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#1 弟子の眼差し ~"指セット"を読み解く~

執筆:村松 海渡


師の言葉の重み

"常に謙虚でありなさい"

弟子の記憶より

角野隼斗、牛田智大…etc. 数々の新進気鋭のピアニストを輩出したピアノ教師である金子勝子先生が門下生へ常にかけ続けている言葉です。

皆様こんにちは、村松海渡と申します。
私も先生の弟子として、大学に入り上京した際に門を叩いた一人です。
私は普段は音楽演奏科学という分野の研究・開発を行ったり、そこを中心とした成果や視点から、音楽と技術、その社会との関係について日々考えたり企画・制作を行ったりしています。

私はピアノ演奏に取り組む者として、また、音楽演奏とその身体運動や技術について研究を行う者として、冒頭に挙げたような金子先生の温かくも鋭い言葉や眼差しに魅了されてきました。科学を用いて音楽に向き合う際にも、冒頭に掲げた言葉は私にとって大切な拠り所になっています。

そんな師は数十年にわたってピアノ演奏の基礎となる指のためのテクニック教本"指セット"を考案・編纂し、2021年に出版されました(「指セットプラスハノン」/株式会社東音企画)。
この度その本が重版を迎えられたということで、この"指セット"にまつわるお話を、弟子として間近で見聞きした経験科学研究等の新しい視点も交えた連載としてお話ししたいと思います。

この連載で"指セット"がもっと効果的になるかも

楽譜に向き合うときには、その記号の向こう側にある音楽をみよ

このことは、無数の音楽家が唱えてきたものでしょう。

指示された音符を指示されたように弾くだけでは、まるで文法や物語を理解せずに文章を文字のかたまりとして音読だけしているのようなものです。
そして、同様のことは練習曲や教本にも当てはまるのではないでしょうか。

すなわち、練習曲に向かう際に大切な姿勢とは

練習曲の「目的」 = 「手に入れるべきスキルや能力」を見失ってはならない

ということなのかもしれません。これは当然のことのように思えて、練習曲や教本のみから目的を読み解いて達成することは結構難しいことのようにも感じます。

だからこそ今回は、"指セット"を読み解く際に見落としかねない情報や先生の願いをさまざまな方法にわたって拾い集め、その姿勢を実現させようというのが連載の目的です。

"指セット"の内容や運用と併せて本連載をご覧いただくことで、その目的や活用方法、効果を深く知っていただけると思います!

次回予告  "わざ言語"の解像度をあげてみよう

早速次回より具体的に"指セット"を掘り下げていきます。
まずは何回かにわたって"わざ言語"というキーワードに沿って取り組んでみようと思います。

皆様は"支え""指の支え"という言葉を聞いたことはありませんでしょうか?
それは金子先生の弟子として自身も1000回くらい耳にした言葉の一つで、実際、"指セット"にも書かれている言葉です。

このような、体や指の感覚を自分で覚えたり、生徒さんや他の人に共有するために紡がれた言葉のことを学術的には"わざ言語"と呼んだりします。

実際に、弟子として見聞きしたレッスン風景や言葉、さらに、そこに解剖学や先行研究などの知見も絡めることを通じて"指セット"で言及されている指示や目的に関係するわざ言語を解釈してみようと思います。

引き続きどうぞよろしくお願い致します!