ゴミの城〜012~逃避と笑顔
日曜日に実家へ行って家の掃除をしていたのだが、先週に引き続き兄が買い物に行く間、留守番をしていた。前回は庭を掃除していて少し目を離した隙に母親に外に出ていかれてしまったので、今回は玄関のチェーンが外れないように鍵をかけておいてから、一階の部屋を掃除していた。
母親を逃さないように。というと人聞きが悪いが、いまの母は一人で外に出ていってしまうと、帰ってこれないという危惧がある。案の定、五分もしないうちに母親が二階から降りてきた。
「お兄ちゃん、買い物に行ったばかりだけど、すぐに帰ってくるから上でテレビでも見てなよ」
僕の言葉に母は「ぽかーん」とした顔をしているが、何度か声を掛けると二階へと戻っていった。それでもすぐに戻ってくる。また声をかける。その繰り返し。
二階に付いていき、母を椅子に座らせテレビをつけた。チャンネルを変えていくと、ちょうど「スクール革命」というバラエティ番組がやっていたので、そのままテレビを一緒に見ていた。すると、母が笑った。番組に出演されている内村さんの言葉と、山崎さんの言葉で母親が笑ったのだ。
久しぶりに笑い声を聞いた。母の笑顔を見た。
なんだろう、もう喜怒哀楽の感情では「喜と楽」を見ることはないのかなと思っていたので、少しびっくりした。いつも、不安そうな顔か、心ここにあらずで現実から逃避した。といったような顔をしている。僕は母の「心ここにあらず」の顔が苦手だ。魂が抜けたような、病んでいるような顔。母は、いつもそんな顔をしている。
だから実家に行っても掃除をして、少し母の所へ顔を出して帰ってきてしまう。母に話しかけた方が良いことは分かるのだが、側にいると悲しくなってしまう。結局、人は何をしても死へと向かっていくのだ。と、生きていく意味を失いそうになる。
久しぶりに笑顔を見たので、もう少し母親と時間を過ごそうかと思った。久しぶに母の部屋にしばらく居て部屋を見たが、部屋はかなりホコリだらけだった。
その後、兄が帰宅したので、掃除に戻ったのだが、庭を掃除している時に散歩に出かけた兄と母が通りを歩きながら僕に声を掛けてくれたのだが、先週渡した手押し車は使っていなかった。
「買っても使わないかな……」と悩んだのだけれど、「それで散歩に行ってくれれば良いか」と思って買ったのに。
いまだに父親の遺骨はそのまま神棚にある。お墓を買うお金もないし。そもそも、お金があればゴミをなんとかしたいのだけれど。神棚に置きっぱなしはまずいかな……。誰一人として線香をあげていないし。
弟から、奥さんが病気になったと報告を受けて、そのまま半年が経つけど。こっちから連絡しないと……。
ずっと腕が痛む。病院に行きたくないから五十肩と無理くり思い込む。
嫌なことから逃避してばかりの僕も、母親の顔のように「心ここにあらず」といった顔をしているのだろう。
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