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「クヘェッェェーー(涙)」

飲むと「クヘェッェェーー(涙)」となる飲み物がある。WILKINSONのジンジャーエール(辛口)である。

飲食店でウエイターとしてバリバリ仕事ミスをしまくっていた時代にわたしはコイツと出会った。初めてコイツを飲んだときの感想はまさに「クヘェッェェーー(涙)」だった。
食後のドリンクにコイツを注文するお客様は多く、その度わたしは「クヘェッェェーー(涙)」のやばさを伝えようと「辛味が強めですが…」とお客様にやんわりと警告していた。ちょっと洒落た店だった為なるべくお上品にしなくてはならないのだが、本心では「いやいやお客さん!!これやばいですよ!?これ飲んだら、クヘェッェェーー(涙)ってなりますよ?!大丈夫ですか?!クヘェッェェーー(涙)ってなってもいいぐらい気心知れたお友達と来られてますか?!」と言いたくてたまらなかった。でもそんなことを言ったらGoogleのクチコミに「クヘェッェェークヘェッェェーうるせえ店員がいた」書かれそうなのでぐっとこらえた。お客様からしてみれば楽しいランチ会でのおしゃべりを遮る店員との会話はちょっぱやに済ませたいのである。
「辛くて大丈夫です」とクールに言い放ったお客様が一口飲んで声を出さずにエアー「クヘェッェェーー(涙)」をしている姿を目撃し「あぁ…また被害者を増やしてしまった…」と罪悪感に苛まれながら仕事ミスをしまくる日々を過ごしていたわたし。

その店を退職し数年後、スーパーでなにか飲み物を買おうとしていると、なんとアイツを見つけた。久しぶりの再開になぜが「今の自分なら飲めるのではないか?」という謎の自信が湧いてきた。父親がパチンコで生計を立てていたこともありわたしの中に眠っていたギャンブラーの血が騒ぎ始める。イケる…イケる気しかせん。アイツをカゴにいれレジへ進んだ。

車に乗り、アイツをプシュッと開け、ゴクリと飲んだ。……

「クヘェッェェーー(涙)」

アイツもわたしも何も変わっていなかった。泣いたり咳き込んだりしながらチビチビ飲むけれど3分の1も減っていない。捨てるにはもったいなさすぎる…。すると隣でガリガリ君を食べ終わった娘が「お母さん…わたしが飲む…!絶対飲んでみせる…」と母の敵をとろうとアイツに口をつけた。

「クヘェッェェェッェェーー(涙)」

親子して泣きながら帰ったあの日が懐かしい…。

と、思い出したきっかけが昨日である。スーパーでポカリスエット買うはずがなぜかヤツを握りしめていた。夏の暑さがわたしを狂わせたのかも知れない。

家に帰りヤツを冷蔵庫にしまう。フィットネスバイクに跨り30分…汗だくになり…時は来た…。今なら…今ならイケる!!

プシュッ…ゴクゴクゴク…

「クヘェッェェーー(涙)」

そして今日…さっきヴィックスのど飴を2個舐めて準備は整った。グラスにヤツを注ぐ。これはコーラだと自分を自分で洗脳する。よし…

ゴク…

ん?!ゴク…

はっ!どうもないぞ!さすが260円もするのど飴だ!すげえ!すげえ!

ゴクゴクゴク…

「クヘェッェェーー(涙)」

おしまい

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