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ミュージカル 手紙 感想

ミュージカル「手紙」 感想

珍しく千穐楽後の感想記録です!
そろそろ記憶が薄れてきている。
いつも通り、※個人の感想です ※真実は保証しません


何で書くのが遅くなったのか

手紙という作品が、私にとって難しかったからです!
個人的には、ピカソとアインシュタインに次ぐ難しさでした。

どう解釈すればいいかわからず、考え込んではうなっていたり。
「世間の目」という描写が怖くて腹が立って苦手で、作品への態度が硬化してしまったり。
周囲の「泣けた」という空気に圧迫されて、作品について理解できてないんじゃ…と病んだり
いろんな意味で、「難しい」作品でした。

推しもキャラクターの解像度がクソ高いんですけど、今作のような、リアリティ強め×感情の落とし所明示なし×高解像度役者多めが重なると、こんなに見ててしんどいんだなあとしみじみ感じました。
そんなハイエンドなグラボ積んでないんだよなぁ!

ぱん!と「泣けました!」「感動した!」「良かった!」のポップアップウィンドウを出して、「このプログラムを強制終了します!皆様ご来場ありがとうございました!」って出来れば、多分それはそれで綺麗に終われるんです。
でも、私は先に言ったとおり、「空気」の存在感に当てられて、一種不安症のような状態になっていたので、うっかりポップアップブロッカーが作動してしまい、終了ボタンすら押せないような状態だったんですよ。
処理落ちしてるのにプログラムは終了できなくて、常時頭の端に残ってるような状態で、しばらく寝付きが悪かったし、たまに鬱々していました。
なので、推しが「あんまり寝られなかった」と言っていて、親近感がわきました。


推しの「手紙」に救われた

まあ実際には手紙ではないんですけれど。
この作品について、推しである村井良大さんは、折に触れて言葉で触れてくださっていました。
それを読んでいくうちに、ゆっくりと、自分の中で折り合いをつけることが出来ました。

遠藤さん演じる先生に対して、直貴である推しが、「優しい」と言っているのを読んで、
「そうか、周りで責め立てるようにしている姿だけが本当じゃないんだ」
「生徒としての直貴の為に心を痛めている姿も本当だ」
と、認識を広げることも出来ました。

実際に先生は、直貴をいじめる女子生徒をたしなめたり、直貴を気遣って手紙で連絡を取り合いつづけているんですよね…。
ひとりひとりをしっかりと見ることで、ただ「空気」に押し流されているだけではない、個々人の価値観や優しさを感じることが出来ました。

また、パンフレットに作品の構成の妙や、「空気」についてのコメントを書いてくださったおかげで、作品の見方を考えることが出来ました。

この推しの書くものが絶妙で…
自分の見え方は教えてくれるんですけど、こちらの見方を固定する感じではないんですよね。
それが優しいなあと思えるし、自分なりに考えてみよう、と思うことも出来た。
推しがいなければ、この苦しい作品に出会うこともなかったけど、推しがいたからこそ掴んだものがあるというのは、なんとなく、不思議で大切な縁だなと思います。


作品感想

長い長い前置きはここまでにして、作品の感想を。

すごくよかったです!
犯罪加害者となった兄とその弟の、リアルな日常と崩壊、世間の目の冷たさ、その中で築き上げた人との繋がりの温かさなどが、素敵な音楽に乗せて描き出されていました。

藤田俊太郎さんの演出も素敵で…
昔から、藤田さんの、観客と舞台を繋ぐ演出が好きで、特にTake me outの冒頭でセンターステージを囲むように置いてあった棚をあけて、客席と繋がるようにするのとか、ジャージー・ボーイズや天保のラストに鏡で客席を舞台上に取り込むのとかが好きなんですけど、手紙では、脚本からそういう構造を作っていたのかなと感じました。

推しがパンフで言っていた「1幕は起承転結がはっきりあるけど、2幕は独特で、実際のドキュメンタリーみたい」という構成は実際にそうだったんですよね。
1幕では魅力的な展開で、物語の中に観客の心を取り込んでいく。
2幕ではあえてわかりやすい構成にしないことで、観客を期待させつつ考えさせ、第四の壁をあやふやにし、心の中に剛志や周囲の人たちを観客の心の中に残して終わる…
という風に感じました。

