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松本零士と自転車レースした(?)、1000年女王な私

だいぶ前、大泉学園に住んでいた。

初めて駅に着いた時、発着メロディが「銀河鉄道999」で
「映画の、ゴダイゴのほうや!!」
と驚き、改札出たら真っ黒な車掌さん(のオブジェ)が立っていたりする。

調べたら作者の松本零士さんがこの地にお住まいなのらしい。

とはいえ、お見かけする機会はないと思っていたら、2度遭遇の幸運に恵まれた。

一度目は朝の出勤時。

集団登校する小学生たちに、
「春休み終わって今日から学校かい?偉いなぁ、頑張れよ〜!」
とニコニコと声を掛け、頭をぽんぽんっと撫でている男性がいた。

緑のおじさんかな、とその声のほうをチラッと見たら、
「松本零士といえばあの帽子、あの帽子といえば松本零士」
な帽子を被って髪型や髭もイメージのまま。

相貌失認の私でも
「松本零士や!!」
とすぐわかる出立で小学生に囲まれていた。

失礼にも凝視してしまったのだが、視線を感じたのか目が合ってしまい、互いにロックオン状態で固まる。

実は私、普段あまり人の目を見ないくせに、ひとたびロックオン状態になると、失礼とわかっていても視線を簡単に「剥がせない」のだ。

特にそんな様子はされていなかったが、ご不快に思われていたら申し訳ないなぁ…と、こんな時にこやかにできない自分を恥じつつ駅へ向かった。

2回目の遭遇。

自転車に乗ってて赤信号で止まると、もう一台横に並んだ。視線を感じたので反射的に見たら、松本零士さんだった。
「あっ!自転車乗らはるんや!」

私のと同じようなママチャリに乗って、ごくごく普通に、地域に溶け込んでいらした。

勝手な偏見で「お金持ちは自転車なんか乗らない」と決めつけていたので、すごく意外だったけれど、やっぱりあの帽子を被って、髪型も髭も検索すると出てくるあのまま。

この時は視線を感じて私が見たので、最初から互いにロックオン状態。

う”…気まずい。

しかも松本零士さん、前回と同じく無の表情でじっと見てらっしゃるので、こちらもなんとなく石化。

こんだけ見つめ合ってたら、漫画なら恋に落ちるとこだが、そうはならんかった。

永遠に思える長い間の後、信号が青に変わったのに反応し、私のロックオンが剥がれた。

チャーンス!!!

私は競走馬並の猛スタートダッシュをかました。

あちらは「あっ!しまった出遅れた」という様子をなさった(と思う)。ふふん、俺の勝ちだ。と勝手に心の中で仕掛けたレースの勝利に酔った。

…と思ったら。


すぐ次の信号がまた赤で、追いつかれてしまった。

また視線が剥がれないと失礼だし気まずいので、正面を向いたままでいたが、なんとなくあちらからのチラチラした視線は感じる(先ほどのように固定の凝視ではない)。

この先もまた赤だったら色々しんどいので、自主的に妄想レースからリタイアし、後からゆっくり行くことに決め「松本零士だと気づいてません」という雰囲気を醸しつつ、ぼんやり前を見ていた。

信号が青になる直前。

松本零士さんが助走のようにゆっくりと、少しだけ私より前に進んだ。
そこで振り返り、まっすぐ私の目を見て、イタズラっぽくニッと笑った。

その瞬間、信号が青になり、猛ダッシュをかけて颯爽と去っていった。

え!もしや、松本さんも妄想レースしてたとか??

く、くやしい!!

…全て私が勝手に感じた妄想なので、ご本人はただ急いでただけかも知れないし、私のことも見てなかったか、変なやつと警戒して睨んでただけかも知れない。

そもそも松本零士さんご本人ではなかった可能性もある。

でも私の中ではニヤッとする、不思議な思い出として残っているのだ。


話はだいぶ飛ぶが、小学生3年くらいの頃、
「クラスの皆をアニメのキャラで例えると?」
という話題になって、他の子はドラえもんのキャラだったのに、私は
「お前は、1000年女王」
と園田くんという男児に言われ、周囲もすんなり納得したことがあった。

この時の私は1000年女王がわからず、後で美女キャラだと知り、盛大に気をよくした。

顔が似ているわけは勿論なく、単に髪が長かったからだと思うが、それでもジャイ子とか言われるより、美女キャラのが断然よい。

ただ、より有名なメーテルも長髪だし、「雪野弥生」と言ってもよかったはずだ。なぜ園田くんは「1000年女王」と言ったのだろう。

大人になってこの話を友人にしたら、
「そらあんた、女王って言葉の響きでしょ!その頃から貫禄あったんやろな。1000年続くんやで!」
と笑い転げられた。

別のちゃんとした大人に話すと、
「あー、なんかわかります!1000年統治してそうですもんね!」
と、こちらも私の期待した方面とは違う方向性で納得されていた。

「小三のとき、1000年女王って言われたんですけど、どう思われます?」
ともしご本人に尋ねたら、なんて答えてくれたんだろう。


脈略のない思い出をだらだら書いてしまったが、松本零士さんの作品って、すごく後に残って離れないのが多い。

高校の時に皆の前で読まれた小論文も999のこと絡めたものだった。

主人公は永遠の命を求めて旅をしながら、最後は永遠の体を選ばない。

エンディングの歌詞のように、どの星も必ずいつか、銀河を離れてしまうけれど、放った光はまっすぐに飛び続けて、ずっと後になっても見ることができる。

その人の思い。

その人が遺した子や作品。

不老不死という単純なものではなく、後に残る者が
「受け継いで、大切にしてゆく」
ということが永遠なのかも。

あの時のママチャリの松本零士さんが、
「お先に」
とイタズラっぽくニッと笑って、スーッと銀河を離れてゆく。

あとに雷のように強烈な、光だけ、のこる。

えっ、サポートいただけるなんて、そ、そんな…喜んじゃいます…!