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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第1回 アイルランド篇 ――(13)

(12)公共交通乗り放題カードで気の向くまままに からのつづき


アイルランド篇――
(13)街との再会。あるだろうか残り人生に(上)


ダブリン最後の日は、つい“追い込み”のような気持ちで朝からクライスト・チャーチ大聖堂ダブリン城など観光の王道コースを足早に巡ったものの、案の定、人混み疲れ。
時間と体力に限りあるアラ還ひとり旅、一般向け観光マップは脇に置き、本当に行きたい場所を選ばなきゃ、だわ。

いったん宿に戻って気持ちを立て直し、近くて手軽、とハーヴェイが教えてくれたアイリッシュ・ウィスキーの蒸溜所、ティーリング蒸溜所見学コースを予約する。
スコッチ・ウイスキーより古い歴史がありながら、20世紀後半には国内2か所の蒸溜所を残すのみの絶滅危惧状態に陥ったアイリッシュ・ウィスキー。再生のきっかけを作ったのが、2015年、ダブリンに125年ぶりにオープンしたこの蒸溜所。フェニックス(不死鳥)を模したクールなロゴには蘇りと、再び世界のトップへとの意志が込められているそう。

見学の所要時間は30分ほど。
案内係ピーターの早口で専門用語の多い説明はちんぷんかんぷんだったけど、はっきりとわかったことが一つ。ライバル(?)のスコッチ・ウィスキーは樽詰め前の蒸留が2回に対し、アイリッシュ・ウイスキーは3回することで雑味を抑え、クリアで飲みやすい味わいになる、ということ。
こんなふうに、とピーターが示した先にはスティールポッド(蒸留機)が確かに3台。

ミニ知識を視覚的にも脳みそに刻んだせいか、試飲コーナーで水とともにストレートで提供された看板ウィスキー「ティーリングスモールバッチ」のスパイシーな香りと味が一層冴え冴えと五感に沁み渡った。
他の見学者と目を見合わせて "イケますね" というふうに頷き合い、いっぱしのウイスキー通気分を味わう。
世界のどこの誰とも知らない人と一瞬見つめ合って感覚と感情を交換し、次の瞬間には離れてもう2度と会うことはない。そのことへの哀惜。たかがひと口のウイスキーをめぐる “究極の一期一会” 感もまた年齢を重ねた者のひとり旅の醍醐味だと思う。

アイリッシュ・ウイスキーの条件は蒸溜3回、とピーターが示した3台の蒸溜機
ダブリン最古の教会、クライスト・チャーチ大聖堂。ベンチの先客は、 聖衣をまとったあの方?


(14)街との再会。あるだろうか残り人生に(下) へつづく

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