ボクの名前はジークフリート 第2話  「葉山生まれのミニチュアシュナウザー」

 父ちゃんがミニチュアシュナウザーと出会ったのは、ペットショップだった。でも、そこにはベビーはおらず、生まれる予定もなかった。父ちゃんは仕方なく、インターネットでミニチュアシュナウザーを扱っているブリーダーを検索して、Kさんのホームページを発見。すぐに電話でコンタクトすることになった。

 電話の向こうでKさんは言った。「あ、うちでは生まれる予定がないんですよ」。父ちゃんは、がっくりとうなだれた。違うブリーダーを探すしかない。ところが次の瞬間、Kさんが続けて言った。「あ、でもボクの師匠のところなら、生まれてるかもしれない」と。

 その師匠とは、何を隠そう日本のミニチュアシュナウザーのブリーディングの第一人者、Iさんだった。ミニチュアシュナウザーを飼うと決めて、本屋で飼育の本を何冊か購入した父ちゃんだったが、まさかその著者の一人とこうして出会うことになるとは…。
 
 祈るような気持ちで、父ちゃんはIさんの葉山のお宅に電話を入れた。「ソルト&ペッパーのベビーがいますよ。男の子が2頭に、女の子が2頭。週末にでも、見に来ませんか?」

 Iさんの申し出を断る理由など、どこにもなかった。さっそく次の週末に、父ちゃんは、母ちゃんと姉ちゃん、兄ちゃんの家族総出で憧れのミニシュナのベビーに会いに行くことになった。Iさんは、まだその頃、後にサンシャインパラダイスと呼ばれる大きな犬舎を開設しておらず、自宅でブリーディングをしていた。玄関から中に通されると、待望のミニチュアシュナウザーたちがワンワンと吠え立てて迎えてくれた。

 成犬のケージとは別の場所にサークルが作られ、その中に4頭のベビーたちがいた。取っ組み合いをして玩具を取り合っている子や、父ちゃんたちを見つけて抱っこしてよとケージに立ち上がっている子もいた。

 女の子は、やっぱり愛らしい。でも、父ちゃんはすでに男の子と決めていた。そうなると、2頭いるどちらかを選ぶことになる。男の子2頭をサークルから出して、遊ばせてみることにした。父ちゃんが、ミニチュアシュナウザーについてIさんからレクチャーしてもらっている間、お姉ちゃんが履いて来た長靴(その日は雨模様だった)をいたずらしている男の子がいた。それがボクだった。
 
 Iさんからのアドバイスもあり、そうしてボクは父ちゃんの家に引き取られることになった。藤でできたバスケットに敷かれたバスタオルにくるまれて、ボクは父ちゃんたちが乗って来た大きな赤いクルマに乗せられた。それまで玩具として遊んでいたバナナのぬいぐるみと、犬の母ちゃんの匂いがついたタオルと一緒に。

 「Sunshine Palace S. Ace Player」。それが血統書に記載されたボクの正式な名前だった。Iさんは、ボクのことをエースと呼んでいたが、父ちゃんはすでにボクの名前を決めていた。血統書ではなく、飼い主が付ける名前を「コールネーム」というんだけど、ボクがドイツ原産の犬というわけで、ボクは「ジークフリート」と名付けられた。


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