剛志と周囲の人たちが客席に歩いて行って、直貴は舞台奥に去って行くのは、剛志達が私たちであり、直貴は彼の物語の中に帰って行くからかもなあと感じたり。
実際の意図はわかりませんが、私にはそう感じられました。

各キャスト感想

定番ですが「推しは(長くなるので)最後です」

spi/武島剛志

芝居も歌も好きだなあ…。
spiさんはオリバー!でのビル・サイクス怪演も見ていたのですが、悪いことをしているのに、それをせざるを得ない背景を感じさせるのがすごいなと感じました。
これは、他人のせいにするのがうまい、という意味ではなくて。
演技を見せることで、これまでこのキャラクターが生きてきた中で、自分の力だけではどうしようもなかったこともあるだろうと感じさせる、つまり、演じている瞬間以前にも確かにこの人は存在したのだと、そこにその人だけでなく、その人を取り巻く世界もあったのだと、見る人に感じさせる力がある、という意味です。

キャラが生きている、の高解像度背景付き、みたいな。
そこにあの繊細だけど存在感のある歌声が響くんですからね…尋常じゃないですよ。
芝居と歌の説得力がすさまじい。

剛志という役は、完全に悪にしてしまうと、物語全体の意味がかなり変わってしまう役なんですよね。直貴は主観キャラクターだけど、その主観が見つめている、目を逸らそうとしてもどこかに存在を感じてしまうキーパーソンが剛志なので。

細やかなお芝居がとても素敵で、牢名主と対峙する時のゆるがなさがすごくよくて、逆に「小さい頃から療育をしてあげられたら、少しは変わったのかな…」と考えてしまいました。
あと一番好きなのは、強盗先でテレビを見るシーン。部屋の広さや、テレビの大きさ、未知の幸福への純粋な好奇心が感じられて、こちらも切ない気持ちになりました。

三浦透子/由実子

大天才では…???

実は見る前は、あんまり好きじゃなかったんですよね…何故かというと、推しがべったべたに褒めてたので…ギリッ……と…

でも芝居を見て、歌を聴いたらも~~~~大好き。

自然だけど愛情を感じる芝居に、あの透明感のある、天から降り注ぐようなお声が最高すぎた。

ミュージカルの由実子は割と、原作だと他のキャラ(ほぼ名前がないモブとかにも)に散らばっていた役割を全部集めてあるので、原作以上に重要キャラで女神でした。

ラストシーンも、原作だと「歌えない」で終わるのですが、ミュージカルではそのあとの心情や状況を俯瞰的に、優しい歌声で描いてくれるのが、とても良かったです。
由実子のおかげで、兄弟の最後が、ただの断絶ではなく、この先にさまざまな可能性がある旅立ちであることが感じられました。

中村嶺亜(7 MEN 侍 / ジャニーズJr.)/祐輔

いいやつ~~~~~!!!

年代と衣装と名前の関係で、推しの仮面ライダー時(ユウスケ)を思い出して、妙な感傷を覚えました。
人間味と聖人じみた純粋な優しさが奇跡のバランスをとっており、キャラとしてとても素敵でした。お歌やお芝居も魅力的だったな。
直貴といちゃいちゃしてるのが可愛すぎて、酒場のシーンは何回でも見たかったです。

直貴が由実子に「本当のことを伝えたあとも、君だけがずっと俺のそばにいてくれた」と言う所では、うっすらと祐輔が「おれもいるよ!」と言う幻聴が聞こえてました。笑

音楽に救われて、でもまた捨てられた直貴が、祐輔に音楽を辞めないでくれと言うシーンは胸に来るものがありました。「兄貴をぶん殴りたい」という直貴の気持ちを引き出した、というのもとても大事なシーンだったと思います。

佐々木大光(7 MEN 侍 / ジャニーズJr.)/コータ
今野大輝(7 MEN 侍 / ジャニーズJr.)/アツシ

憎めない二人なんだよな~~~~~!!!!
音楽好きだし、それで生きていきたいんだよな、というのが感じられる、まっすぐで素敵なお芝居と歌でした。
そりゃもう、直貴も憎めないよな…音楽好きだもんね…。
名前のある役以外にも、ものっっっっすごく衣装替え&出番があるので、大変だったろうな…見応えがとてもありました。

