妹が登校拒否になりかけた時の話

妹が小学校に入学して間もなく、登校拒否になりかけた。
当時私は小学校6年生だった。

今から20年以上前の話だが、なんだか急に思い出したので書く。
妹は今もこの話をすると苦笑いをするので、後で非公開にするかも。

私は妹のことを構っている暇もなく、忙しく楽しい小学校生活を送っていた。妹が行きたくないと言い始めた最初のうちは、母も今日は休もうか、などと言って休ませていた。私と私の友人(妹も昔から知り合い)と一緒に登校できた日もあったが、学校に着いても、1時間目で早退することもしばしばだった。

学校での様子も凄かった。6年生と1年生は同じフロアだったため、授業が始まり妹が泣き叫ぶと、同級生たちが廊下側の窓から一斉に顔を出し「おい、またお前の妹泣いてるぞ。大丈夫かよ」と心配される程。廊下まで響き渡る妹の声を聞き、私の担任も心配し「少し見にいってあげたら」と私を促す。私の担任はとても融通が効く若くて元気な女性の先生だったので、よく妹のことまで気にかけてくれていた。皆の注目を浴びながら廊下を早歩きして妹のクラスまで様子を見に行く。妹は私の姿が見えると教室からダッシュで飛び出してきて、私に抱きつく。しがみつく妹の力がとんでもなく強かったのを覚えている。妹に離してもらえず、そのまま妹のクラスに一緒に参加したり、妹をおんぶして連れて行き、私の6年生のクラスに妹が参加したりしていた。
まるでトトロのメイである。

見かねた妹の担任が母に電話し、母が迎えに来るというのが毎日続いていた。
(実際この担任があまり良くなかったと思う。当時妹のことを猫じゃらしであやそうとしていたのを見た事があり、バカになってしまったのかと思った。高学年ばかり担任していた強面のおじさん先生だったので、低学年の子と触れ合うのが久しぶりだったせいもあると思うが。)

毎朝家でも尋常じゃないほど泣き叫ぶ妹を見て、普段は放任主義の父もいよいよ心配し始めた。当時から不登校問題はあって、父は職場の人にも相談していたらしい。母もお手上げ状態だったし、さすがに私も毎日授業中まで妹に構ってあげられない。
そして父はある日、決行した。

父はその日、いつも会社に行く時間を過ぎても家にいた。
どうしたの?と聞くと、お前は学校に行ってて良いぞと言われた。
毎朝、一緒に登校する友人が家に来てチャイムを鳴らしてくれるのだが、その日もいつものようにチャイムが鳴った。妹に「一緒に行く?」と聞いた。すると父が上手く誘導する。「今日は俺と一緒に会社に行くから、いいよ」と。するとその一言を聞いた妹は目を輝かせる。「やったー!パパと一緒に仕事行くー!」
そしてそのまま、父の車に一緒に乗り込んで行った。私は何か異変をを感じ取っていたが、妹は何の疑いも持っていなかった。
さすが小1、チョロい。

私は友人と普通に登校した。
学校に着くと、校門の方からいつもの泣き声が聞こえる。

そう、父は妹を騙し車に乗せ、無理くり学校に連れて行き、文字通り「暴れ狂う」妹を担ぎ上げて学校に乗り込んで行ったのだった。私の隣を父と妹が通り過ぎる時、騙された妹は「お姉ちゃん!!助けて!!パパに騙された!!助けて!!」と泣き叫んでいた。それに対して「うるせえ!お前は学校に行くのが仕事だ!」と父は叱った。父が本気で怒ったところを見るのは初めてだったので、恐らく父も相当辛かったと思う。

一緒に来た私の友人も、先に学校に着いていた同級生たちも、呆然とその光景を見つめていたが、私は面白半分、心配半分だったので、友人たちを連れて足早に職員室の陰に先回りして、父と妹が来るのを待ち、様子を伺った。

職員室で担任を待つ間も、父は妹をかなり叱りつけていた。妹の担任が出てくると父は「泣いても叫んでも、絶対に家に帰さないでください。殴ってでも良いので学校にいるように指導してください。一切家に電話をかけないでください。先生のやり方に全てお任せしますから、こいつを必ず学校に居させるようにお願いします」と物凄い剣幕でお願いしていた。

父は、担ぎ上げていた妹を力尽くで下ろした。妹は嫌だ嫌だと言いながら、父の腕に縋っていた。父は少々泣きそうだったが、最後に「いい加減にしろ!」と大声で妹を叱りつけ、そのまま消えていった。妹は泣き叫ぶことはせず、ぐすんぐすんと大泣きをした。
残された担任は、私の姿を見つけると慌てて来い来いとジェスチャーをしたので、歩いて近づいた。妹は私を見て諦めたのか、私の手を握ってえーんえーんと泣いた。前のように力は強くなかった。私も妹の手を握りながら、教室まで送ってあげた。

恐らくこの日を境に、妹は「学校は行かなければならない場所なんだ」と諦めをつけた。

その後も何度か泣き叫んで私のクラスに来たりしていたが、そのうちに心優しき私の同級生が、休み時間の度に妹と遊びに行ってくれるようになった。妹可愛いね〜と褒めてくれるので、あなたたちのお陰で妹も泣かなくなったよ、ありがとうね、と感謝を伝えた。それが続くと6年生と遊びたい1年生たち(妹の同級生)が、妹の周りに集まるようになり、妹と友達になってくれた。

夏休み前には妹も落ち着き、友達の家に遊びに行くようになったりするまでになった。

妹は無事、学校生活を始められた。

最近、妹とこの話になったので「あれ、無理くり行かされて嫌だったでしょ?」と聞いてみた。あの事件をきっかけに、妹は父といつもケンカしているし、相当傷ついたんだろうなと思っていたから。
すると驚いたことに、当の本人は「嫌だったけど、あれくらいしないと行かなかったと思う。パパは嫌いだけど、その点についてだけは感謝している」と言っていた。(つまり他のことや普段の生活態度が原因で父のことが嫌いなだけらしい。笑)

粗治療には基本反対派だが、たまには機能することもあるんだなあ、と思った出来事だった。

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