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視聴者と「パートナー」になる。これからのテレビ局が担う役割【 #NoMaps 2020レポート】

個人の発信力が増している今、メディアはローカルにおいてどんな役割を担えるか。

ローカルの情報発信源として、これまで影響力を持ってきたテレビ局。メディアが置かれた環境やビジネスモデルが大きく変化しつつある今、ローカルテレビ局でも新しい発信のあり方が模索されているさなかです。

一方通行の発信ではなく、視聴者とともに新しい価値を生み出すコンテンツを共創したい。そのために双方向のコミュニケーションを重ね、苦悩しながら挑戦を続ける人たちがいます。

NoMaps 2020のカンファレンス「発信から共創へ:ローカルテレビ局の苦悩と挑戦」では、北海道のテレビ局から新しいメディアのあり方を模索する方々にご参加いただきました。

ゲストは、UHB北海道文化放送の廣岡俊光さん、NHK札幌拠点放送局の大隅亮さん、HTB北海道テレビ放送の阿久津友紀さんです。モデレーターは、NoMaps実行委員であり株式会社トーチ代表のさのかずやが務めました。

視聴者と「パートナー」になるために、これからのメディアのあり方を模索するみなさんの新しい挑戦をお届けします。

セッションの詳細はこちらです。

■ 「NoMaps」とは?

クリエイティブな発想や技術を用いて、新しい価値を生み出そうとする人たちの交流の場。北海道を舞台に2016年からスタートした。2020年はテーマに「beyond」を掲げ、10月14日から18日までの5日間にわたり開催。オンラインで多様なプログラムを配信し、延べ1万人以上が参加した。公式サイト

60年間同じビジネスモデルのテレビ局で、新しい価値づくりに挑戦する

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「発信から共創へ:ローカルテレビ局の苦悩と挑戦」と掲げられた本セッション。まずはこのセッションを企画したさのかずやより、前提として、現在のテレビ局のビジネスモデルが抱える問題について共有がありました。

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民間テレビ局の主な収入源は、CM。このCMの値段は視聴率によって左右される仕組みです。視聴率に左右される収入が、現在でも民間テレビ局の大半を占めています。

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そんなテレビ局の収入を支える視聴率は低下の一途をたどり、若い世代ほどテレビを観る時間が少なくなっているのです。

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テレビ局がどのような価値を届けるのか、まさに転換が迫られている今。新しい価値を生み出すべく奮闘するテレビ局の現場から、課題と可能性について聞いていきましょう。

テレビ局は視聴者と「パートナー」になれるのか


次に、ご登壇くださったみなさんから、各局での新しい取り組みについてお話いただきます。

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まずは1人目、UHB北海道文化放送のアナウンサー・廣岡俊光さんです。

廣岡「今の仕事は、平日夕方の報道番組『みんテレ』です。でも実は入社以来14年間、スポーツ実況一筋。アスリートの方にインタビューしたり実況中継をしたりと、スポーツの魅力を伝えてきました」

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北海道文化放送非公式チャンネル

廣岡「そういった経験も活かしながら、最近のUHBの取り組みとして、YouTubeで『UHB北海道文化放送非公式チャンネル』を始めています。2020年の夏には、アナウンサーたちで『ほぼ27時間生配信』を実施しました」

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YouTubeより

廣岡「これは、UHBと視聴者の方々とのタッチポイントを増やすことを目的としています。ようやく少しずつ、UHBのファンにつながる流れができてきたかなと感じているところです」

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2人目は、NHK札幌放送局のディレクター・大隅亮さんです。今回のテーマである「テレビ局の苦悩と挑戦」について、まさに思うところがあったといいます。

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大隅マスメディアへの信頼がどんどん薄くなってきていて、視聴者の方々に『リアルな情報を届けていないのでは』と思われていることが苦しいですね。制作している私としては、『マスメディアがもっと役に立てることがあるはずだ』と葛藤しています」

これからは、テレビ局と個人が新しい関係を築いていけるのではないか。そう考えて大隅さんが取り組んでいるのが、これまでになかった旅番組「#ローカルフレンズ出会い旅」です。

