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【翻訳部辞書:J】jargon

こんにちは。レビューアーの佐藤です。いつもガチめな記事を書いているので、今回はさっくり軽めにお届けします。

ところ変われば意味変わる

今回取り上げる単語は「jargon」です。英辞郎 on the WEB の定義ではこうなっています。

jargon
【名】
1. 〔ある職業集団内の〕専門用語、業界用語、隠語◆他の職業集団には意味が伝わらない言葉。

何かの集団に属していれば、「その集団のなかだけで伝わる言葉」にいくつか心当たりがあるはずです。そして、ある集団のなかで使っている言葉が、別の集団でまったく異なる文脈で出てきて「???」となった経験も。それぞれの集団ではごく普通に使われている様子なので、それってどういう意味?と確認するのもはばかられ、しばらく意味がわからないまま調子を合わせたことがある人も多いのではないでしょうか。

こういう事態が起きやすいのは、英語由来の言葉の、頭文字だけをとって並べた略語(頭字語)です。私は技術翻訳を仕事にするかたわら、趣味としてサッカー観戦をたしなんでいるのですが、この2つの世界で使われる、まったく意味の異なる頭字語にたびたび戸惑っています。

その代表例が「TM」です。翻訳業界では、皆様ご存じの翻訳メモリ(Translation Memory)ですね。これがサッカー界隈では練習試合(Training Match)を意味することがあります。サッカー方面のTwitterを眺めていて急に「TM」の文字が現れると、仕事を思い出してドキっとしてしまいます。

もう1つ、戸惑いを感じるのが「FP」という言葉です。翻訳の仕事で、翻訳規則が守られているかを機械的にチェックするツールを使うことがあります。このツールは便利なのですが、実際にはエラーではない箇所をエラーと認識する場合があり、これを誤検出(False Positive)、略して「FP」と言ったりします。一方、サッカー界隈で言う「FP」は、ゴールキーパーを除く10人のフィールドプレーヤー(Field Player)です。最初、サッカーの文脈で「FP」を見たときに、真剣に意味がわからず何だコレ?と思った記憶があります。また、「FP」はファイナンシャルプランナー(Financial Planner)の略語としてもよく使われるので、ファイナンシャルプランナーがサッカーをする様子を想像して変な気持ちになることも……。

その言葉、あなたの意図どおりに伝わっていますか?

今回紹介したのはたわいもない例ですが、ときには、こうしたjargonの使い方に注意すべき場面もあると思います。自分がAという意味のつもりで使っていても、相手にはBの意味で伝わったり、まったく意味不明の言葉として受け取られたりする場合もあります。悪くすれば、「内輪向けの言葉を使う排他的な人物」というイメージを与える危険もあります。

専門用語や業界用語はたしかに便利ですが、相手にきちんと伝わっているかを常に意識し、必要なら別の表現に言い換える心構えを持つことが、言葉をなりわいとする私たちに必要な姿勢ではないか……と無理やりまとめたところで、今回は終わります。またお会いしましょう。

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