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有理数体をつくってみよう

こんにちは。今回は有理数体を構成しようと思います。

前回の記事を読んでくれた方は、整数の集合や演算を考えて念願の引き算ができるようになってさぞかしハッピーな気持ちになったことでしょう!!

・・・でもやっぱり、整数だけじゃまだ物足りない感じがしますね。
もちろん、整数だけを考えていても、とても良い性質がたくさんあってうれしいし、実際整数だけを考えて様々な議論をすることができます。
しかし、整数だけじゃ自分たちが知ってる計算を全部できないですよね。
たとえば割り算とか!
2÷3とかは整数の中では計算できないから、あまり満足に四則演算が行えてないんですね。

ということで、今回は整数の集合から出発して割り算のできる有理数の集合を作りましょう!




有理数の集合の構成のイメージ


ここからは、前回の「自然数から整数を作った」ときと同じイメージでやっていきましょう。

整数をつくったときは、$${n, m \in \mathbb{N}}$$に対して
形式的な引き算「$${n-m}$$」
というものを考え、ふたつの引き算「$${n-m}$$」, 「$${n'-m'}$$」を引き算の結果が同じ(になるであろう)時に同一視してみたものが整数の集合$${\mathbb{Z}}$$でした。

今回も似たようなことをするわけですね。今度は形式的に割り算を考えます。後でちゃんと書く同一視の条件を見ればわかりやすいですが、
いわゆる「割る数」、つまり分母に0が来るのを許してしまうと同値関係として満たすべき条件が崩れる(割り算の結果が一意に定まらなくなる)から、分母は0でないものだけ考えましょう。

つまり、形式的な割り算は、$${\displaystyle{\frac{n}{m}} (n \in \mathbb{Z}, m \in \mathbb{Z}\backslash\{0\})}$$という形のものだけを考えることになります。これらを集めたものは$${\mathbb{Z}×\mathbb{Z}\backslash\{0\}}$$だと思ってよさそうですね。つまり、$${(n, m) \in \mathbb{Z}×\mathbb{Z}\backslash\{0\} }$$のことを$${\displaystyle{\frac{n}{m}}}$$と思いましょう。

後は、整数の時と同じように同一視する条件を考えてみましょう。$${(n, m), (n', m') \in \mathbb{Z}×\mathbb{Z}\backslash\{0\}}$$に対し、この二つを同一視する条件としては、$${\displaystyle{\frac{n}{m}}}$$と$${\displaystyle{\frac{n'}{m'}}}$$が僕たちの知ってる割り算の意味で同じときですよね。このままでは数学的に意味を持たせられないから、有理数体が作れたと思い込みながら同値変形してみると、
分母を払って全部左に寄せれば、$${nm'-n'm = 0}$$が得られます。これを同一視の条件としてやりましょう。
そうして、形式的な割り算の集合
$${\mathbb{Z}×\mathbb{Z}\backslash\{0\}}$$に同一視がはいって、いかにも有理数の集合になりそうなものができました。

では下で定義していきましょう。


有理数の集合の構成

$${\fbox{定義}}$$   $${\mathbb{Z}}$$を整数環、$${S := \mathbb{Z} \backslash \{0\}}$$ とおく。
$${\mathbb{Z}}$$ × S上の同値関係$${\sim}$$ を次で定める;

$${n, n'\in \mathbb{Z} , m, m' \in S}$$に対し
$${(n, m) \sim (n', m') :\Longleftrightarrow nm' - n'm = 0}$$

上で定めた関係がちゃんと同値関係になってるかを確認してみましょう。

①$${{}^\forall (n, m) \in \mathbb{Z} \times S, (n, m) \sim (n, m)}$$
明らかですね。定義を見て確認してみてね

②$${{}^\forall (n, m), (n', m')\in \mathbb{Z} \times S, (n, m) \sim (n', m') \Leftrightarrow (n', m') \sim (n, m)}$$
これも明らかですね。-0=0です

③$${{}^\forall (n_1, m_1), (n_2, m_2), (n_3, m_3)\in \mathbb{Z} \times S,}$$
$${[(n_1, m_1) \sim (n_2, m_2) ,(n_2, m_2) \sim (n_3, m_3)] \Rightarrow (n_1, m_1) \sim (n_3, m_3)}$$

