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地方、東京、サイゼリヤ。移ろうインターネット”的なもの”/東信伍・鉄塔・さのかずや

初めてインターネットに繋いだ時のこと。7セグ表示のアクセスカウンタ、シンプル極まる掲示板、電話が入ると更新の止まるテキストチャット。こうした光景を思い出すときの感覚は、もはや郷愁のソレに近いのかもしれない。

World Wide Web とは言うけれど、あの感覚はローカルな土地にも紐付いていたはずで。そして、僕たちが惹かれたインターネット”的なもの”は、時を経た今でも同じ形をしているのだろうか。広島から上京し、個人でものを作る人の集まり「Image Club」として活動する東信伍と鉄塔のふたりを迎え、あの頃と今ここのインターネットについてゆるやかに語り合った。

東 信伍: Image Club主宰。Web系メインのデザインエンジニア。主な作品に、ストリートビューを永久に自動操縦する『Street View Random Walker さまよえる私』など。

鉄塔: Image Clubメンバー。仕事も趣味もハードウェア工作。主な作品に、輪ゴム鉄砲の威力を爆発的に上げる装置『スパコーン』など。

さのかずや:株式会社トーチ代表。インターネットのコンテンツに人生が歪んで20年。かなり昔の作品に、『Amazon Dash ButtonでGet Wild退勤する』など。

(文:淺野義弘)



インターネットに誘われて、変が普通な東京へ

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東:さのさんのニュースレターが好きで読んでいます。平熱のテンションでやっているのが良いですね。

さの:ありがとうございます。東さんとは面識があるけど、鉄塔さんとは初対面ですね。おふたりの出会いはどんな感じだったんですか。

東:同じ広島大学の出身ですね。僕は経済学部で、鉄塔さんは理学部。学年も違います。

鉄塔:休学と留年と合わせて9年くらい大学にいて。結果的に4年の途中でやめるという中途半端なことをしていました。

東:鉄塔さんはあまり授業に出ていなかったので、普通に暮らしていたら出会えない隠しキャラみたいな人なんですけど、大学生協のPCサポートスタッフとして巡り合いました。学生にソフトを教えたり、修理の対応とかをしたりする係ですね。

鉄塔:で、東くんが先に卒業して。あー東京に行っちゃったかーって残念に思っていたんですけど。

東:新卒で東京の会社に就職して、ギークハウス新宿に住み始めました。東京のシェアハウスの中では一番オープンな感じで、かつ治安がそこそこちゃんとしていたので、オーナーに相談したら「いいっすよ」みたいな感じで。

さの:シェアハウスに行くようになったきっかけは?

東:僕はもともとブログを楽しくやっていたんですけど、石田祐規さんっていう人の文章がすごく良くて。その人が渋家(シブハウス)に住み始めたのを知って、大学1年生の時に連絡を取って1週間くらい泊めてもらったんです。就活中にもちょくちょく渋家に泊めてもらって、みんなが雑魚寝している中で僕だけスーツを着ているみたいな。左翼活動のアジトみたいなシェアハウスにも泊まりました。

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鉄塔:東くんが就職した1〜2年くらい後に、東京がどのくらい面白い場所なのかわからないから、とりあえずギークハウスにお邪魔しに行ったんです。そしたら東くんが「お好み焼きを焼く」みたいなイベントを急にでっち上げてくれて。

東:広島県民は全員お好み焼きが焼けるという設定なので。

鉄塔:「うちの地方ではね」とか適当なことを言いながら(笑)。なんだかんだ楽しかったので、そこから東京に行こうと思って、就活をしてやってきました。

さの:おふたりにとって東京はどんなイメージのある場所でしたか。

東:ずっと都会への憧れはありましたね。東京の文化というか、インターネットに吸い寄せられてきたみたいなところがあります。音楽もマルチネとかのネットレーベルを聞いて、これが生で流れる場所があるんだ、と思っていたし。結局インターネットって東京じゃん、みたいなところはありますよね。

さの:実際に東京に来てみて、インターネットは満喫できましたか。

東:人間関係も大体Twitter経由だったので、出会ったら「インターネットにいる人だ!」みたいなのがめっちゃ多いですね。鉄塔さんと僕は幼少期からデイリーポータルZをこよなく愛しているという共通点があるのですが、ウェブマスターの林さんとイベントでお会いして、あの人が実在している!みたいな。

鉄塔:最初に実物を見た時には、めちゃめちゃ緊張しましたね。

東:鉄塔さんは林さんのことを「林雄司」ってフルネームで呼んでましたよね。

鉄塔:偉人や有名人みたいにね(笑)。「木村拓哉」と同じ。

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さの:鉄塔さんは都会への憧れみたいなものがあったんですか?

