積もり散る
この世が塵の濃淡でできているのなら、塵を知ればこの世を知る。
なんて、マジで思うだけでは飽き足らず、ガチで行動してしまう大馬鹿野郎でいっぱいの、二流の物理学科に籍を置いていた。
研究をできるような能はないと、分かっている。ここで修め、ここを卒業しても、 潰しが利かないと、分かっている。それでもいい。一生のうちこの四年間だけでも精一杯、物理を勉強したい。
その気持ちは私にも分かった。物理は分からなかった。
あれはあれで、たいそう波漫的だった。
と思い出す私はもう、どうしてあんなに知りたがりだったのか思い出せずに、とんでもないところに愛しい人の頭を抱えてよがっていた。
この世のことは死ぬまで分からない。いやおそらく、死んでも分からない。それでいい。どうしてそんなに知りたがる、死にたがる。
愛は恋の上位らしいのに、愛人は恋人の下位らしく。
私の胸に顔を埋める人は赤子のようで、来世は私の息子になる?と訊いてみる。いや、と断られた。おっぱい飲み放題だよと押したが、笑って流された。いいお母さんなんだろうなと、言われたのはいつだったか。今幸せだから今死にたいと、言われたのはいつだったか。
過去も未来もそんなに辛いなら、生まれ変わってうちへおいでよ。私と夫が大切にするよ。
なんて、言えない、この世の片隅で。
(了)