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グループ分けの数学

こんにちは。今回は同値関係と呼ばれているものについて話したいと思います。 

みなさん、一度は「グループ分け」を経験したことがあるんじゃないでしょうか? 
例えば、小学校などではクラスをいくつかの班に分かれて、その班ごとに様々な活動をしたと思います。 
他の例も挙げてみると、月曜日~日曜日はそれぞれ、捉えようによっては1月1日~12月31日までの日付のうち特定の日付を集めたグループと思えますよね。(一年にわざわざ制限する必要はほんとはないけどね)


「グループに分ける」というのは、
”そのグループの要素同士は「同じもの」とみなす"
という意味で「何を同じと見做すかを決める」と言い換えることができます。

この意味でのグループ分けを、数学でも使いたいわけですよ。
そこで出てくるのが、同値関係というものです。
同値関係をひとつ作ることで「同一視する条件」を指定し、
「同値関係で割る」という操作によって、グループという「モノの集まり」を一つの個体として扱えるようにします。


同値関係の定義

集合Xを一つ用意します。この集合Xの上で、a\in Xとb \in Xが「同じ」と見做せる条件を作りたいわけですが、もちろん何でもOKというわけにはいきません。やっぱり自分たちの思うグループ分けの概念とある程度一致してくれないと嬉しくないですからね。
といっても、要求される条件はかなり自然なものです。
その条件とやらを見ていきましょう

一つ目:自分自身は自分と「同じ」

二つのものを「同じと見做す」ための条件なんですから、
みなすどころかホントに同一のものに対してはちゃんと「同じ」でないと困りますよね。
グループ分けの言葉で言うなら、自分は自分と同じグループという当たり前のことです。

二つ目:”aとbが「同じ」”であることと”bとaが「同じ」”であることは同値

言葉としては当たり前ですよね。ただ、後でも話しますが、数学で定義するときは集合の直積を用いて定義するので、この条件を付けておかないと困ることになります。

三つ目:aとbが「同じ」で、しかもbとcも「同じ」時、aとcは同一視できる

これも当たり前ですね。「同じと見做す」のに、これが成り立たないのは困ります。


上で挙げたこの三つが要求される条件です。感覚的な話ですが、逆にこの三つの条件が成り立つときを考えてみましょう。どうでしょうか、その条件でグループ分けをすることができそうじゃありませんか?

ということで、この条件を踏まえて(書き直すだけ)ちゃんと定義を書きましょう。


\fbox{定義}
Xを集合とする。
\sim  \subset  X^2について、
(a, b)\in \simのことをa \sim bとあらわすことにした時、
\simが同値関係であるとは、以下の三条件を満たすこと;

\fbox{E1}\hspace{1mm} \forall a \in X,  a \sim a
\fbox{E2}\hspace{1mm} \forall a, b \in X, a \sim b \Longleftrightarrow b \sim a
\fbox{E3} \hspace{1mm} \forall a, b, c \in X,  (a \sim b  , b \sim c ) \Longrightarrow a \sim c


言ってる内容は日本語で書いた三条件と同じです。
\simX^2の部分集合とか, a \sim bが(a, b) \in \simを意味しているとかは
全部知らんぷりで、
a \sim bは単に「aとbは同一視できる」と読み替えても基本問題ありません。


同値関係の例

例を出すときは、グループ分けっぽいやつをもってこればおっけーです

がっつり数学の例ですが、整数をすべて集めた集合\mathbb{Z}に対し、同値関係\simを、n, m \in \mathbb{Z}に対して

n \sim m :\Leftrightarrow n - m が3の倍数

と定義すると、これは同値関係の条件をクリアしています。(証明はやってみてね)

この同値関係によって、「3で割った余りが同じ」整数たちはひとまとめに同一視されたわけですね。つまり、このとき\mathbb{Z}の中には、

・ 3で割って0余る(つまり割り切れる)整数たち
・ 3で割って1余る整数たち
・ 3で割って2余る整数たち

の3グループが形成されたわけです。


もう一つの例として、とても明らかな例を出しておきましょう
\mathbb{Z}上に、同値関係として
(n,m\in \mathbb{Z})  n \sim m :\Leftrightarrow n = m

とすると、これも明らかに条件を満たします。
とはいえ、これで作られるグループはメンバーが一人だけの一点集合ばかりで、グループ分けとしてはあまりにもつまらない例になります。


同値関係によってできるグループを集めた集合

同値関係を作って、いい感じにグループ分けをすることができるようになりましたね。あとは、このグループを、モノの集まりとしてではなく、それ自身を対象として扱えるようにしましょう。

Xを集合、 \sim をX上の同値関係とします。
まず、
x \in X に対し、[x] := \{y \in X | x \sim y\}と定義しましょう。
定義をみると、[x]は「xが属するグループ」のことだとわかりますね。
この[x]のことを、xの同値類といいます。


また、この時に次が成り立ちます。

\fbox{命題}  \forall a, b \in X   [a] = [b] \Longleftrightarrow a \sim b

証明は後でやるとしましょう。 
この命題によって、a, b \in Xに対し、
aとbが同一視できるときに[a]と[b]は真に等しくなり、
逆に同一視されないときは、[a]と[b]もちゃんと異なるものとなります。
これはかなりありがたいですよね。Xの要素xを[x]に移していく過程で、互いに同一視できる要素たちは一つの対象に集まり、すべて本当の意味で「同じ」ものとして扱えるようになるんです。

