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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第2回 ジョージア篇(1)

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ジョージア篇(1)
ピロスマニと文学とワインとコーカサス…


生きていればなにが起きるかわからない。
2023年9月、カタール・ドーハ空港で5時間以上もの乗り換え待ちの間、旅ノートに貼り付けたジョージアの地図をぼんやり眺めながら、歳を重ねるにつれ深まるひとり旅の感慨にひたっていた。

この国の名をはっきり意識したのは、ニコ・ピロスマニ(1862〜1918年)というジョージアの国民的画家の生涯を描いた映画『放浪の画家ピロスマニ』を岩波ホール(当時)で観た30年ほど前だったと思う。

ピカソにもその才能を認められながら貧しさと孤独のうちにこの世を去った画家の生涯が、1シーンごとにまるで彼の絵のような完璧な構図と色調で再現されていた。
首都トビリシを放浪しながら、その日のパンやワインのために店の看板や壁に飾る絵を描き続けた50余年の生涯。

30歳過ぎてもどう生きていけばいいか見当がつかず途方に暮れていた私は、だれに評価されなくとも創作の喜びを人生の友とし、孤高を保った彼の生き方に強く惹かれた。

翻訳者の少なさから邦訳本の数は限られているけれど、いくつかの小説の余韻も忘れがたかった。
5世紀初めに遡る文学は、ユネスコ無形文化財に指定されたジョージア文字ジョージア正教(キリスト教の一つで、ジョージアの国教)とともに、戦争と被支配の歴史に翻弄された人々の魂の拠り所になってきたそう。

今回の旅では、ジョージアを知らない人もひとたびページを繰れば、コーカサス山麓を吹き渡る風や、世界最古の歴史を誇るワインのかぐわしさ、戦禍に翻弄された人々の苦悩、感情豊かな人々の姿などが渾然一体となった物語世界へ連れていかれる3作品を再読する。

ノダル・ドゥンバゼ『僕とおばあさんとイリコとイラリオン』
 児島康宏訳、未知谷、2004年2月
→ジョージア篇(12)に掲載)

『20世紀ジョージア(グルジア)短篇集』
 児島康宏編訳、未知谷、2021年8月
→ジョージア篇(12)に掲載)

◆『アレクサンドレ・カズベギ作品選』
 三輪智惠子訳、成文社、2017年6月

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