仮定を満たす$${(n_1, m_1), (n_2, m_2), (n_3, m_3)\in \mathbb{Z} \times S}$$を任意にとってきましょう。この時
$${n_1m_2-n_2m_1=0}$$
$${n_2m_3-n_3m_2=0}$$
となります。
この時、
$${(n_1m_3 - n_3m_1)m_2 = n_1m_3m_2 - n_3m_1m_2 }$$
$${= m_3(n_1m_2 -n_2m_1)+m_1(n_2m_3 -n_3m_2) = 0+0 = 0}$$

ここで、$${m_2 \in S}$$、つまり$${m_2 \neq 0}$$より
$${(n_1m_3 - n_3m_1)=0}$$を得て、これは$${(n_1, m_1) \sim (n_3, m_3)}$$を意味しますね。

これで上で定めた関係が同値関係になっていることがわかりましたね。では有理数の集合$${\mathbb{Q}}$$を定義しましょう。

$${\fbox{定義}}$$    上で定めた$${S, \sim}$$に対し、
$${\mathbb{Q} \coloneqq (\mathbb{Z} × S)/\sim}$$
また、$${(n, m) \in \mathbb{Z} × S}$$の同値類$${[(n, m)] \in \mathbb{Q}}$$のことを$${\displaystyle{\frac{n}{m}}}$$とかく。

これでめでたく有理数の集合$${\mathbb{Q}}$$をつくれましたね!
この$${\mathbb{Q}}$$の中では、例えば$${\displaystyle{\frac{1}{2}} = \displaystyle{\frac{2}{4}}}$$なども成り立ちます。確かに僕たちの知ってる分数と同じようなものになってます。ということで安心して和や積を定義していこうと思いますが、その前に
「分数の約分」という道具だけ用意しておきます。


分数の約分


$${\fbox{命題}}$$
$${(n, m) \in \mathbb{Z} \times S}$$, $${a \in \mathbb{Z} \backslash \{0\}}$$に対し

$${\displaystyle{\frac{n}{m}} = \displaystyle{\frac{an}{am}}}$$が成り立つ。

$${\fbox{証明}}$$
一般に$${\displaystyle{\frac{r}s}}$$と$${\displaystyle{\frac{r'}{s'}}}$$が$${\mathbb{Q}}$$上で等しいことを示すには、$${(r, s)}$$と$${(r', s')}$$が$${\sim}$$によって同一視されていることをみればOKです。
今回は、$${(n, m) \sim (an, am)}$$を示せばいいですね!これは$${\sim}$$の定義を見れば明らかです。
$${n(am)-(an)m=0}$$ですね。




有理数同士の和

分数同士の足し算を、僕たちの知ってる感じの自然な和として定義しましょう。
$${\displaystyle{\frac{n}{m}} + \displaystyle{\frac{r}{s}}}$$を計算しろと言われたらどんな答えにしますか?その答えをそのまま定義にしちゃいましょう。

$${\fbox{定義}}$$  $${\mathbb{Q}}$$上の二項演算+を次で定める;
$${\displaystyle{\frac{n}{m}}, \displaystyle{\frac{r}{s}} \in \mathbb{Q}}$$に対し

$${\displaystyle{\frac{n}{m}} + \displaystyle{\frac{r}{s}} \coloneqq \displaystyle{\frac{ns + rm}{ms}}}$$

和を定義したのでこれがちゃんと定義できているかを確認しましょう!
確認することは二つです。

一つ目:行き先となるものは$${\mathbb{Q}}$$の要素として「ふさわしい」ものになるか?

2つ目:足す数の表し方によって結果が変化したりしないか?

一つ目はかなりあいまいな言い方になってしまいましたね。
上の定義を見ると、
$${\displaystyle{\frac{n}{m}} + \displaystyle{\frac{r}{s}}}$$というのは$${\displaystyle{\frac{ns + rm}{ms}\displaystyle}}$$、つまり$${(ns + rm, ms)}$$の$${\sim}$$による同値類のことでした。
しかし、「$${\sim}$$による同値類」は、$${\mathbb{Z} × S}$$の要素にしか定義されていないものですよね。なので、(ほぼ明らかですが)
$${(ns + rm, ms) \in \mathbb{Z} × S}$$を確かめないといけません。それが確認する事一つ目です。
これは、$${\mathbb{Z}}$$がいわゆる整域である、つまりゼロじゃない数同士をかけてもゼロにならないという性質からすぐにわかります。

$${ns + rm \in \mathbb{Z}}$$は整数の二項演算のみを施した結果だから$${\mathbb{Z}}$$の要素ですし、
$${m, s \neq 0}$$だから$${ms \in S}$$です。
だから$${(ns + rm, ms) \in \mathbb{Z} × S}$$が言えますね。
これで一つ目はOKです!