鉄塔:ふたりの兄がどちらも上京していました。ただそれだけのことではあるんですけど、自分も行かなきゃいけないところという感覚があって。東京に行かない方法が、「憧れていたことを否定する」か「諦めた自分を肯定するか」しかなかったんです。

東:そんな思い詰めてたんだ(笑)

鉄塔:変な人とか普通の人という括りが、広島ではすごくこう、ある意味で差別っぽいというか。変な人は変な人、普通な人は普通な人というのを感じる節が結構あって。そういう枠の中ではちょっと生きにくいっていうか。

東:「ちょっと変な人」ってあんまいないもんね。

鉄塔:みんなそれぞれちょっと変じゃないですか。その「ちょっと変」を普通のこととして、素の状態でいられるような雰囲気が、少なくともギークハウスにはめちゃめちゃあるなと思って。ギークハウスを東京代表の人だと僕は思ってしまった。

東:雛が最初に見たものを親鳥だと思うみたいな話ですね。僕も東京で最初に出会った人が渋家の人たちだから、そういう風に親鳥認定してるのかもしれない。

鉄塔:あとは東くんも「東京に来たらいいですよ」って言ってましたし。広島でデジタルコンテンツの展示をしていた時に、東くんから東京でやってくださいよって言われたのが、実はちょっと嬉しかったんですよ。

東:それはずっと言っていましたね。鉄塔さんは東京に来るべきですよって。


ドメインを取れば活動が始まる

さの:ふたりとも東京に出てきてから、Image Club としての活動が始まった感じなんですか。

鉄塔:特にImage Clubという名前もない頃、2017年のMaker Faire Tokyoに何か出してみようって。磁石で空中に物を浮かせるおもちゃを応用して、UFOで人を吸い込むゲームみたいなものを作ったんですね。僕と東くんともうひとりで。 

東:あー、そこが最初か。

鉄塔:そうしたら、作っている途中でそっくりなゲームが既にあることに気づいて。どうする?って相談した結果、イベントの2週間前くらいにピボットして、人じゃなくて牛を吸い込むことになった。

東:うわそうだったわ、今思い出した。あれ多分、人をさらうのは一旦やめましょうって僕が言ったんですよね。結局『宇宙焼肉屋キャトルミューティレ苑』という名前で、僕が働いている会社のブースにねじ込んで展示をさせてもらった。

鉄塔:Maker Farire のデイリーポータルZブースに、イラストレーターのべつやくれいさんがいて。べつやくさんが宇宙人好きなことを知っていたので、勇気を出して「UFOのゲームを作ったので、ちょっと見にきてください」って誘ったら、遊んでくれたのでめちゃくちゃ嬉しかったです。

東:インターネットの憧れの人たちが、自分が作っている物を遊んでくれているみたいな。

鉄塔:あれは最高でしたね。

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鉄塔:Maker Faire が楽しかったから、また何かを作ろうかって話をして。次の『ブラジルにつながってる穴』を作っている最中に、東くんから「Image Club っていうサークルみたいなのを作りませんか」と言われて。最初はイメクラみたいだなって思って難色を示したんですけど、次に会うまでの間にドメインを取られていて。東くんの言語センスには信頼を置いているので、そこまで言うなら否定しないでいいかと。

東:ドメインを先に取るという、消極的に押し切られた結果の Image Club (笑)

さの:Image Club は、東さんが率先してやりたい感じだったんですか?

