【翻訳のヒント】シカクいアタマをマルくする ~"by"のセオリーからの解放~
こんにちは。レビューアーの佐藤です。この【翻訳のヒント】シリーズでは、「セオリーに縛られずに最適な表現を探そう」という主張を繰り返していますが、今回はさらに思い切ったセオリー破りを提案したいと思います。それは、"by"は必ずしも「によって」でなくてもいいのでは?ということです。
日能研の電車広告で知られたフレーズ「シカクいアタマをマルくする」の精神で、この鉄板セオリーを見直してみましょう。
まずは基本から
セオリーを確認するために、ごくシンプルな"by"の用例を見てみます。
きわめて無難な訳し方で、やや翻訳調の匂いは感じますが、これはこれで十分合格点の訳文です。この訳文に難癖をつけるつもりはないので、ご安心ください。問題はこの後です。
セオリーを疑え! "can"と"by"の組み合わせ
私が最初に「by = によって」じゃなくてもいいのでは?と気づいたのは、こんな訳文をチェックしていたときです。
意味としてはどこも間違っていないけれど、この内容を一から日本語で書いたらこういう表現にはしないよな?と思いました。そこで原文と訳文をにらみながら推敲した結果、こうなりました。
最終的な訳文では「によって」が完全に消え、ぱっと見では原文から大きく離れた形になりました。しかし、翻訳の品質としては、最終的な訳文の方が明らかに上です。
私はこの経験から、「by = によって」のセオリーをすべてに当てはめようとするのはナンセンスだと思うようになりました。この視点で見直してみると、特に"can"と"by"の組み合わせでは、「〇〇するには、△△する」と訳した方がしっくりくる場合も多くあることに気づきました。
原文が長いときこそセオリー破りが有効
さて実は、先ほど挙げた例文は、もっと長い一文の先頭部分でした。
この文に出てくる2つの"by"を「によって」と訳すと無理が出てくることはおわかりですよね? セオリーを馬鹿正直に適用すると、こんな感じの訳になるでしょう。
誤訳とは言えませんが、「フォーラムのルールは」から「閲覧できます」までの間が長すぎて、読むのに少々努力がいります。
セオリー破りを適用してみると、こんな感じの訳ができます。どちらが読みやすいかは一目瞭然です。
今回は「by = によって」でなくてもいいのでは?という点にフォーカスして説明していますが、実は、このセオリー破りの【訳文2】は、「原文を前から順に訳すべし」という方法論に沿ったものになっています。「フォーラムのルールを見る」という要点を先に示し、その方法を後から説明することで、英文の構造に近い自然な流れを構築しています。
もちろん【訳文1】も決して間違いではないので、あくまでも【訳文2】のような訳し方もあるよ、という提案としてお読みいただければと思います。
翻訳者のアタマはやわらかい方がいい
"by"の鉄板訳を見直そうという視点でお話ししてきましたが、この考え方は、どの単語についても言えることです。原文の内容を正確に、一番読みやすく表現するにはどうしたらいいか?常にアタマをやわらかくして、最適な表現を探しましょう!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?