寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第2回 ジョージア篇(8)
第2回ジョージア篇の中編をお届けします!
全22章((0)~(18)+ブックガイドコラム3本)を3回に分けてお届けします! 【編集部】
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ジョージア篇(8)
スリルと緊張にみちたミニバス体験
体、頭、忍耐力という意味での心。3拍子そろって衰えが加速しているBBA(ババア=老婆)体にとって 今回の旅における不安材料の一つは 都市間の移動手段だった。
トビリシと周辺の多くの街々をつなぐ鉄道はなく、路線バス便もない。あるのはマルシュルートカと呼ばれるバンのみ。
あわてて付け加えると、マルシュルートカという、世界中ほとんどの国のガイドブックにもそう記される呼び名はロシア語由来ゆえ、最近はたんにミニバスと呼ぶことが多いらしい。その後に出会った複数の外国人旅行者からアドバイスを受け、以後ここでの表記もそのようにする。
ミニバス初体験はトビリシ〜シグナギ。シグナギはトビリシから東へ約170キロ、ぶどうとワインの一大産地カヘティ地方のちいさな街だ。18世紀の城壁に囲まれた風情ある街並み、家庭料理と自家製ワインを楽しめるゲストハウス(民宿)、画家ピロスマニの出身地に近いことから彼の作品を収蔵したシグナギ博物館などが人気の一大観光地。
私の目的もそれらのすべて。関心ある人のために記すと、事前申し込みなしで結婚式をあげられる結婚式場があることから最近は“愛の町”とも呼ばれ、その目的で訪れる人たちも多いらしい。
シグナギへの移動日は 日に5本しかないミニバスの11時発便になんとしても乗りこむため、朝から緊張気味だった。
カハの宿から歩いて地下鉄リバティスクエア駅へ、そこから4駅めのサムゴリ駅で降り、駅直結のミニバス乗り場へ、と書くと移動は楽勝みたいだけど、ガイドブックの文章と現実には天と地ほどの差があった。
バスターミナルといっても時刻表や乗り場やチケット窓口があるわけじゃない。でこぼこの空き地に同じようなバンが何十台も並んでいるだけ。
軟弱な私の目にはその光景がもうカオス。
乗客は、バスの前ガラスに貼られた紙で行先を確認し、そこにジョージア語表記しかない場合は客のほうから、シグナギ、シグナギ、と声をあげ、それを運転手に運良く聞き留めてもらい「この車だよ」と教えてもらうしかない。
料金はその場で現金で払って乗り込むしくみ。キャッシュレス化著しいジョージアも、ミニバスとB&Bの支払いだけは現金以外不可だった。
おまけに出発時刻が一応はあるにもかかわらず、満席になった時点で出発してしまう。
じつは前日、不安のあまり下見に来た。
たばこを吸ってたむろっていた運ちゃんグループに、
明日シグナギ行きはどこから、何時、予約要or不要、所要時間、いくら、
と勇気と小声を振り絞って何度も訊き、
ここから、9時11時13時、不要、2時間、10ラリ、
との重要情報をかき集めていた。
とはいえ実際に乗車するまでは気が気じゃない。
だから当日10時20分には目当てのバスを見つけ、荷物を積み、座席に座った時は安堵のあまり汗びっしょり、喉カラカラだった。
まさかと思っていたけどバスは出発予定時刻の15分前に満席になるや、さっさと出発してしまった。
ついでに書けば帰途の便も予定時間前に出発。のほほんと定刻に来たら確実に乗り損ねたし、その先の展開は想像するだけで恐ろしい。
ただ、感心したことが2つある。
一つは車内禁煙が完璧に守られていたこと。当然といえば当然だけど、ミニバス界隈が放つ何があっても不思議じゃない(失礼!)空気感からすると予想外の美点だった。
もう一つは運転手2人体制が遵守されていたこと。事故や故障や体調急変など道中の予期せぬ出来事に対応できるように。
車内で隣り合わせた外国人旅行者いわく、この国はエッセンシャルワーカーが大切にされている、と。組合活動が機能して労働者の権利も乗客の安全も守られているのだ。
立派な社会だな。ごめんね、カオスだなんて。
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3回に分けてお届けします! お楽しみに~!
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