東:僕が一応主宰という形で。僕と、鉄塔さんと、今はアフリカで起業しているTさんという精神的支柱の3人で始めました。

鉄塔:やっていたことに名前をつけてくれたのと、継続するための仕組みを作ってくれたっていうか。僕は作るっていう一点だけが楽しかったから、そのための場所を与えてくれた感じはしましたね。名前がついて、記事があって、サイトにアクセスするとそれが見える。その形があるだけで、自分は Image Club のメンバーだぞって思えるし、ネタがあるからにはちゃんと作ろうという気になります。

東:そんな効果があるんだ。置き場がちゃんとあるのは大事ですね。個人的には「鉄塔さんを世に知らしめる」という裏テーマもありました。最初に会った時からずっと、鉄塔さんは誰に言われるでもなく、紙製の財布とか、ひとりでよくわからない物を作り続けている人でした。

鉄塔:自分が欲しい物を淡々と。むしろ作り終わったら興味が失せてしまうのが僕の弱点だと思っていて。その後で人に見せるとか、言葉を与えるとかが苦手なので、そこに Image Club の名前と力を借りてやっている感じですね。

さの:東さんはどんな感じですか?

東:僕はインターネットボーイなんで、つくるはWeb系のものがほとんどですね。でもなんだろう、鉄塔さんをそそのかすのが一番好きかもしれない。

鉄塔:そそのかされているのかぁ。

東:それこそ『ブラジルにつながってる穴』は最初、僕がカフェでボソッとつぶやいたら、鉄塔さんが猛然とノートを書き始めて。プロジェクションの角度がこうだから、全体に照射するためには何個必要で……って。その姿が面白かった。

鉄塔:いやあ、あれはアイデアが良かったからもう。絶対に面白いものになるし、このチャンスを逃してはいけないというか。この種を腐らせてしまったらこの世の損失だ、とさえ思いました。……自分でも薄々気づいているんですけど、ちょっと思い込みが激しいところがあるので、そこをうまく使われているのかもしれない(笑)

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ブラジルにつながってる穴 https://image.club/a-hole-to-brazil/

さの:お互いのノリがわかっているし、言語センスを信用できるからやれている部分はありそうですね。

東:それはあるかも。


場所のデカさと想像力、サイゼの雑談を未来に遺す

さの:作品はどんな場所で作っていたんですか?

東:鉄塔さんが勤めていた会社の倉庫や、僕がいる会社のオフィスを土日に使わせてもらったりしていました。リアルな場所があるのは大事なことですね。

鉄塔:『ブラジルにつながってる穴』は、単純に資材がすごく大きいから。東くんの家に鉄骨がいっぱい置いてあったり、半球がポーンとあったりしたのは申し訳なかった。

東:鉄塔さんは「使える場所の広さがクリエイティビティに影響してくる」みたいなことも言っていて。

鉄塔:本当にそうなんですよ。出口の大きさというか、単純にドアのサイズで作れるものの大きさが変わるじゃないですか。思いつく段階で場所が広くないと、最初から発想がシュリンクしちゃう。

さの:家の中で『ブラジルにつながる穴』を作ろうとは思わないですよねきっと。最近、共同のアトリエを借りたんでしたっけ。

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鉄塔:ふしぎデザインの秋山慶太さんが、仕事場としてシェアオフィスを作りたいって言っていて。すごくいい条件で、かつ秋山さんひとりではどう考えても広すぎる部屋をうまく見つけてくれていたので。我々とか他の知り合いとかが、秋山さんより先に続々と引っ越してきました。

東:建物の1階がスーパーになっているので、MARKETという単語から「ARKE」という名前を僕がつけました。「平成サイサイペンギンスタジオ」っていう案と最後まで競り合っていたのを覚えています。

鉄塔:アトリエには大きめの共有ルームと工作室と、デスクワーク用の個室とかがあります。工作室にはみんなでお金を出して買ったレーザーカッターとかバンドソーとかがあって。家だとなかなか大変だけど、2mくらいの角材も切ったり塗装したりできるので楽しいです。

東:Image Club の活動としては、2週間に1度集まって黙々と作業する「もくもく会」をやっていました。ギークハウスに住んでいた時からパクってきたカルチャーで、元々はphaさんとかがやっていたようなヤツですね。作業するためだけに集まるっていう。コロナで集まれなくなってからはリモートでやったりしましたけど、あまりうまくいかなかったですね。Maker Faire みたいなイベントもコロナでなくなったから、それに向けて何かを作ることもできず、なんとなく停滞気味で。

さの:最近はおふたりで Podcast「Image Cast」 を1年くらいやってますけど、それが活動の中心ですか?

