寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第2回 ジョージア篇(7)
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ジョージア篇(7)
廃教会が秘めた破壊と占領の歴史
廃教会と聞くと、心霊スポット的恐ろしさをイメージする人もいるかもしれないけど、実際は部屋にいるだけでなにか善なるものに守られている安心感があった。
さらに魅力的だったのは静寂の深さだ。敷地内の古木や廃墟が目に見えない吸音バリアとなって都心の喧騒からこの場を守っているかのよう。
なんだか魔法にかけられたような場所。いったいどんな過去があるのだろう。
滞在中カハに訊いた話をつなぎ合わせると、ここにジョージア正教会が建てられたのは15世紀。
1795年にペルシャ帝国の攻撃で建物すべてが破壊されたあと、この地区に住むアルメニア人(カハの説明では、アルメニアからの“ディアスポラ=離散民”)によってアルメニア教会として再建されたそう。
その後、ロシア帝政下で多くの宗教的建物が破壊されたものの、この教会は破壊を免れ、現在の姿に至るという。
国の独立後、ジョージア正教会とアルメニア教会の両方がこの教会の所有を主張しているものの未だ妥協点が見つからず、建物は荒れ果てるまま。
「いつか問題が解決され、少なくとも修復されることを願っている」とカハ。
物静かな彼が一度だけ語気を強めたのは
「ソ連邦崩壊後、ジョージアはやっと独立を得たのに1992年と2008年、またもロシアに仕掛けられた2つの戦争の間に領土の約20%を奪われたんだ」
と語った時。
戦後日本の少なくとも表面上の平和と安泰にあぐらをかいて生きてきた私には想像が及ばないけれど、周辺国に翻弄されてきた国の歴史が人々の意識にこれほどの生々しさを帯びて常駐し、機会さえあれば強い感情とともに表に出る現実にドキッとさせられた。
話に圧倒されつつも
「この教会に守られているように感じます。修復される日が早くきますように」とだけ答えると
「関心をもってくれてありがとう」と
先ほどの激しさを一瞬にして引っ込めた笑顔で応じてくれた。
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前篇ここまで。
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