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きらめく星座 感想

https://twitter.com/komatsuza/status/1641705809515261952?s=20

 きらめく星座の全国ツアーが順調に続き、たくさんの劇場でたくさんの人たちに作品が届いているようで、一ファンとしてとても嬉しく思いながら眺めています。
 ずいぶん昔に、村井さんのカレンダーイベントの福岡公演に行ったとき、会場にいるほとんどの人が、戦国鍋TVのファンであり、ちょっきんの舞台作品を生で見ていないなと感じました。というのも、遠征するようなファンが根本的に多くないのは前提として、日常的に劇場に行く人も、福岡での舞台公演も、東京に比べたら圧倒的に少ないんですよね。舞台芸術と出会えるタイミングがない。別に舞台が嫌いとかじゃなくて、知らないんですよね。
 なので、こういう形でこまつ座さんや、各地の演劇を招聘する団体さんたちが手を取り合って、作品を届ける場所そのものを創生しているというのは、とても素晴らしいなと思いました。


 残すところあと二公演となったタイミングでアレですが、きらめく星座の感想をしたためます。ネタバレ過多、主観もりもり、推しのことをよく話す。どうぞよろしくお願いします。

全体

 井上戯曲のこまつ座作品は、「日本人のへそ」「吾輩は漱石である」「きらめく星座」を見ましたが、個人的に「きらめく」が圧倒的にわかりやすい話だなと感じました。


「日本人のへそ」はメタ的な劇中劇と異化効果がバリバリに効いている感じで、生身の人間の演じる演劇としての圧力や熱量がすごかったです。その分、頭の中で話を整理しようとすると、どこに焦点を当ててまとめればいいのかわからず、「つまり…なんだったんだ?」となってしまい、しばらく脳味噌がオーバーヒートしました。見た感覚としては「ピカソとアインシュタイン」に近いです。

「吾輩は漱石である」は病に伏せる漱石と、その周りでの会話劇、そして漱石作品のモチーフをふんだんに取り込んだ夢の中の学生生活が描かれており、見応えがありました。ただ別に漱石に特別入れ込んでるわけじゃないからな……というのもあって、サラッと見終えてしまった部分も。漱石は英国で自転車に乗った時の随筆が好きです。

 で、「きらめく星座」ですが、これは一般の人々の生活を丹念かつユーモラスに描いているところや、太平洋戦争直前という、現代にも通じる空気感がある為、圧倒的に「わかり」がよかったです。井上ひさしさんの私戯曲とも言われるそうですね。メタ的な構造は目立たず、音楽もふんだんに使われ、素直に見終えることが出来ました。

 キャラクターの感情の振り幅が広く、「何が正しいのか」という問いかけが何度も繰り返されるなかで、見る側もとても考えさせられます。現代日本人だと、源さんの言動が滑稽に見えるとは思うのですが、そこでもう一歩踏み込んで、戦争におけるPTSDに対する理解を深めてから見たいなとも思います。これは真後ろの席の男性が、源さんを「馬鹿げたコスプレ野郎」と評していたことに怒って言っています。

 ラストの「青空」合唱が本当に晴れ晴れとしてすがすがしく、それだけに響きわたる半鐘の音、暗闇の中に浮かぶ防毒面、迫る戦禍のイメージで終わるところが本当によいんですよね。すっきり終わらせず、これからどうなるのか、自分はどうしようかと見る側に考えさせてくれる感じがしました。

 そんな感じで、楽しく見られるのに、問いかけは深く優しく、胸の中に残るもののある、素敵な作品だなと感じました。地方公演でたくさんの人の胸にも青空が残っているといいなと思います。

使用された曲

 戯曲を読めばすぐわかるのですが、後々自分で聞きたくなった時用に、タイトルを並べておきます。

東京ラプソディ
ああそれなのに
月光値千金
紀元節の歌(ピアノ)
きらめく星座
隣組(トンカラリ) 徳山たまき(王連)
愛国の花
雨のブルース(ピアノ曲)
一杯のコーヒーから
愛馬進軍歌
抜刀曲
小さい喫茶店 沼津太郎
青空 市川春代・藤原山彦
桃太郎(ピアノ)
雨降りお月さん(ピアノ)
チャイナ・タンゴ
星めぐりの歌 宮沢賢治
露営の歌 五番
煙草屋の娘 高峰秀子