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Image Cast  https://anchor.fm/image-cast

東:もくもく会をやると、その前後で大体サイゼリヤにみんなで行くんです。そこで喋っている時に出てくるアイデアが作品になったりするし、鉄塔さんとダラダラ喋るのがすごい好きで。この感じをちゃんとアーカイブしたいみたいなところもあって、Podcastを始めました。

鉄塔:東京に来たばかりの頃はただの安いファミレスだと思っていたんですけど、いい記憶が積み重なって、今となってはすごい場所のような感じがしていますね。

東:コロナでPodcastを聞くようになって、エンジニアの人がやっている Rebuild という番組をずっと聞いているんですけど。それは8年とか続いていて、番組自体が一つの場みたいになっているんです。人が集まるものを地道にやり続けて、いずれ場所としての価値を持つみたいなのがすごく良いと思って、Image Cast もそういう単位の年月でやりたいとは思っています。

鉄塔:番組に呼びたいゲストもたくさんいます。

さの:Image Club として、今後やっていきたいことはありますか?

東:作ったものがアーカイブされていることに価値があると思うので、Image Club も最低10年は絶対に残すつもりでやっています。20年とか30年とか経って、おもしろの感覚が変わった後に「変だなぁ」みたいに思いたい(笑)。

さの:最近もYahoo!ジオシティーズが壊滅して、昔のテキストサイトが見えなくなりましたよね。

鉄塔:そうなんですか、知らなかった。兄のサイトもあったはずなんですが……。もしかしたら、自分の遺書に「Image Club のサーバー代をちゃんと払うこと」って書かなきゃいけないかもしれないですね。

東:田舎の土地みたいに、将来世代の重荷になっているかも。

鉄塔:永代供養みたいな感じで、永年保証のドメインとか永代DNSってないんですかね。

東:Image Club としても、物理サーバーが運用されている祠みたいな建物をつくって、それを代々引き継ぐのが一族の役目みたいにしたいですね。「これが消えたら終わりだから」みたいな。

鉄塔:祠サーバー(笑)。いいねぇ。


大人が変なことをやる、あの頃のインターネット

さの:おふたりのインターネット観についてもう少し聞いてみたいです。原体験って覚えてますか?

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東:友達の家でパソコンを見てたら、「ここ」って書いてあるところにカーソルを当てると、そこに行けた。文章なのに移動ができるんだ!っていうハイパーリンクの凄さみたいなのが強烈に印象に残っていますね。俺も押したい、移動したい!って。

さの:その後、東さんはテキストサイトにハマっていったんですよね。

東:小学4年生の頃、デスクトップPCがある図書館までチャリで20分かけて通って、1回30分の枠を何度も更新してインターネットに繋いでいました。ディレクトリ型のポータルサイトからテキストサイトに行き着いて、そこからハマって。親を説得してパソコンは買ってもらえたんですけど、回線は引いてもらえなかったので、フロッピーディスクにHTMLファイルを保存して持ち帰って、家でメモ帳を開いてPタグとかHタグとか使って、ネットのつながっていないパソコンで自分のサイトを作っていました。

さの:ぼくもテキストサイトを作りたいからHTML書くぞ、みたいな感じでした。鉄塔さんは?

鉄塔:小学校3年生の途中から学校に行っていなかったんですけど。あまり友達とも趣味が合わなくて、割と孤独な感じがしていたんです。でも、インターネットで僕が好きなガスタンクのことを調べたら、ガスタンク2001っていうサイトで、ガスタンクのことを丁寧に取材しているおじさんがいて。それが林雄司なんですけど。

さの・東:おぉ〜。

鉄塔:1999年くらいに更新が終わっているので、2001っていうのは未来の年号なんですね。妙にカッコつけてる感じはするけど、ぼんやりしたガスタンクが低解像度で載っていて。寂しい・ツヤがない・ぽつんとしているとか、当たり前のような文章があって、なんか、それがすごい希望だったんですよね。自分が息苦しいと思っている外側には、もっといろんなものがあるなっていうのを感じたというか。