佐々木さんは前山が良かったですね。「悪い奴なんだから、俺がするのも天罰だろ」みたいな自己防衛的な浅ましさが出ていて、いそうだな~という感じ好きでした。その直後に主治医として白衣を着て出てくるのはちょっと面白かった。

今野さんはバイト店長と保育士さんの衣装が可愛かった…。新星電機の時のダンスも、キレがよくて、目がついつい吸い寄せられました。

青野紗穂/朝美

歌がうまい…。
歌がうまいし、別世界でキラキラしてるから、直貴が惹かれるのも納得!という美女でした。
原作だと朝美の家で直貴がいびられるシーンがあるのですが、ミュージカルだとそこがちょっと話に出てくるだけだったので、安心して見ていられました。

先に教えておいて欲しかったという、恋人に信頼されていなかったさみしさや、でも言われてたら…という自分でもうっすら気付いているいたたまれなさが爆発して、直貴と言い合いをするシーンが好きでした。RENTのHalloweenが頭をよぎりましたね。

染谷洸太/忠夫

染谷さんの歌と芝居も胸にくるんだよな…。
母を理不尽にも殺された息子を、じっくりと重みのある演技で描き出していたように思います。

シンプルに犯人が憎い、死刑にして欲しかったという、事件直後の葬儀の場での鮮烈な悲しみも素晴らしいのですが、時間が経って、直貴と対面したときの、熱量は少しずつ喪いながらも、どうしても忘れきれず、じくじくと痛むような怒りや嘆きの様子もすごい

手紙って、武島兄弟寄りに描いて、世間の無理解だけを誇張することも出来る題材でもあるんですが、当然それだと一面的になりすぎるし、罪そのものも扱いも軽くなってしまうんですよね。
今回染谷さんが、しっかりと明確に「犯罪被害者(の子)」である忠夫でいてくれたおかげで、この物語の複雑で、やりきれないところが出て、とても良かったと思います。

演劇って、どれだけ端役でセリフや出演時間が短くても、一人の人間がリアルタイムでキャラクターを演じるので、文字媒体や映像媒体よりも、情報量を多く出来るなって思っていて、それがものすごく効いてるのが、この忠夫であり、染谷さんという役者さんだなと感じました。

遠藤瑠美子/検事

検事よりも先生の印象が強いかな。先に出てたからか、武島兄弟との関係性がずっと続いてるからか。
検事も、武島兄弟を主役にしすぎない…いい人にしすぎない、罪は罪としてあるのだと、しっかり伝えてくれるいいお芝居だったと思います。

先生も、上の方で書いてるんですけど、罪はあるし、それを忌避する気持ちもあるけれど、自分が先生であるという認識がしっかりあり、同時に「自分の生徒」へのあたたかい気遣いもあるという、人間の多面性を感じさせてくれて好きでした。祐輔のことも気遣ってるし、青野さん演じる嫌味JKもきちんと叱ってるんですよね。

ソロで「諦めなさい。夢も、就職も。望んでも無理。恋も、結婚も」と直貴に向かって歌うのが印象的で…はじめは「そういうのに価値を置くマジョリティ思想無理~!!!!!」ってパニクって拒否ってたんですけど、段々と「先生が生徒が傷つかないように諭すような歌でもあるのかな…」という風に解釈が変わってきて、ビビらずに聞けるようになりました。

五十嵐可絵/緒方敏江

殺されそうになってるときの叫び声が、本当に綺麗に通るので、逆に剛志の気持ちに共感しちゃいましたね…。なんで?どうして話聞いてくれないの??黙ってくれよ!!!って気持ちがざわざわしてしまいました。

人事部長のとりつく島もないところ、逆に嫌いではなかったかな。いやこの会社コンプラやべーな??とは思いましたが。新星電機は全社的にコンプラがヤバイ。

前山母もすごい…感情をざわつかせるのが上手い……本人めっちゃマジで本気で申し訳ないと思ってるんだろうけど、直貴の言う「今は受け止められる状態じゃないので」に共感してしまうほど、ざりざりした圧を感じて、すごい苦手でした。
芝居が上手い…。