各キャラごとの感想

松岡依都美/ふじ

 かわいいー! 「愛国の花」に乗せて踊るバケツ体操が可愛かったです。あと、源さんに恩賜の煙草をさわらせまいとする動きが、元歌劇団スタア感があって好きでした。なにを考えてるんだと言われそうですが、バケツ体操のレーティングがずっと気になっています。婦女子のけなげさに胸打たれるのか、普段見ないような動きをしているセクシーさを楽しむのか、どっちかなと…。
 カラッと明るく、人の懐にぽんっと入っていける上に、当人の懐自体も広いお母さん像がとてもしっくりくる、素敵なお声と芝居で素敵でした。みさをさんを嫁がせようと画策しているときの、寄り目になっている芝居がコミカルで、怖いんだけどおもしろいという絶妙なラインがよかったです。継母ってこわいねと笑えるし、みさをさんも完全に強要されたわけではなくて、自分で源さんと結婚することを選べたんだろうな、と思える余地があるのが、いい案配でした。
「青空」の歌唱も素敵で、ラストの晴れやかさと、そこからの未来の暗さを表現されていてぐっときました。

久保酎吉/新吉

 いいキャラだなーと思いました。若い奥さんがいるけど、変にスケベな感じはなく、でも奥さんが大好きなのも端々に感じられて、幸せになってほしいなと祈らずにいられない。源さんに恩賜の煙草をさわらせまいとする時に、奥さんのマネをするも、しらーっとした目で見られて引き下がるのがとても可愛かったです。
 主要キャラの中では、主張と思想は強くない方の印象があります。ただオデオン堂のありかたを描く中で、音楽を愛し、日々を愛す心が伝わってきて、ある意味では作品のテーマを体現しているのかなとも思いました。

大鷹明良/竹田

 一番思想強いマン。源さんとバチバチにやり合うのが面白かったです。日本人の方が夜戦に強いというこじつけは、目の色が薄い外国人の方が暗い中でも目がきくらしいぜ! と援護したい気持ちになりました。
 訥々とした語り口でありつつも、言葉の流れが感じられ、考えや感情が丁寧に伝わってくる芝居が、とてもキャラクターらしく、教師や広告文案の作家という、誰かに何かを伝えようとする気持ちが感じられました。
 迷って問いかけてくる正一に対して「そうだぞ間違ってるんだ!」みたいに決めつけて教え諭したりせず、彼がこれから考えていく余地を残してくれてるのが、大人だなーと思いました。源さんは自分なりの考えがある大人だったから、真正面から殴り合いにいったんでしょうね。
 終盤で奥さんに「好きです……」と言ったときののんびりした感じと、若干怒ってるお父さんの対比が可愛くて好きでした。

後藤浩明/森本

ほぼしゃべらないけど雄弁なピアノマン。可愛いなー。たまごについての壮大な構想をピアノで語るところがとてもよかったです。
BGMとして他の人に寄り添うところと、キャラクターとして自分を立たせるところ、それぞれ使い分けていてすごかったです。

瀬戸さおり/みさを

 お下げが似合うすっきり系美少女……たまらん……。お声も清楚で、ビジュアル最強すぎました。好きです。
 インタビューで感情の振れ幅が大きいと言われていましたが、たしかに一番しんどそう! 正一さんのしんどさとはまた違う、待ち続ける、支え続ける存在としてのしんどさがあるように思いました。
 看護婦さん(昭和15年なので看護婦です)を目指すところなど、人の役に立ちたいという優しい心がすごく感じられて…
 きらめく星座の奥深いなーと思うところは、基本的には反戦なのですが、じゃあこの時代の価値観で考えた時に、誰かの役に立ちたいと思ったら何を選択するか?っていうところまで考えて、キャラクターの選択や決意を描いているところで、みさをさんは兵隊さんのために尽くしたいと思っているし、正一さんも兵隊さんになろうと思っている。単純にわかりやすく、戦争は悪いですね、っていう話にしていないんですよね。
 それは当時の空気を知りつつも、そのあとの世の中の価値観の変化も感じてきた井上さんだからこそ書けたものなんですよね。もちろん今を生きる私達が、この時代を書くことも可能ではあるのですが、資料をあたって想像するのと、肌身に感じてきたことを描くのとは、別の作業になるので、まあ別の作品になるだろうなと思っています。
 みさをさんも、源さんの中にある「この国の道義」の変化を感じ取って、一緒に苦しんでるのかなと思いました。でも不安だから、不安定だから苦しんでいた彼女が、最終的に、スッキリと「あなた、世の中のことに腹を立ててはいけません」と言い切れるようになったのが、少女としての不安定さから、母や妻としての背筋の通り方に変化したのかなと感じられてほっこりしました。

