小説『その日、朱音は空を飛んだ』感想

 ネタバレしています。

 私は元々、響け! ユーフォニアムシリーズが好きで、この作者さんの他の作品も読みたいなと思っていたところ、この本が発売されたので購入しました。
 ところが長らく積ん読しており、最近やっと読み終わったので感想を書きます。積ん読していた期間は長かったのですが、読み始めるとあっという間でした。
 私は読書は好きですが、読書感想文はあまり得意ではないので拙い文章ですがよろしくお願いします。

 結論からいうと、イヤミスです。私は個人的にイヤミスが好きなので良かったのですが、響け! 的なものを期待するとびっくりするかもしれません。後味も良くないです(イヤミスなので)。私もびっくりしましたが、これはこれでありだなと思いました。

 個人的にこの話のテーマは、自殺はしないほうがいい、ということだと思いました。それは周りが悲しむからなどではなく、命をかけて他人に何かを伝えようとしても伝わらないからだ、だからそういう目的で自殺するのは意味がないからやめたほうがいい、ということだと思いました。もちろん自殺する人の誰もが、周りへのメッセージがあるとは限りませんが(むしろ疲れきっていてそれどころではないということの方が多いと思う)、少なくとも(例えば誰かへの復讐であるとか)他人へのメッセージとして死ぬのは、多分相手には正しく伝わらない、ということだと思います。

 この物語は色々なキャラクターの目線で書かれており、宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』を彷彿とさせました。勿論悪い意味ではなく、武田綾乃さん独自の目線にしっかりなっていたと思います(上から目線ですみません)。

 朱音から手紙を受け取ったほとんどの人(純佳除く)が屋上に行かなかったことがわかるシーンでは、ひえっとなりました。その後の手紙を破くシーンの会話も怖かったです。

 愛は、最初は意地悪な子なのかと思っていましたが、愛目線の章を読むと、彼女なりに自分の考えをしっかり持っているな、と思いました。ただ、他のキャラクターの目線では愛の章と全然違う一面もありました。これは、愛自身に色々な顔がある、というだけではなく、受け取る人(キャラクター)の見方次第な部分もあると思います。このような違いはとても興味深かったです。あと百合展開(しかも共依存的な)があったのは百合好きとして良かったです。

 夏川さんは、とにかく頭のいい子だと思いました。夏川さんの章、彼女の考え方からそれが伝わってきました。少し怖いと感じる部分もありましたが、頭の良いキャラクターは好きなので、一番印象に残りました。頭の良さを(道徳的な意味での)正しいことだけに使っていないところも、なんとも言えない後味でした。

 他のキャラクターもそうですが、夏川さんは祖母(つまり家族や親戚)の影響を大きく受けており、純佳にとっての母、博にとっての父のように、家庭環境が子どもに与える影響がどれほど大きいかを物語っています。

 博は、元々父の影響で他人(主に女性)を下に見ており、最後にそれが朱音など、他人にばれていたことを知ります。最後にでてくる章タイトルがなかなかの後味です。

 最後に純佳と朱音の話ですが、個人的にはどちらにも共感できて難しいなと思いました。朱音については、気持ちがすごく分かる! という人と全然理解できない!
と思う人で分かれると思うのですが、個人的には両方の気持ちがありました。純佳が朱音に対してとった行動は責められないと思うけれど、朱音は多分、自分も他人も大事にできなかった人なんだと思います。

 感想は以上になります。個人的にはこれぞイヤミスといった作品で良かったです。ここまで読んでくださってありがとうございました。

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