こうして作れる[x]達を集めた集合を考えれば、同一視したいものを全部同じと見做した集合、またはグループそのものが要素として入った集合が作れます。

ということで、上の命題の証明をしてから、上のような集合のちゃんとした定義を書きますね。

上の命題の証明

(\Longrightarrow)
a, b \in Xに対し、[a] =[b]と仮定する。
この時、b \in [b] (\because \fbox{E1})より、
b \in [a]がなりたつ。\therefore a \sim b

(\Longleftarrow)
a, b \in Xに対し、a \sim bと仮定する。
この時、c \in Xに対し、
c \in [a]  \Leftrightarrow a \sim c  \underset{\text  (\fbox{E2},\fbox{E3}より)}{\Longleftrightarrow} b \sim c \Leftrightarrow c \in [b]
であるから[a]=[b]


商集合(同一視によって得られる集合)

\fbox{定義}
Xを集合,  \sim をX上の同値関係とする。
この時、Xの\simによる商集合X/\simを、

X/\sim \coloneqq \{ \hspace{1mm} [x] \hspace{1mm}| x \in X \}

と定義する。ただし x \in Xに対し

[x] \coloneqq \{y \in X | x \sim y \}


この商集合のイメージを頑張って絵にかきました。


画像
同値関係による商集合の個人的なイメージ


ここで、証明はしませんが、次が成り立ちます。

\sim を集合X上の同値関係とする。\\この時、次の(1), (2)が成り立つ。\\ \\ (1) \forall A, B \in X/\sim ,[ A\neq B \Rightarrow A \cap B = \phi]\\(対偶で示せる)\\ \\ (2) X = \displaystyle{\bigcup_{A \in X/\sim }A}\\(集合の相等を素直に)

つまり、同値関係を考えると同値類たちは互いに交わらず、Xはそれらの和集合で表せるんです。
さらに言い換えるなら、同値類を考えることで、上の絵の左のやつみたいにXをいくつかのグループに分割ができることがわかります。

感覚的な話ですが、これにより同値関係は同一視するものを選ぶと同時に、それ自身グループ分けになっていることがわかりますね。


何回かもう使っていますが、集合Xとその同値関係に対して、上で定義される商集合を作ることを同値関係で割るって言ったりします。

では、いくつか商集合の例を出して終わりましょう。




商集合の例

同値関係の例で出した、\mathbb{Z}とその同値関係
n \sim m :\Leftrightarrow n - m が3の倍数
によってできる商集合\mathbb{Z}/ \sim

\mathbb{Z}/ \sim  = \{ [0], [1], [2] \}

となります。
この時、
[0]は3で割って0余る整数の集合になり、
[1]は3で割って1余る整数の集合になります。[2]も同様。

証明

\mathbb{Z}/ \sim  = \{ [0], [1], [2] \} を示す。
(\supset)は明らか
(そもそも左辺の定義は z\in \mathbb{Z}で[z]と表せるものの集まりだった。)

(\subset)
x \in \mathbb{Z}/ \sim を任意にとる。
このとき、商集合の定義より、ある整数zを用いて、x = [z]と書ける。
zを3で割った余りをrとすると、rは0、1、2のいずれかとなる。
ここで、z-rは3の倍数だから、z \sim r であり、\fbox{命題}より[z]=[r]
よって[z] \in \{ [0], [1], [2] \}

[0], [1], [2]が上で言った集合とそれぞれ一致することは、暇な人はやってみてください。

他の例

数学の例ではないですが、冒頭で出した曜日の例を挙げましょう。
Y \coloneqq \{1月1日, 1月2日 \cdots  12月30日, 12月31日\}
に対し、その同値関係を、
a, b\in Y
   a \sim b :\Longleftrightarrow aはbの(7の倍数)日後 または(七の倍数)日前
と置くことにします。(ただし、〇〇日後、〇〇日前を考えるときに年をまたがないというルール付き)

これは同値関係のルールを満たします。
そして商集合を考えると、例えば
Y / \sim = \{[10/31], [11/1], \cdots [11/5],  [11/6] \}と表せます。

ざっくりとした証明としては、任意に日付を用意したときに、マイナスを許せばその日付は10/31からm日後と表せて、mを7で割った余りをrとすると、この日付は「10/31のr日後」の(m-r)日後と表せ、その日付は「10/31のr日後」と同一視できることがわかるので上の等式が成り立ちます。

ここで、[10/31]のことを「火曜日」と名付け、そこから順次水曜日、木曜…と名付けていけば曜日の完成です。

曜日を同値関係を使って考えても別にいいことはありませんが、その辺は気にしないでください。



数学において商集合はかなりの頻度で使われます。特に代数学においては同値関係とお友達にならないとやってけないぐらい使いますね。

やっぱり、直積をとったりするのに比べ複雑な操作をする分、商集合を作る操作は特殊な構造を作りやすいんだと思います。しらんけど

紹介だけすると、
自然数の集合\mathbb{N}から整数のあつまり\mathbb{Z}を作るとき
\mathbb{Z}から有理数の集合\mathbb{Q}を作るとき
\mathbb{Q}から実数の集合\mathbb{R}を作るとき
\mathbb{R}から複素数の集合\mathbb{C}を作るとき
これら全部同値関係がかかわってます

読んでくださった方、ありがとうございました。

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