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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第2回ジョージア篇(2)

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ジョージア篇(2)
デジタル化+人々の素朴さが両立する国


 トビリシ空港の到着フロアは 地方のバスターミナルを思わせる簡素さだった。
ロビーには 両替やSIMカードショップなどいくつの窓口と小さなカフェが一つだけ。
30分もたたないうちに、同じ便で降り立った人々のにぎわいは潮が引くように消えてしまった。

ひと気の絶えたロビーのベンチで、リュックの中身を機内用から市内歩き用に入れ替え、心細さを追い払うように、さあ行こう、と心のなかで声をかける。
38回目の欧州ひとり旅。
きっとまた心に残る出会いや景色が待ってるさ。

降機客や出迎えの人が去った後のトビリシ国際空港到着ロビー


 
 市街地に向かうバス便は337番の一路線のみ。
切符も現地のお金も持たずにバス停に向かえたのは、ジョージア社会はこの数年でデジタル化が急速に広がり、公共交通機関の運賃はICチップ付きクレジットカードで支払い可能、むしろ現金は使えない、とのネット情報を得ていたから。

エンジンを止めて表でタバコを吸っていたドライバーに目で挨拶して乗り込むと、同じ便で降りた旅行者らはすでに前のバスで発ってしまったのだろう、乗客はジモティとおぼしきおばちゃんや学生ばかり。
空港リムジンは地元の生活バスを兼ねているのだ。

 人の視線を一斉に浴びるのは日常でこそ最も苦手な状況だけど、海外ひとり旅のアウェー感のなかではむしろ逆。
衆目を集めれば、誰かが何かしら助けてくれる確率が高まることを経験から学んできた。
この時もそうだった。
握りしめたクレジットカードをどうすべきか迷っていると、地元高校生ふうの女の子がわざわざ席を立って「ここにタッチして」と教えてくれた。

 料金はどこまで乗っても一律1ラリ(1ラリ=約56円/2023年9月)。
小さな読み取り機にカードのICチップをかざすとピッと音がしてクリア。
当たり前のこととはいえ、きのう近所のスーパーで使ったカードで難なくトビリシの公共バスに乗れることに小さく感嘆する。
便利さに目をみはる思いで彼女に感謝を伝えると、どこから来たの、どこまで行くの、あなたの名は、と流暢な英語で人懐こく話しかけてくれた。
カズヨ、ナイスツーミートユー。

入国から2時間で地元女子高生に名を呼んで挨拶してもらうなんて初めてだ。
未知の外国人に対してさえ惜しまない親切心、素朴さ、人懐こさの一方、実用的な英語教育が若い世代に行き渡り、生活の隅々までデジタル化が進むなど、意外な両立をこの先行く先々で実感することになる。
ある国のイメージを旧来の紋切り型の指標で評価することなどとっくにできない時代なんだなぁ。

 空港から約1時間。にぎやかになっていく車窓に目を凝らしていると、さっきの女子高生が肩をたたき、
「カズヨ、次のバス停がリバティスクエア駅だよ」と教えてくれた。
マドローバ(ジョージア語で "ありがとう")親切で賢い若い人!

バスを降りながら、この国をもう好きになり始めてることに気づく。
街も人と同様、ファーストインプレッションが旅時間の質に大きくかかわってくる。
なにかとクヨクヨしがちな私のようなソロツーリストの場合はとくに。

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