次は二つ目ですね。
足し算の定義を見てみると、$${\mathbb{Q}}$$の要素同士の演算なのに、その結果は$${\mathbb{Z}\times S}$$の要素である$${(n, m), (r, s)}$$を用いて 書かれています。
$${\mathbb{Z}\times S}$$の中では同一視は入っていませんから、
例えば (1, 2)と(2, 4) (気持ち的には$${\displaystyle{\frac{1}{2}}, \displaystyle{\frac{2}{4}}}$$のこと)は、$${\mathbb{Q}}$$では同じものですが、$${\mathbb{Z}\times S}$$では普通に別物として扱われています。
なので、ちゃんと同じ値になってほしい計算、例えば「$${\displaystyle{\frac{1}{2}} + \displaystyle{\frac{1}{3}}}$$」「$${\displaystyle{\frac{2}{4}} + \displaystyle{\frac{1}{3}}}$$」「$${\displaystyle{\frac{2}{4}} + \displaystyle{\frac{3}{9}}}$$」はそれぞれ別の計算が行われ、これらの結果が$${\mathbb{Q}}$$の中で一致するというのは自明に保証できるものではありません。
なのでちゃんと確認しておきましょう。

示すことは、任意の$${(n, m), (n', m'), (r, s), (r', s') \in \mathbb{Z}\times S}$$について、$${(n, m) \sim (n', m') , (r, s) \sim (r', s') \Rightarrow \underset{((n, m),(r, s)での計算)}{\displaystyle{\frac{ns + rm}{ms}}} = \underset{(n', m'),(r', s')での計算}{\displaystyle{\frac{n's' + r'm'}{m's'}}}}$$
が成り立つことです。

仮定を満たすような$${(n, m), (n', m'), (r, s), (r', s') \in \mathbb{Z}\times S}$$を任意にとってきます。この時
$${nm'-n'm=0,   rs'-r's=0}$$が成り立ちますね。
では、
$${\displaystyle{\frac{ns + rm}{ms}} = \displaystyle{\frac{n's' + r'm'}{m's'}}}$$,つまり

$${(ns+rm)m's' -(n's'+r'm')ms=0}$$を示しましょう。

$${(ns+rm)m's' -(n's'+r'm')ms }$$
$${= (nm'ss' + rs'mm') - (n'mss' + r'smm') }$$
$${= (nm'-n'm)ss'+(rs'-r's)mm' = 0}$$

これで証明ができましたね。


上で定義したこの演算は$${\mathbb{Z}}$$上の演算が両方とも可換であることに注意すれば明らかに交換法則が成り立ちますね。

証明は鬼のようにめんどいので書きませんが、結合法則とかも成り立ちます。
また、$${\displaystyle{\frac{0}{1}}}$$はこの演算に対し単位元をなします。つまり、任意の$${\displaystyle{\frac{r}{s}} \in \mathbb{Q}}$$に対して
$${\left.(\displaystyle{\frac{r}{s}} + \displaystyle{\frac{0}{1}}= \right.) \hspace{2mm} \displaystyle{\frac{0}{1}} + \displaystyle{\frac{r}{s}} = \displaystyle{\frac{r}{s}}}$$
が成り立ちます。

また、$${\displaystyle{\frac{r}{s}}}$$の和に関する逆元は$${\displaystyle{\frac{-r}{s}}}$$となります。計算すれば明らかですね。
これを$${-\displaystyle{\frac{r}{s}}}$$と書いたりします。


有理数同士の積

有理数の中に和を定義できたので、掛け算も定義しましょう。
$${\displaystyle{\frac{r}{s}} \times\displaystyle{\frac{n}{m}}}$$を計算したときに出てきてほしい答えをそのまま定義にしてしまいましょう。

$${\fbox{定義}}$$
$${\mathbb{Q}}$$上の積 $${\times}$$ を次で定める;
 
$${\displaystyle{\frac{r}{s}} , \displaystyle{\frac{n}{m}} \in \mathbb{Q}}$$に対し

$${\displaystyle{\frac{r}{s}} \times \displaystyle{\frac{n}{m}} \coloneqq \displaystyle{\frac{rn}{sm}}}$$

確認することは足し算のときと同じですね。

一つ目:$${(rn, sm)}$$が$${\mathbb{Z} \times S}$$の要素であるか?
二つ目:掛ける数の表し方によって結果が変わったりしないか?
を確かめましょう。

