死刑囚再利用プログラム -Dead or Dream-〈28〉第四章-02
第四章
松本周平 編 Ⅱ-02
《 ルール 》
——— DPAには2つの特殊なルールが存在する。
まず、任務の評価を行う際、『過程』と『結果』を"完全に分けて"評価を行うといった、方法を採用している。
今回、DPA史上二度目の極秘作戦である【S】の確保を成功に導いた、その功績は大きな評価に値する。
しかし、過程には大きな問題があったことは公安の監視により明らかになっていた。
今回の任務は周平に一任されていたが、通常2人で行う任務を1人で担当する特殊な例ということもあり、
万が一のことがあった場合のリカバリー要員として、公安警察に所属するDPA職員2名が周平のことをすぐにサポートできるよう待機していた。
正確には周平が誤った行動をとらないかを監視することが目的だった。
その点において、DPAの存在を外部に漏らすという絶対的タブーを犯したこと。
そして【S】本人に数々のデータを流出させていること。
たまたま今回は運良く【S】がそれを拡散することなく終わったから良いものの、これはDPA存続に関わる重大な違反行為だ。
このことは厳罰に値する。
仮にこれらを数値で表すと、
過程における評価を-3、結果における評価を+5とした場合、結果的に+2という評価になる。
つまりこの場合、一切のお咎めなしとなる。
そして最も特殊かつ重要なルール。
『ルーキーの失態はバディであるシニア1人が全責任を負う』というもの。
そしてこのルールは、事前にルーキーへと伝える事は禁止されており、シニアになった者にしか告げられない。
何故なら、このルールの存在を知ると、自分の行動を律する理由がバディの存在になってしまうからだ。
つまりそれはバディの相手によってはルールを逸脱する可能性があるということを意味する。
DPAは超極秘組織であるため、自らの行動を律することができない人間は組織にとってリスクでしかない。
そのため、ルーキーはお咎めなしだが、あまりにも失態が目に余るようなら、エージェントから別の部署へととばされ、機密情報にも触れることができなくなる。
いわゆる窓際族というやつに追いやられる。
また、シニアにもこのルールを伝えずに部下を管理する監督能力が求められている。
例外として、ルーキーがこのルールを知ることができる唯一の条件、それは自身が失態を犯す事。
失態を犯し、バディが責任を取ることになった時にこのルールの存在を初めて知らされる。
斎藤自身も若い頃に失態を犯し、当時のバディであった、現本部長の秋山が責任をとり、エージェントを外されたことがある。
彼もそのときにこのルールを知った。
今回の件をこの2つのルールに則って判断すると
例に沿っていうなら斎藤が-3という評価になり厳罰に処される一方で、周平は【S】の確保という+5の大きな功績が認められシニアに昇格し、個人のオフィスが与えられる。
斎藤はカリフォルニア総本部で行われている会議が終わり次第エージェントから外され、帰国と同時に僻地へと飛ばされ内勤として働かされる。
エージェントの任務は、担当以外のエージェントには一切知らされることはない。
そのためシニアが異動になっても、それが本当に異動なのか、不祥事によるものなのか判断がつかないようになっている。
今回カリフォルニアで会議が行われていることも幹部以外では周平しか知らされていない。
しかし、エージェントとして自他共に認めるエースである斎藤。
彼が異動とはにわかには信じがたい。
そのため今回に限って、斎藤は本国からスカウトされ、栄転したと各シニアエージェントたちに伝えられた。
周平にもその口裏合わせを徹底することが義務付けられた。
万が一口外した場合、斎藤が二度と日の目を見ることができなくなるとも伝えられた。
そのため、今回の斎藤の件は周平の他には、担当オペレーターの五十嵐にのみ知らされる。
五十嵐は休みが開けた後、皇のオフィスに呼ばれ、事の顛末を伝えられた。
酷く動揺し、涙ながらに訴えたがそれも無意味に終わる。
追い討ちをかけるように、周平同様、周囲への口裏合わせを徹底された。
かつて愛した男、いや正確には未だに未練を断ち切れずにいる相手。
そんな相手を失ったことを、周囲には笑顔で話を合わせなければならない。
このことが、どれほど五十嵐の心を蝕んだか、それは他人には計り知れないほどの苦痛だった。
今回の周平の不祥事による斎藤への処分
これについて斎藤本人が事前に知らされることはない。
仮に今回、日本に圧倒的有利な条件で会議を終えたとしても、周平の犯したタブーを帳消しにすることはできない。
それが、エースと言われる斎藤でも特例は認められなかった。
そして、斎藤の帰国後、彼の姿を見た者は誰一人としていない。
更に皮肉なことに、周平に与えられたのは、使い慣れたこの斎藤のオフィスだった。
それ以外にも斎藤が所有していた複数の拠点も周平が引き継ぐこととなる。
周平がこのことを伝えられたのは、斎藤が帰国することになっていた日の朝。
オフィスへ行くと一通の封筒が届いていた。
中には2枚の紙が入っており、その1枚目には、今回の功績を認め、本日付でシニアに昇格を認めるといった内容が書かれている。
2枚目にはDPAの評価方法とルールの説明、更に一番下に今回周平が行った違反行為が全て筒抜けだったこと、そしてそれらの責任はバディである斎藤宗明が負うという内容が書かれていた。
任務中に自分が監視されていた事、そして知らされていなかったDPAのルール、それらの全責任を尊敬する斎藤が負う事。
すべての情報が薄っぺらいたった2枚の紙に記されていた。
この通知を見るやいなや、周平は副本部長の榊のオフィスへと押しかける。
全責任は自分が負うということを直談判しに行ったが、このルールに例外は認められないと相手にされなかった。
自分の今回の評価をチャラにして、斎藤の処分と相殺できないかなど考え得る限りの提案をしたが、榊は首を縦に振ることはない。
「組織においてルールは絶対であり、例外は一切認められない」
榊はその迫力のある三白眼で、周平のことをジッと睨みつけ答えた。
蛇に睨まれた蛙の如く、その迫力に身体が固まる。
諦めてオフィスを出ようとしたとき、榊が声をかける。
「斎藤自身も若いころお前と同じ過ちを犯し、バディが同じように別の部署へと飛ばされた。そのシニアエージェントが誰かわかるか?」
「...いえ、わかりません」
「本部長の秋山だ。ヤツは飛ばされた先でも腐らず邁進し続けた結果、現在では日本本部のトップに立っている。つまり、ここから先は斎藤本人の問題だ。ミスは誰だってある。腐るな、お前には今後も期待している」
周平は無言のまま深く頭を下げ、オフィスを後にした。
斎藤も同じ過ちを経験していること。更に飛ばされても道が閉ざされるわけではないということを聞き、自身への怒りと罪悪感がほんの少し和らいだ。
榊の話を聞いたことで、後悔ではなく反省し、怒りと罪悪感をバネにして一歩踏み出す力へと変える。
次に斎藤に会うチャンスが訪れた時に、成長した姿を見せることが最大の謝罪であり恩返しになると自分に言い聞かせ、前に進む決意をした。
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