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大隅「これまでの番組のつくり方であれば、スライドの上の部分のように、ディレクターが企画から放送まで一貫して担ってきました。でも『#ローカルフレンズ出会い旅』の場合は、ローカルフレンズ(=番組の案内人を務める地域の方)が持っている人脈や情報をもとに、構成を考えてロケを進めます。

ローカルの方々もメディアだと言えますし、僕らもローカルを構成する一員でありたい。その考えを体現するような制作手法を取り入れて、私たちがローカルの『パートナー』になれる関係を模索しているところです」

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3人目は、HTBのコンテンツデジタル事業部に在籍している阿久津友紀さんです。

阿久津さんは、2019年に乳がんと診断されます。乳がんの患者やその家族の前に立ちはだかる壁を知り、自身の闘病についてHTBから発信を続けてきました。

阿久津「『46歳両側乳がんになりました』という連載を始めたり、番組を制作したりしたら、北海道だけでなく全国各地からお手紙をいただきました。

そうやって生まれたコミュニケーションも含めてひとつの形にしようと思い、『おっぱい2つとってみた 46歳両側乳がん』というドキュメンタリー番組として2020年の4月に全国放送したんです」

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△ HTBノンフィクション『おっぱい2つとってみた 46歳両側乳がん』より

この番組によって、日本全国のみならず、海外からもメールが届くほどの反響に。こうして阿久津さんと視聴者とのコミュニケーションが始まりました。今でも毎日、乳がんの患者や家族からおたよりが寄せられるといいます。

阿久津「自分がやっていることを通じて、北海道だけでなく、国内外の方のお役に立てるのかもしれない、と思うようになりました。ですので最近では講演会や座談会もできるだけYouTubeに残し、アーカイブを観ていただけるようにしています」

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△ 阿久津さんがHTBのメディアサイト「SODANE」で2019年から続けている連載

阿久津「病気になってからの取り組みを通じて、みなさんからいただいたご感想や関係が、そのまま次の番組制作につながるのだと実感しました。まさに、先ほど大隅さんがおっしゃった『パートナー』という言葉がぴったりだなと思いますね」

ひとりのテレビ局員として、視聴者と価値を共創するために

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各局での挑戦をうかがったところで、1つ目の問いかけへ。テーマは「これまでにない取り組みを進める上で感じている課題」です。

UHBの廣岡さんは、個人のSNSを使って積極的に情報発信をしています。テレビ局の一員としてSNSを運用する上で、何を意識しているのでしょうか。

廣岡「僕がやりたいのは、知っている人が知らない人に教えるような一方的な情報発信ではありません。自分もスポーツファンの方々と同じように応援しているんだよ、と伝えたくて、一緒に熱狂するために使っています。みなさんのスマートフォンに飛び込んでいくスタンスです」

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△ 廣岡さんのTwitterより。普段からスポーツを中心に積極的な発信をしている

廣岡「テレビで言葉を発するときとSNSを使うときと、僕のなかでは線引きを明確にしているつもりです。でも、それならSNSで何を大切にして発信するのか。正直、今でもすごく迷いながら使っています」

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NHKの大隅さんは、「#ローカルフレンズ出会い旅」による新しい番組づくりにおいて、何を重視して試行錯誤しているのでしょうか。

大隅「僕は、取材させていただいた方々との関係を継続したいと思っています。これまでは一度取材させていただいたらそこで関係が途切れてしまっていましたが、地域の方々にNHKのことを信頼してもらうためには、その後も関係を続ける必要があると思うんです」

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△ 2020年度の初めから「#ローカルフレンズ出会い旅」の番組制作と、その準備のためのオンラインミーティングを通じて積み重ねられてきた関係は、2021年度の番組制作にも受け継がれている

大隅「『#ローカルフレンズ出会い旅』では、関係を継続する方法を模索中です。これまで番組に関わってくださった方々とその後も番組を共創するために、月に2回の企画会議を7ヶ月以上続けています。番組へのフィードバックや、次の企画へのアイデアをいただく場です。