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ガスタンク2001 http://yaginome.jp/gas/

鉄塔:日本ゴム銃射撃協会というサイトも大好きでした。子供の工作って大体貯金箱とか機能しないものが多いから、ゴム鉄砲みたいにちゃんと機能するものは珍しいと思うんですけど。それを大人が本気で拳銃みたいに塗装していたり、100連発みたいなのを作ったりしていて、それもめちゃめちゃ嬉しかったですね。世の中の広さを感じられたという意味では、精神的な救いになったなっていう。

東:当時子供だったからかもしれないし、田舎だったからかもしれないけど、いい大人が変なことに夢中になって、それを公開しているみたいなことって、今と比べてすごく異常なことだったんですよね。大人が変わったことに夢中になって、それをひとつのテーマとして扱えるみたいなことは、田舎に住む子供の自分としては、衝撃的でした。

さの:学校で話したら誰も面白がってくれないような話も、インターネットだったら認められるということをテキストサイトで知って、感銘を受けた記憶があります。北海道の田舎町でつまらないと思っていたら、外側に面白いものがあった、というのがぼくのインターネット原体験です。


「インターネットにつながってる穴」があるならば

さの:ぼくらの世代は「つまらない日常の中にインターネットが現れた」という経験をした人が多くて、ぼくも含めて、自分の故郷よりもインターネットに地元愛や居心地の良さを感じている人が一定数いると思うんです。でも、その下の世代になると、こういう感覚ってもはや存在しないかもしれなくて。「インターネットだからこそ面白いこと」をしたいと考えても、自分と同世代くらいにしか響かないんじゃないかと最近思うんです。

東:どうなんでしょうね。インターネットに繋がっているってどういうことなんだろう?ってことを考えながら作った『Page View』というサイトがあるんですけど。画面があって、向こうにインターネットみたいなものがあって、そのまた向こうに画面があって、最後に人間がいる、みたいに言葉で言われてもピンとこないから、ページビューとしてカウントされるものの本当の姿みたいなものを見えるサイトを作ったんですよ。

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PageView:2名以上が同時にアクセスしないと見れないサイト。同時にアクセスすると、端末のカメラを通じて互いの姿が見える。
https://image.club/making-pageview/

東:つながった人同士は筆談でコミュニケーションを取ろうとするんですけど、それは僕の中ではちょっと違うんですよね。つながってしまうのではなくて、半繋がりみたいな状態というか。一方的にただその人を見ているというか、コミュニケーションが中途半端に断絶されているような状態が、自分の中でのインターネット観なんですよね。

鉄塔:『ブラジルにつながってる穴』を作った後に、東くんが「インターネットにつながってる穴を作りませんか」って言ったじゃないですか。すごい良いと思ったんだけど、タイトルしか決まっていなくて。

東:それが何なのかは、マジで誰も分からない(笑)

鉄塔:すごい抽象的なインターネットに形を与えた時点で面白いんですけど、穴っていうのがその通りだなって感じがして。どんなにモニターを大きくしても、それは制約されているから、狭い穴から望遠鏡で覗いているような感じがしっくりきたんですよね。

さの:最近ぼくがインターネット的だなと思ったサイトがあるんですけど。ブラウザを開いたら、世界中の窓からの風景がランダムで表示されるみたいなサイトがあって。

東:めっちゃ良い。それはいいな。

さの:あぁこれだ、WindowSwap ってやつ。

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WindowSwap https://www.window-swap.com/

鉄塔:あーーー。いいですねこれ。カナダの寒そうな、なんかすごい高いビルから撮影している。画質も高いし、いいところなんだろうな。

さの:ぼくのところにはフロリダの暖かそうな風景が出てきました。

東:めっちゃインターネットですねこれ。僕はマンションの明かりを見たら、部屋の中に人が住んでいて、それぞれに自分と同じような人生があるんだと思うことがあって。人の家がチラッと見えるんだけど、歩いて通り過ぎるからすぐに見えなくなる。人生を一瞬だけ覗き込めるけど、全貌は分からないし、どんな人が住んでいるかも分からない。でも何かしら、その人が独自にその人であるという痕跡が残っているみたいな状態。この感覚が好きで、それを便宜上インターネットと呼んでいるだけかもしれません。

