!!その手めっちゃ気になるから!最初にわたし潔癖なんでって言っとくべきだった?!薄毛気にしがちの潔癖なんですって言えばよかった?!そんな私の気持ちも知らず、美容師さんは思い切り目元を手で横に撫でるように拭った。ベローンて。その手でわたしの髪の毛を触る…まじでやめてくれ。デコの汗も拭った。ベローンて。べっとりと汗がついたであろうその手で髪を触られる。「お前のオイルつけてんじゃねえよ!!」と心の中で叫んだ。ああ、ドライヤーよ、熱よ、全てを吹き飛ばしてくれ。ああしんどい。トドメはマスクを顎までずらし、手で思い切り鼻をこすった。鏡越しに目がバチバチにあったまま鼻をワシャワシャと思い切りこすった。しかもなぜかドヤ顔だった。ドヤ顔で3回こすった。こすりやがった。こすりやがったその手でわたしの髪をワシャワシャ触った。わたしは「最悪だ!!おぉえぇー!(吐)」と心の中で叫んだ。潔癖殺し。コイツは潔癖殺しだ。鏡に映るわたしの目は死んでいた。美容師さんはなんかめちゃくちゃ話していたけど「はぁ〜」とか「へ〜」とか「ほ〜」と返すのが精一杯だった。話の内容は入ってこず、ずっとショックを受け続けていた。こんなことになるなんて。最初から「髪質改善トリートメントwith汗と鼻汁目汁」と書いてくれたらよかったのに。くそ…絶対に…絶対にnoteに書いてやる、などと考えながら飲み干したアイスコーヒーのストローの先をずっと見ていた。

最後はアイロンで仕上げるという。よし、これで全て熱殺菌できることにしよう。一筋の希望が見えた。クッションの上で手をお祈りポーズにし「神様…アイロンが終わるまでにコイツが鼻やデコや前髪を触りませんように」と3回祈った。「お願い…お願い」と念じながら鏡越しにヤツを見ていた。右側、左側、セーフ。あとは後頭部と前髪だ。「お願い…」手をギュッとして祈る。すると後頭部の最後のブロックに手を付ける前に「ちょっとすみません」といきなりアイツは鏡の外へはけていった。しかしわたしは見ていた。アイツがはけながらデコの汗を拭った所を…!!!おい!ギリギリ見えたぞ!ギリギリ鏡に映ってたぞ!!しれっと戻ってきたアイツがわたしの髪を触り「すっごい!ツヤツヤになってますよ。触ってみてください」と言ってきた。0.5秒くらいパッと触って「ア…イイカンジデス」と言うのが精一杯だった。後頭部最後のブロックにアイロンをかけながら「今アイロンをしたのは大事な意味があるので絶対水には濡らさないでくださいね」と言ってきた。「いやあんたのせいで洗い流したいのだが?」と思った。ほんとは前髪を切ってほしかったのだが1秒でも早く帰りたくて「伸ばしてます」と言った。夢のシースルーバングは夏の空に消えた。

前髪のアイロンが終わり、仕上げにシューっとするタイプのスプレーをかけられた。「よし、これを除菌スプレーだと思い込もう」とがんばったが、アイツが鼻をワシャワシャする姿がフラッシュバックして無理だった。仕上がりを鏡で見せてもらったが「ハイ、ダイジョブデス」としか言えなかった。髪型はめっちゃいいのに気分は最悪だ。2万円くらい払ってこんなに悲しいなんて。美容師さんに「それやめてください」って言える勇気がなかったわたしがいけないのか…。

落ち込んだまま家に着いた。洗い流したい気持ちでいっぱいだ。でも濡らさないでって言われたしなぁ…。ため息をつきながらググってみるとやはりシャワーで洗い流すのはよくないと書いてあった。髪はツヤツヤになり髪色も綺麗だった。見た目は気に入ってるし2万が無駄になるのは…。娘との家族会議の結果、除菌ウェットティッシュで拭くことにした。めちゃくちゃ念入りに拭いた。8枚くらい使った。髪にはよくなさそうだが致し方ない。もうこれしかないのである。

やっぱり除菌ウェットティッシュ内蔵のサイボーグになりたい。そしたらアイツが鼻やデコを触った時にそっと除菌ウェットティッシュを差し出してやることができたのだから…。



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