川口竜也/平野

平野社長、言うほどマトモじゃなくね?????????って思いながら見てました。
私自身も、差別は絶対なくならないと思ってるんですよね。何故かというと、人間はそんないちいち相手の状況や歴史を全部理解した上で、言動を取捨選択できるほどの、脳みそのスペックを持っていないからです。
平野社長の言ったことは、内容的には間違っていないかも知れないですが、あれ自体が既に保身のために言ってることじゃないですか。あと社長なのに、言ったことの責任取らない。君は私の言ったことを勘違いしている、とか、あとからなら何とでも言えますわねー?!って思ってしまったし。なので嫌いなんですよね。
これは役者の芝居ではなく、原作からそのまま来てるセリフへの感想です。

川野さんの芝居で言うと、牢名主(川崎)が特に好きでした。悪いことも当然してるんですけど、人間味があるし、年少上がりの子達の面倒も見ている。まっすぐすぎる剛志のことも気にかけてくれる。懐の深い、かっこいいおじさんだなと思いました。
キャラクターの作り込みがすごいしっかりしていて…

そういう背景をしっかり感じさせてくれる、いいお芝居でした。

村井良大/武島直貴

めちゃヨカッタナ…。
冒頭は、高校生の制服を着て登場。可愛い。若い。
メチャクチャ顔がいいんだけど、いい意味で衣装に着られるというか…何着ても俺!ってタイプではなくて、その衣装をまとう意義を、芝居で体現して見せてくれるので、制服も全然イケちゃってましたね。ありがとうございます。
それはそれとして、若い子達がいるのに俺も制服を…?!っておじさんムーブしてるのも可愛かった。

spiさんや嶺亜くんとの信頼関係が良くてな~~~。

spiさんと、彼の演じる兄・剛志への信頼がよかった。なんだろう、そこにいてくれることに不安がない、みたいな。ベタベタに甘えるとか、頼るってわけではなくて、お互いに在るように在ることを肯定し合っている感じ。芝居への信頼が厚いのが、兄弟の実在感を高めていたようにも感じます。

冒頭の本当に短い兄弟のやりとりだけで、二人の絆を描いて、そこから2時間近くも一切目を合わせずに、でもどうあがいても切れない、でもどうやっても会えない兄弟の繋がりを見せていくんですよ?! 少しでも心が離れてしまえば、話の骨子からボキボキになるのに…すごいよなあ。

その、目を合わせない状況が、ラストで回収されるの、すごい好きでした。
あと冒頭の行ってくるぜ、って時に剛志がしていた、胸をたたいてみせる仕草をまたやってくれることで、確かにこれは二人の旅立ちなんだな~と感じさせてくれたのも良かったです。これspiさんの感想ですね。まあいいか。

嶺亜くんとは仲良し…仲良しですね。なんか近くに来たらワーッと遊んで、またお互い自分らしく生きて…という祐輔と直貴の関係性が感じられてとても良かった…。祐輔をミュージシャンとして認識したときの、ついつい口調を正してしまう直貴も可愛かったです。

推しの細やかな芝居が好きで、手の動き大好きトップ3はペダステでサイリウムを折って振る坂道ちゃん(サイリウムの弾性が感じられてビビった)・猫と裁判でカマキリの腹を刃物で割く沢渡(腹の丸みと抵抗があって怖かった)・殺意の衝動で先輩を殺す羽水くん(死んでいく先輩の動きもわかる感じ)とか素で言えるくらいずっと反芻していて、蜘蛛女のキスもモリーナに対して引いた線への芝居とか、腹痛シーンの芝居が大好きだったんですけど、
今回の祐輔・由実子との飲み会での、注がれたビールの量で動きが変わるところも大好きでした。

この作品は本当に…やりきれなさや、どうしようもなさ、憤り、諦め、という、日常で一つずつ山積していっても、とてもしんどい感情や思考を、犯罪加害者家族という爆裂重い状況×十数年分にして、2時間にまとめて、ミュージカルとして感情を音楽に乗せて誇張した話なので、見てる側としてもものすごくいっぱいいっぱいになってしまったんですよね。
それを主役としてしっかり演じきったというのは、とてつもなくすごいことだな…と。セリフ量で言えばカワイク・シアワセよりは少ないと思うんですけど、感情量でいったら数十倍じゃないか。

「一日四時間しか寝れてなくても歌えるもんだなーって」って言ってて、やべーなこいつと素で思いました。


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