さの:WindowSwapみたいなものに感じる良さには、ある程度普遍性がある気がしますね。

東:そうですね。何か名前をつけたほうが良い感覚だと思うんですけど。

鉄塔:じゃあ、今年はこのテーマで作品を1個作りましょうか。

東:それにしますか。


VR Chat に広がるローカルネス

さの:最近衝動的に、ぼくが住んでいる札幌市内でスペースを借りたんです。そこに人を呼んで集まって喋るみたいなことが、すごく今の自分が求めているものだなという気がして。これは今のインターネットでは得られないように思えて、ぼくらの思う「インターネット的なもの」自体も姿を変えつつあるのかもしれない。

東:多かれ少なかれ、地元に馴染めなかった人が東京に来るとか、リアルの世界に馴染めない人がインターネットに来るみたいな、そういう感覚だったと思うんです。今はリアルな場所とかの方が、インターネットからの逃げ場になっているかもしれないですね。

鉄塔:やっぱりインターネットに代わる新しい言葉が必要ですね。アナログという言葉も「Apple Musicはデジタルで、CDから読み込むのはアナログ」みたいに、変だと思いつつ、分かる気もするような使われ方をしていて。インターネットという言葉も、そういう場面に差し掛かっているかもしれない。

東:みんな、インターネットに背負わせすぎている(笑)。インターネット老人会とかいって、かつて新しいものの象徴だったインターネットを懐かしんでいますけど、最近ではVR Chatとかに行く人が、そういうローカルネスみたいなものを求めている気がします。今のVRには尖った人が集まってきているし、まだ均質化もされていない。

さの:ぼくの友達も、かつてインターネットにあったものがあるんじゃないかと思ってVR Chatを始めたらしくて。VR空間で横に座る友達と、カメラとマイクを意識せずにしゃべったのは、自分にとってもすごく斬新な経験でした。

鉄塔:SXSWのVRイベントで面白かったのが、それまではVRは強い人たちがいっぱいて怖いみたいなイメージだったのに、実はみんな素人集団で、日本語喋れるって分かった途端にわらわら集まってくるみたいな。アバターも適当に選んだヤツなのに、変えると誰かわからなくなるから、それをずっと着続けているんです。

東:ダサいなー。そのダサさ良いですね。

さの:何者かわからない人たちが、何者かわからないままやっている。

鉄塔:中身はおじさんでも女の人みたいな格好だと、喋り方もだんだんそっちに寄ってくる。そうしているうちにアバターが本人みたいに見えてくるから、新しい感じがしました。それまでは、VRが強い人とか英語で話しかけてくる少年とかから逃げ回るのがVRのイメージだったので、怖かったんですよ。

東:インターネット原初の怖さみたいですね。

鉄塔:小学生の頃、自分が作ったゴム鉄砲をBBSに投稿するのも怖かったですね。当時は珍しかったみたいで、広島支部長に任命しますとか言われて。嬉しかったけど、なんだか妙な気持ちでした。

東:この先VRとか3Dの環境が当たり前になったとき、人間の認知がどう変わるかは気になるんですよね。ことわざとかって、基本的には2次元のグラフで表せる関係を示していると思っていて。

鉄塔:なるほど、すごい面白いなそれ。

東:本当ですか?(笑) 人は二次元で物事を概念化して認識してきたから、それにもう1軸加えて、3次元空間上に何かをプロットするとか、関係性を描画するみたいなことが当たり前になったら、どういう認知の構造を持つんだろうとか。例えば急がば回れみたいなのも、こう……

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鉄塔:3Dのことわざっていう時点で概念的に面白い。

東:もうちょっと先の世代かもしれないですけど、10年後くらいに生まれる子供たちは自分達世代とは現象の捉え方がまったく違うかも、とは思います。


普通であること、当たり前のことを受け入れる

東:子供が来週か再来週くらいには生まれる予定で。その状況を前にして、怖いなっていうところもあって。自分が何かものを作るっていうことよりも、全然大事にしていいことができてしまうみたいな。子供が産まれて、わーって育てて、大学出て就職して、ってやってるうちに僕が50代とかになって、そのあいだ毎年「今年も何か作りたかったけど作れなかったな」みたいな想像をすると、結構、怖かったりします。

さの:鉄塔さんにはお子さんがいますよね。子供が生まれたことで、何か感覚は変わりましたか?