・・・といいましたが、
ここにその証明を書くのは非常に面倒くさいのでサボります。

やることだけ書いておくと、
一つ目は$${sm \neq 0}$$を示せばOKで、
二つ目は,$${r, r', n, n' \in \mathbb{Z}, s, s', m, m' \in S}$$に対し、
$${[(r, s) \sim (r', s'), (n, m) \sim (n', m')] \Longrightarrow (rn, sm) \sim (r'n', s'm')}$$を示せば
クリアです。暇な人はやってみてねー

この掛け算は、交換法則、結合法則がちゃんと成り立ちます。
しかも、ここで定めた和と積はちゃんと分配法則も成り立ちます。
また、$${\displaystyle{\frac{1}{1}}}$$は乗法単位元、つまり任意の$${\mathbb{Q}}$$の元に対し、$${\displaystyle{\frac{1}{1}}}$$は掛け算で変化を及ぼしません。

そして、割り算をするために必要である、0以外の数の、掛け算に関する逆元(いわゆる逆数)の存在が保証されています。
$${\mathbb{Q} \ni \displaystyle{\frac{r}{s}} \neq 0 \hspace{1mm} (=\displaystyle{\frac{0}{1}})}$$に対し、
$${r \neq 0 }$$,つまり$${r \in S}$$が得られる(r=0なら$${\displaystyle{\frac{r}{s}} = 0}$$より)ので、
$${\displaystyle{\frac{s}{r}} \in \mathbb{Q}}$$であり、
掛け算の定義から明らかに$${\displaystyle{\frac{r}{s}} \times \displaystyle{\frac{s}{r}} = \displaystyle{\frac{1}{1}}}$$が成り立ちます。
掛け算に関する逆元も、存在すれば一意に定まるので、
$${x \in \mathbb{Q}}$$の乗法逆元(逆数)を、
$${x^{-1}}$$と書くことにしましょう。


有理数の割り算

逆数と呼べるものが定義できたので、さっそく割り算を考えてみましょう。
$${x, y \in \mathbb{Q}}$$について、$${x \div y}$$は「yに何をかけたらxになる?」の答えだと思ってるわけですから、その通りに定義しましょう。

$${\fbox{定義}}$$
$${x, y \in \mathbb{Q}}$$に対し、
$${x \div y \coloneqq x \times y^{-1}}$$

とても自然な定義ですね。これで四則演算がすべてできる集合が作れました。



整数の集合は有理数の集合の一部分?

めでたく集合$${\mathbb{Q}}$$及びその中の四則演算を作ることができましたね!
ここで注意ですが、整数の集合$${\mathbb{Z}}$$は厳密には$${\mathbb{Q}}$$の部分集合ではありませんが、$${\mathbb{Q}}$$の中には$${\mathbb{Z}}$$と全く同じ構造を持つ部分集合が存在します。

$${\mathbb{Z} \ni n \overset{\tau}{\longmapsto} \displaystyle{\frac{n}{1}} \in \mathbb{Q}}$$
という写像を考えると、
これは単射準同型になります。つまり

・$${\tauは像への全単射}$$
・$${{}^\forall n, m \in \mathbb{Z},  \tau(n + m) = \tau(n) + \tau(m)}$$
・$${{}^\forall n, m \in \mathbb{Z},  \tau(n \times m) = \tau(n) \times \tau(m)}$$
・$${\tau(1) = \displaystyle{\frac{1}{1}}}$$

が満たされているわけですね。
整数の足し算、掛け算に関する性質はすべてこの写像$${\tau}$$によって$${\mathbb{Q}}$$の部分集合に引き継がれます。

この$${\tau}$$による$${\mathbb{Z}}$$の像を$${\mathbb{Z}}$$と同一視して、$${\mathbb{Z}}$$を$${\mathbb{Q}}$$の部分集合と見做しましょう。

整数nに対して、$${\tau}$$での対応先である$${\displaystyle{\frac{n}{1}}}$$のことをn自身だと思えるわけですから、$${\displaystyle{\frac{n}{1}}}$$のことをそのままnと書くことにしましょう。


これで整数の割り算および有理数の割り算ができるようになりましたね!

ほとんど明らかですが、任意の有理数は「整数÷整数」で表せます。
$${\displaystyle{\frac{r}{s}} = r \div s \hspace{1mm} (= \tau(r) \div \tau(s))}$$ですね。
逆に、整数を正則な元(逆数が存在するもの)として含むような可換環
で、すべての元が整数÷整数で表されるとき、これは有理数体$${\mathbb{Q}}$$と同じ構造になります。


とりあえず有理数の集合と演算は作れたので、このへんで終わろうと思います。
読んでくれた方はありがとうございました。

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