この方法にすごく価値を感じる一方で、ずっと続けられるのかは悩ましくて。NHKは全国への転勤があるので、自分が北海道にいるうちに継続できるモデルを確立して次の人に渡せる状態にしないと、本当の『継続』とは言えないよな、と思っています」

各局の挑戦が「チャレンジしやすい北海道」につながる

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後半は、局の枠を超えて北海道での挑戦に話が移ります。

大隅「メディアを信頼してもらうために、廣岡さんや阿久津さんのように個人の名前で発信していくことが必要だと個人的には思っています。

一方で、組織を見渡してみると、まだまだ誰もが個人の名前で発信しやすい状態ではないと思っていて。HTBで『阿久津さんだからできるんだよ』と特別視されませんでしたか?」

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阿久津「そう思っていたり、個人が目立つことに反対していたりした人もいたかもしれません。私自身も、自分の気持ちで番組をつくることを視聴者の方々に受け入れてもらえるのか、不安がありました。

それでも発信してみたら、『よく声をあげた』『頑張って』と言っていただける機会のほうが圧倒的に多くて。お手紙や声をいただくことで、私だけでなく周りのディレクターや記者たちが、発信を通じて生まれるやりとりが尊いものなんだ、と理解してくれたんだと思います」

廣岡「HTBさんでは、ローカル局の中でも非常に速い時期から、『水曜どうでしょう』の制作チームが顔を出して発信していましたよね。しかも制作チームが日本全国に行って、仲間をつくっている。そういう先輩たちの存在が、HTBの挑戦しやすい雰囲気をつくっているように見えます」

阿久津「そうですね。そういう先輩たちがいてくれたおかげで、私が今こうして発信できるんだと思います。

私も今では、個人的なものであればあるほど、誰かの役に立てるんじゃないかな、と思えるようになりました。そういう先輩たちが耕してくれた土壌を、次の世代にどう手渡していくのか、考えているところです」

大隅「そのカルチャーが、HTBさんだけでなく北海道に広がっているように感じます。他のエリアで僕がカメラの前に出て行ったら、カメラマンに白い目で見られるんです。

でも北海道では、むしろディレクターを映すためにカメラを向けてくる技術チームがいる。そのバックグラウンドには『水曜どうでしょう』があるんだろうなと実感しています」

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廣岡「北海道内ですぐ隣に新しい挑戦をしている局やメディアがあるので、新しい価値づくりに対して、まずは真似でもいいからとにかくやってみよう、と僕も考えるようになりました。

UHBでいえばまだ始まったばかりですが、『何はともあれ挑戦していこうよ』という機運が、ようやく社内でも生まれてきた気がします」

大隅北海道は、実験することを許してくれる土壌がありますよね。『#ローカルフレンズ出会い旅』でも、コロナ禍でロケに行けなくなったときにオンライン旅にチャレンジしたら、その手法が全国放送の『あさイチ』で取り入れられたんです。

全国ネットを持っているNHKの強みを活かして、地方でイノベーションをおこして各地に還元できる循環をつくれたらいいな、と思いました。デジタルに強い北海道の人たちとどんどん新しい表現を試して、全国に広げる。これが僕の野望です」

阿久津「それぞれの局で新しいことを始めていたら、『北海道、おもしろそう』と思われるようになりますからね。北海道が元気であるために、北海道のテレビ局の一員として、みなさんと一緒に新しい挑戦をしていきたいと思っています」

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普段は「ライバル」どうしである北海道のテレビ局が、局の枠を超え、力を合わせて地域を発信していく──。

奮闘しながら挑戦を続けるテレビ局の現場から、既存の方法だけでなく既存の枠も飛び越えて、ますます新しい価値づくりが進む予感がするセッションでした。

執筆:菊池百合子

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同じくNoMaps 2020で実施された他の2本のトークレポートにつきましても、ぜひご覧ください。


モデレーターのさのかずやによるNoMaps 2020の振り返りは、こちらをご覧ください。


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