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空の巣

うちの庭の木に、野鳥が巣を作った。

母屋の軒下に植えてある木だ。

私の背と同じくらいの低木だし、葉もそんなに茂っているわけではない。

こんなところで大丈夫なのかと、こっちが心配になる悪条件の場所だ。

野鳥は卵を産んだらしく、しばらく温めていた。

でも、悪い予感は当たってしまった。

ある日の朝、殻が地面に散乱していた。夜のうちに、外敵に襲われたのだろう。

その日から、親鳥も消えてしまった。庭の木には、空っぽの巣だけが残された。

私は、なんでこんな場所に巣を作ったのだろう、襲われるのは目に見えているのに、と思った。不用意のとばっちりを受けるのは卵なのに。理不尽だなって。

だけど、しばらくして思った。

親鳥は、経験が浅くてよくわからなかったのかもしれないし、縄張り争いに負けて、いい場所に営巣できなかったのかもしれない。

きっと、しかたがなかったんだ、と。

しかたない、というのは、悲しい言葉だけれど。

失ったものは、二度と戻らないのだけれど。

でもきっとあの鳥は、来年はもっといい場所に巣を作るだろう。


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