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お線香に殺されかける

病院の臭い、プールの臭い、一般的に嫌われている臭い。

嫌いと言う人が多いが、わたしは病院や歯医者の匂いが好きだ。プールのつんとする臭いは普通に嫌いだ。

もう一つ、わたしが好きな匂いで変わっていると言われるのが「お線香」の匂いだ。

だが、家に仏壇がないので、祖父母の家に行ったときくらいしかお線香の匂いを嗅ぐ機会がない。

はらりはらりと積もっていくお線香欲が山となり、先日ついにわたしの指がAmazonに導かれ、ベストセラーのお香立てを注文していた。翌日に届くというアマゾンプライムの驚異的便利さに感謝と恐怖を抱きながら、翌日ダイソーにお線香を買いに行った。

いろいろ種類があり迷ったが、由緒あるやつは間違い無いだろうと思い毎日香を買った。

早速家でお線香に火をつけた。白檀の匂いが漂って、とても癒された。途中からすこし灰くささも感じるのだが、けむりの漂い方といい、白檀の香りといい最高だなーと満足していた。

それ以来ほぼ毎日お線香をつけていたのだが、お線香が好きじゃない家族もいると思ったのでできるだけ1人きりのときか、自分の部屋で使うことにしていた。

昨年末、千葉でひとり暮らししている姉が実家に帰ってきた日も自分の部屋でお線香をつけた。そのあと一旦リビングに寄ったとき、姉にくさいと言われ、母にもくさいと言われた。
やばい!部屋のドアを閉め忘れた!と思い急いで部屋に戻りドアを閉め、窓を開け、寒風に震えていた。
この時期はちょうど冬の寒さのギアが一段上がった時期だった。

匂いを確認にリビングに戻ると、先程急いでドアを閉めた音が大きかったのかわたしが怒っていると勘違いした母が、「ごめんそういう意味じゃないんだよ」と言ってきた。

「くさい」に「くさい」以外の意味があるとは思えなかった。
単に線香のにおいがするねという意味にもとれるが、わたしの母は忖度をさせることに関しては匠の領域にいるので「線香のにおいがするね」=「線香くさいね」=「早くこのにおいどうにかして」
なのである。

とりあえずわたしは「あー大丈夫、換気してきた。ごめんドア閉め忘れて」と言った。
そして、お線香ではなく、いい匂いのお香を買おうとわたしは決心した。

後日デパートに行き、薫玉堂という多種多様なお香とお香関連のものを売っているお店で選べるお香5種類セットを買った。

わたしが選抜した匂いはどれもいい匂いでリラックス効果がありそうな感じだ。このメンバーなら勝てるという確信を持ち家に帰った。

せっかくリラックス効果があるので寝る前に使おうと思い、早速その日の就寝前に使った。

とてもいい匂いだ。そして全く灰くさくない。そして驚いたのが、お香の燃えた後の白い灰がすぐに落ちていかず、長い灰の棒となってかたまりで落ちていくのだ。
1番長いやつは灰が曲がって円になったものが3つできていた。あと2つでスポーツの祭典だ。さすが選抜メンバー。

お香のリラックス効果なのか、すぐに瞼が重くなり、いい匂いに包まれて眠った。

翌朝、母に「お香使った?いい匂いだね。やっぱりお線香じゃなくていい匂いのいいお香の方がいいよ!」と言われた。
やっぱりそういう意味だったじゃねえかよ!と思いつつ、いい匂いだろと選抜メンバーを自慢しておいた。
選抜メンバー、そして監督のわたしの勝利である。

それ以来毎日寝る前お香をつけるようになったのだが、もったいないのがわたしの鼻がすこし詰まっていたことだ。

もっとしっかりいい匂いを堪能したいと思い、ベッドサイドのテーブルにお香立てを移動し、煙を直浴びできるようにした。
いやーいい匂いだ。最高だと思い眠った。

それを3日ほど続けた。いい匂いが体にく感じがしてお得だなと思っていたのだが、鼻づまりがひどくなった。そして痰づまりも出てきた。

もっと近づけようとベッドにベッドサイドテーブルをびたづけし、寝た。さらに症状がひどくなりやっと気がついた。
原因、絶対煙だ。冷静に考えたらいい匂いだけど煙は煙だ。それを直に浴びて呼吸のたびに摂取していれば絶対に異常が出る。
騙された。チョウチンアンコウの餌の捕まえ方みたいな手法で殺されかけた。危なかった。

さすが選抜メンバー、監督のわたしの力量が足りないとみるやすぐ牙をむく。危なかったぜ。

その日はお香をもとの遠い位置、本棚の上に移動して使った。翌朝起きると鼻詰まり痰詰まりは残っているが、呼吸が遥かに楽になっていた。

やっぱり煙だった。

お香の匂いが本能的に体が嫌う匂い、そしてわたしの一族に代々嫌われる呪いの香りになる前に気がついてよかった。

死因がお香の煙なんてニュースになってしまいそうだ。

それにしても、もしお香の煙を吸って死んでしまった場合、わたしの仏壇ではお線香を使わないのかな、代わりになにを使うんだろう。
さすがにお坊さんも予想外のシチュエーションだろうなと思った。

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