鉄塔:うーん、意外とないですね。子供っていう楽しみは確実に増えたし、タスクも増えて時間が無くなったから、まあ力は分散しちゃう面はあるけど、作ることが好きなのは変わらないし。子供がいるから逆に作らなきゃいけないものも出てきて、それはそれでアリだし。

東:そうなんだ。

鉄塔:子供が関係あるかどうかは正確にはわからないんですけど、もしかしたら、普通になることを怖がらなくなったかも、と思っていて。歳をとるごとに、普通であることの良さも感じて、そこを積極的に避けることを、徐々にやらなくなっている自分がいます。それが良いか悪いかはわからないんですけど、東くんは多分、普通になっていくことがまだ怖い。

東:普通が嫌だからみたいな理由で避けてるのが一番普通というか、ダサいなみたいな感じにはなってきていて。5年くらいFacebookの友達を全員アンフォローしていたんですけど、最近その設定を戻したら、それぞれの人生に起きた重大な変化がブワッて入ってきて、不思議な気持ちになりました。数周遅れくらいで、これまで気取って避けていた社交とか社会みたいな、当たり前の感覚の良さを味わえるようになったのかもしれない。

鉄塔:一周回ると全部普通だし、一周回ると全部おかしいんだけど、なんていうか、結局普通かどうかっていうことを評価のポイントから外してしまえば、普通であるかどうかは関係なくなるので。

東:Image Clubのスタート当初は、このままだと何もない大人になっちゃうみたいな焦りもあったんです。イキってた時は「クリエイターっていうのはものを作り続けている人のこと」みたいに言っていたんですけど、最近は若干変わってきていて。ギークハウスにはニートの人もいたし、さのさんも最近働けない時期とかあったと思うんですけど、働き続けてない人はもうダメみたいに社会として扱うのって絶対良くないから、「仕事をしていない人」ってくくるより、「そういう時期にいる人」みたいに扱った方が良いんだろうなって。

東:同じように、ものを作っている時期があるなら、作っていない時期があってもいいじゃん、みたいな。僕がそういう状況にいるから、ポジショントークかもしれないですけど、そういうふうには思い始めてますね。

鉄塔:僕はちょっと、仕事に使う時間を減らそうと思ってるんですよ。で、その時間を制作に充てるかと思いきや、確かに少し停滞してるなっていう感じが僕もあるので、それに甘んじてみるというか。やる気が出るまでネコみたいに過ごすっていうのを、一旦挟んでみようと思っているんです。でも多分そのうち飽きて、何かをし始めると思うので、しばらくお告げを待とうかなと。

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さの:僕は去年めっちゃ頑張ってみて、仕事がうまくいかず、ちょっと鬱っぽくなってしまったことがあったんですけど。振り返って考えてみると、学生時代に陸上をやっていた時も、切羽詰まって練習するぞって思っていた時よりも、ほどほどにするかって思っていた時の方がタイムが良かったりした。何事も肩の力を入れてやるよりは、適度に気持ちを抜いて、それなりに楽しくやりながら、それなりに結果を出していくことの方が、トータル幸せなんじゃないかみたいに思うようになって。

東:楽しんでやった方が良いっていう、当たり前の結論に、ようやく辿り着く(笑)

鉄塔:電車の広告にも、そういうことが書いてありましたよ。

東:平凡なことですよねつまり。そういう状況に対して、結構戸惑っているな。

さの:「暮らしを良いと思えること」の大事さを、身をもって知れるようになったのかもしれないですね。

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東:インタビューというよりは、セラピー的な感じになりました。人生を振り返って整理、掘り返せてよかったです。

鉄塔:東くんの考えていることって、普段意外に聞けていない部分があるなと思ったりしました。

さの:直接喋っていても、別の人を介さないと出てこないことってありますよね。

東・鉄塔:ありますよね〜。



ライター / GIF制作:淺野義弘
編集:さのかずや
カバー画像デザイン:キシリュウノスケ


書籍「トーチライト Issue 2022」発売中




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