マガジンのカバー画像

ブログ:映画の話

299
映画の感想文。
運営しているクリエイター

2020年11月の記事一覧

映画感想 ドクター・スリープ

 まず始めに告白すべきことは、私は前作にあたる映画『シャイニング』を2度見ているが、その面白さを理解していない。これだけの有名な作品、名作と評される作品だから何かあるはずだ……と思って2回見たが、しかし作品から何も掴むことができなかった。  それから『シャイニング』の原作、さらに『ドクター・スリープ』の原作も読んでいない。『ドクター・スリープ』の映画を視聴するうえで『シャイニング』の原作を読んでいないことがどれだけ致命的であるかというと、本作『ドクター・スリープ』は映画の『シ

映画感想 ナチスの愛したフェルメール

 本日紹介の映画は『ナチスの愛したフェルメール』。オランダ、ベルギー、ルクセンブルク制作、2016年発表の作品。  どうしてこの作品を視聴したのか、その経緯を話すと、いま絵画芸術に関する本の執筆を進めていて、その中に「メーヘレン」も少しネタとして登場してくるのだけど、「そういえばメーヘレンを題材にした映画があったなぁ」とふと思いだし、探したらAmazon Prime Videoで会員限定無料配信をやっていたので、よし見るぞ……というのが経緯。見れば執筆中の本のネタになるかな、

映画感想 生きのびるために

『ブレッドウィナー』予告編  『生きのびるために』はカナダ、アイルランド、ルクセンブルク三国共同によって制作され、2017年に発表されたアニメーションだ。原作はデボラ・エリスがアフガン人難民キャンプでの聞き取り調査をもとに描かれた作品。第45回アニー賞長編インディペンデント作品賞受賞、第90回アカデミー賞長編映画賞にノミネート。  タリバーン政権下のアフガニスタンで何が起きているのか――。本作はフィクションではあるが、その地域で起きている生々しい実体を描いた作品である。

映画感想 名探偵ピカチュウ

名探偵ピカチュウ 予告  今回視聴した作品は『名探偵ピカチュウ』。なぜこの映画なのかというと……昨日視聴した『万引き家族』が忘れられなくてね……。『万引き家族』を視聴した後、本当に落ち込んじゃって翌日もずっとモヤモヤしていて、「あの後、りんはどうなるんだろうか」とかえんえん考えてしまって、この状態で重い映画なんて観るなんてできないぞ、観たら死んじゃうぞ……という気がしたので、一回気分が晴れるような映画を観たい。そこでちょうどAmazon Prime Videoでプライム会員

映画感想 万引き家族

万引き家族 本予告  2018年、『ROMA/ローマ』と並び世界的に注目を浴びた作品の一方である『万引き家族』。第71回カンヌ国際映画祭では最高賞パルムドール受賞をはじめ、第42回日本アカデミー賞最優秀作品賞、第61回ブルーリボン賞受賞など多くの栄冠に輝いた作品である。  「万引き」で生計を立てるある一家の物語――下層階級の暗澹たる暮らしを描きながら、そのただなか不思議に浮かび上がってくる“幸福”を描いた作品である。 !!ネタバレあり!!  詳しいあらすじについては省略

映画感想 ROMA/ローマ

ROMA/ローマ ティーザー予告編   本日の映画感想は『ROMA/ローマ』。アルフォンソ・キュアロン監督による2018年制作の作品。この作品はNetflixオリジナル作品として高く評価される一方、「劇場公開されていない作品は劇場映画として評価すべきか」――つまりアカデミー賞にエントリーされる条件を満たしているかどうか……の議論を生み出す作品ともなった。  これから『ROMA/ローマ』の感想文に入っていくのだけど、前回『バードマン』の時と同じく、観ている間は内容がいまいち

映画感想 バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡

バードマン 予告  今回の映画感想は『バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡』を取り上げるのですが、最初に告白しておきましょう。  よくわかりませんでした。  うん、よくわからなかったんだ。この映画、どう見るべきだったのかな……。物語がわかりづらいとかそういうのではなく、作り手側の狙いや意図がどこにあるのか。私個人的に舞台の裏の話についての感心や知識がなさすぎる、というものあって、一番肝心な「主旋律」を掴み損ねたという感じがしてしまっている。  そういうわけで、

