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未成年の主張

アンテナを張った早耳な邦楽ファンの間で、吉澤嘉代子の名が知れ渡ったのはこの「未成年の主張」がきっかけだろう。この曲はインディーズより2013年6月5日にリリースした1stミニアルバム「魔女図鑑」の1曲目に収録されており、同年10月28日にはLIVE映像が公開されている。

さらに同年11月17日には、電車のホームで弾き語りを披露する変わり種のMVも公開されている。

とにかく猛プッシュなのである。吉澤嘉代子自身にとってもこの曲を以て「これが私の音楽です」という名刺代わりの1曲にしたいという思いと、またこの1曲で自分の実力を知らしめられるという自負もあったのだろうと思う。

のっけから凄い

この自信は「イントロなし」という構成にも顕著に出ている。
リスナーに向けて最初に届けるのは何よりも自らの声なのである。

マイクチェック・ワンツー
アーアーアーアーアー 始めましょうか

譜割りがどうなっているのか知らないが、「アーアーアーアーアー」と三連符のような、拍をずらしたような、旋律と語り口調の絶妙な曖昧さがまさに「未成年の主張」然としていて、ただただ唸るのであった。

不穏に歪んだベースラインから、やがてサーフロックのようなノリの良さも見せつつ、サビでは軽快で能天気なガールズポップへと昇華する。この混沌としたごちゃまぜ感も、移り気な未成年の気持ちを表現しているようで楽しい。

わたしあなたが あなたが あなたが あなたが あなたが あなたが
す、す、す、
わたしあなたが あなたが あなたが あなたが あなたが あなたが
す、好きです

サビの歌詞も秀逸である。
ひと周り目では「好きです」と言えないのである。ただ言えないというだけではなく、「ここまで出掛かってるけどあと一歩の勇気が出ない」という思春期の逡巡を「す、」のみで表現しているのである。

最大の主張とは

曲の中腹、Cメロに至ると一転してアンニュイなテンポに変わり、彼女はこう語り出す。

夢で会えたってしょうがないでしょう

この曲の最大の主張は、実はここである。
このワンセンテンスを思い浮かんだ瞬間、この曲は名曲へとなるべくしてなったのである。記念すべき1stワンマンライブに「夢で逢えたってしょうがないでshow!」と銘打つくらいだから、おそらく彼女自身も相当お気に入りのフレーズなのである。

一見、大瀧詠一御大の名曲「夢で逢えたら」のアンチテーゼのようになっているが、もちろんこれは恋焦がれる人に夢の中でも逢いたいというロマンチシズムを否定するものではない。
未成年特有の、衝動的であり即物的な行動原理を、たったこの一文で言い得ているのである。すごい。すばらしい。いや最高でしょ、これ。

こんな完成度の高い楽曲を一発目に放り込んでくるとは、吉澤嘉代子の才能を改めて恐ろしく思った瞬間なのであった。

(了)

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