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【八人のアダム】 0-2 ギャラン=ドゥ

「そんなの聞いていないッッ!」
メガネをかけた気の弱そうな男の声が、岩場に響いた。
先ほどまで降っていた雨はすでに上がっている。
「ここは中立地帯だろう? いつからあんたらの領地になったんだ!」
メガネをかけた男は叫びながら、岩場の上に立つ相手をにらみつけた。
男の後ろには六機のスターズが控えており、岩場の上の相手の動作を注視している。

その視線の先、岩場の上では、コートを着た体格の良い人物が、真昼の太陽を背に悠然とポーズを決めている。
「ア・タ・シが決めたのよ。この、ギャラン=ドゥ様がねッ」
その人物は目をギョロリとさせながら、男をにらみ返した。
その人物の背後には自機を含む二機のスターズが控えている。スターズの数の上では二対六の状況だが、この人物はまったく怯む様子はなく、むしろ余裕の表情である。

このギャラン=ドゥと名乗る人物は、あまりにも特徴的ないでたちをしていた。
身長はかなり高く、肩幅も広い。筋肉質であることがコートの上からでもうかがえる。金髪のモヒカン頭を刺さりそうなほど鋭利にとがらせており、ただでさえ大きい体格がさらに巨大に見えた。
プラチナの光沢を放つコートを身にまとい、首元には太い金のネックレスをかけ、耳にはいくつものイヤリングを揺らし、顔面に強烈なメイクを施している。
一言でいえば、非常に派手で異様であった。
「ねえ、ウィークシティの市長さん。このアタシの領地で、よくも許可なく採掘をしてくれたものね。それも貴重なスターバッテリーを」
ギャランは信じられないとばかりに手を広げた。
「でもね、寛大なアタシはッ!」
ギャランはコートをひるがえしながら叫んだ。プラチナの光が昼の太陽を反射する。
「寛大なこのアタシは、採取したものの八割を献上すれば、許してあげることにするわ。やさしいでしょう?」
「冗談じゃない!」
メガネをかけた男、ウィークシティの市長は激昂した。
「ここにスターバッテリーが埋まっていることを探索したのは私たちだ。採掘をしたのも私たちだ。それを突然現れて自分の領地だと言いがかりをつけて、八割よこせだって!? ありえんよ、ギャラン市長!」
ギャランはおやおやと手を広げた。
この人物はどんな動作も芝居がかって極端なのだが、目はまったく笑っていない。
「ねえ、市長。ありえないなら、どうするの?」
紫色のマニキュアを爪に塗った手を自分の胸に当てながら、ギャランは低い声でこういった。
「今、ここで、このアタシとヤりたいの?」
ギャランは邪悪に笑った。

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