粟野史浩/源一郎

 本当に丁寧に、真面目で素直ないいひとに仕上げていて、この方の源さんを見られてよかったなーと思いました。
 先に書いた通り、後ろの席の方の「馬鹿げたコスプレ野郎」評にブチギレておりまして。戦火の中で、人を殺して、自分の手も吹っ飛んで、でも死ねずに帰ってきた時に、天皇や国の道義とともにどうにか立って生きている人が、どうして馬鹿なんだと。
 コーヒーの場面は、見よう・やりようによっては、お馬鹿な軍国主義者を、自由主義的で先進的なオデオン堂の面々が、からかって遊んでいるようにも見えると思うのですが、この座組だと、真っ直ぐな性質の源さんと、自由な面々が腹を割って、茶々を入れつつ話しているように感じられて、微笑ましさもあるように思いました。いやおちょくってるとは思うんですけど! 見下してるわけではないんじゃないかなと、後々の幻肢痛への心配も含めて、感じております。
 オデオン堂の面々や、帰ってきた正一を匿う中で、彼の中で道義に対する疑念が生まれてくるのですが、それがただ良くなっていくわけではなくて、痛みとして現れるというのが、物語の面白さですね。それに伴ってみさをさんも不安定になる。感情の緩急が本当に上手い…脚本も上手いし、自分の信じていたものがもろもろと崩れていくのを目の当たりにした人間の芝居も上手い。
 シンプルにキャラクターとして一番好きなのは源さんですね。
 卵の食べ方が妙にハイカラなのと、怒ると顔が赤くなっていくのが可愛かったです。

木村靖司/権田

 いい味出してますよね…かなり好きです。役目をまっとうする律儀さは、人間愛と繋がっていて、だからこそオデオン堂の面々とも通じるものがあったのかなと思っています。
 チャイナ・タンゴで正一と一緒に踊ってるのが可愛くて、そこからの捕物もテンポが良くていいですね。住み込んでくるのも愛しい。基本的に音楽好きで陽気な性質なんですかね。
 オデオン堂の最後にビールとくじらを勧められたときの、「んん~~~~~~んゃっ」という拒否が可愛かったです。

高倉直人&小比類巻諒介

 かわいい。冒頭のガラス割るのと、(電報を届けに来たの)、ラストの出生前の青年たちですよね。
 声が良くてコミカルな芝居も上手く、とても良かったです。源さんの「煙草屋の娘」にどんどんしょんぼりしていくのが可愛かった。

村井良大/正一

 推し殿…いい役を…得られましたな…(謎目線)
 耳が良すぎたために砲の音に耐えきれず軍から逃亡した男。なんだかんだ友だちが多く、いろんな場所に潜り込むことで逃げ延びてきた。
 演じる本人も「なんで誰も脱走したことを怒らないんだろう」というような話をしていましたが、推しの正一の、人懐こいところや、人に対して誠実なところを見ていると、「まあなんか理由があるんだろうな…」と勝手に納得して匿ってやりたくなる感じが出ていて、見ている側としてはそこまで疑問に思いませんでした。
 場面場面のいいところで出てきて、場をかき回し、去っていくのが上手い! そのシーンにとっての異分子なので、がらっと空気が変わるのですが、なんだろうな、違和感やご都合主義にはならないというか、変わるけど馴染む。
 以前何かで「自分を家電に例えると空気清浄機」と言っていて、こいつおもろ…と思った記憶があるのですが、そんな感じが出ていたように思います。割と本人の素の性質に近いような気もします。
 個人的にイチオシはチャイナ・タンゴ…白の揃いに朱赤のアイラインが美しいんですよ~!! これも空気を変えるための装置として栗山さんから指示されているそうですが、純粋に美しいので…眼福ですね…この姿のまま踊り倒すところがすごく可愛いです。周りのみんなに、やめなさいと言われているのに、ゴンさんと踊ろうとするところでは、人懐こい笑顔を浮かべていて、本当に人間と音楽が好きなんだなあと感じられました。めちゃくちゃ可愛いです。
 源さんとの関係性の変化がすごく好きで…「逃げ回るのは面白いか」の問答や、道義について通じるところのある二人も好きでした。


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