映画感想 ラ・ヨローナ~泣く女~

ラ・ヨローナ~泣く女~予告編  本日の映画はホラー『ラ・ヨローナ 泣く女』。『死霊館』シリーズの番外編という扱いで、時系列的に『アナベル 死霊館』『死霊館 エンフィールド事件』の間に入ってくる……とされているけど、物語的な連続性は特にない。この作品を初見にしても問題がない。『アナベル』に出てきた人形がちらっと出てくるだけで物語的な関連性はまったくない。  『死霊館』シリーズはハリウッドに珍しく、「ヒットしたら次々に続編を作れ!」という手法ではなく、1本1本モチーフや舞台、登

映画感想 ニンジャバットマン

 ここ数日、DC映画ばかり観ているけど、1つ事情がありまして……。というのも近いうちにDC映画はNetflixから引き上げるかも知れない……という予感がして……。  アメリカではワーナー専門の配信サイトが立ち上がり、Netflixからワーナー作品が引き上げ。これはアメリカでの話でまだ日本ではローンチが始まっておらず、そういう話もまだ聞かないのだけど、そのうち来るかも知れない。そうするとドル箱のDCコミック映画は真っ先に引き上げになるはずだから、早めに観ておかないと……。  と

映画感想 アクアマン

アクアマン 予告編  映画『アクアマン』は2018年公開。アメリカでの公開初週は6740万ドルを稼ぎ出し、最終的には世界興収10億9000万ドルとDC映画史上最大のヒット作となった。監督のジェームズ・ワンは『ソウ』シリーズや『死霊館』シリーズなどホラーでおなじみの人ではあるが、『ワイルドスピードSKY』や本作『アクアマン』といった明るいエンターテインメントも手がけており、しかもいずれもヒットさせている才人である。  映画『アクアマン』は孤独な灯台守のもとにニコール・キッド

映画感想 ジョーカー

ジョーカー 予告編 !!ネタバレ注意!!  あの『バットマン』に登場するジョーカーのオリジンとして制作され、2019年に劇場公開されて以降は世界中で大ヒット大絶賛され、コミック原作映画でありながらアカデミー賞主演男優賞をもぎとった作品だ。  私としてもずっと気になっていた作品だが、実際見てみると紛うことなき傑作。語り残されていくべき名作であると確信した。これはジョーカー誕生秘話という以上に、アメコミ映画という枠以上に、アメリカの内面的病を映した作品だ。だからこその評価だ、

映画感想 彼らは生きていた

彼らは生きていた 予告編  『彼らは生きていた』――Amazon Prime Videoでは『ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド』のタイトルが使われている。私的には『彼らは生きていた』という邦題のほうがしっくり来ている。なぜならまさしく、あの場所で間違いなく生きていた“彼ら”を映し出した映画だからだ。  どこにでも書いている情報だが、とんでもない労作によって生まれた作品である。イギリス帝国戦争博物館に保管されていた2200時間もある映像を復元し、色を付けて音を付け、さ

映画感想 トールキン 旅のはじまり

トールキン 旅のはじまり 予告編  若い世代はひょっとすると、トールキンの名前を知らないかもしれない。  もう20年近いトレンドの一つに「ファンタジー」があり、我が国でも「異世界転生もの」の隆盛が現在進行形のものとしてあるのだけど、ああいったもののイメージの源泉にあるものがトールキンだ。“エルフ”といえばもともとはイタズラ好きの小鬼のことを指していたのに、トールキンの『指輪物語』を経てからは金髪で耳がとんがった美しい種族のことしか思いつかなくなった。冒険者の行く手に立ちはだ

映画感想 沈黙ーサイレンスー

サイレンスー沈黙ー 予告編 !!ネタバレ注意!!  映画は1966年に遠藤周作によって描かれた小説『沈黙』に基づく。  お話はローマ・イエズス会のもとにもたらされた一通の手紙から始まる。偉大なる師であるクリストヴァン・フェレイラが棄教したという。フェレイラが棄教したことを信じられないロドリゴとガルペは、日本へ旅立つ決意を固める。  という冒頭で始まるこの映画。フェレイラの弟子として登場してくるのがアンドリュー・ガーフィールドとアダム・ドライバーの2人。スパイダーマンとカ