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【八人のアダム】 0-5 作戦

ピップはロケットランチャーをおろして地面に座り込んだ。
二発目のロケット弾は、市長のスターズの機関部に着弾し、その動きを沈黙させたようだった。
(やった)
手の震えが止まらない。両手のひらと両脇が、汗でべっとりと濡れている。
勝利の安堵と、自分の死が目前にあったことの戦慄と恐怖が、ピップに同時に押し寄せていた。

それはいちかばちかの作戦だった。
当初、ピップはこの乱立する巨岩の裏に隠れ、時間を稼ぐことが狙いだった。
しかし、市長が爆弾を使ったあぶり出しを開始したため、急遽作戦を変更せざるを得なかったのだ。
(一対一の戦闘では勝てない)
と見たピップは、モルゴンを自動操縦モードに切り替えて、自分はロケットランチャーを携えてモルゴンの外に出た。ピップはスターエンジニアとしての知識により、市長のスターズが機動性は良いものの、装甲はあまり厚くないことを知っていた。この小型のロケット弾でも貫通するだろうと予想したのだ。
また、ピップの腕時計は、モルゴンに対して簡単なリモート操作ができるように改造をしてある。
それを使い、モルゴンには上昇して不規則な動作をするよう命令を出した。
そして自分自身は、モルゴンが敵から視認されるのに合わせて、巨岩の裏から敵スターズの横まで駆けた。市長が爆弾で起こした砂塵が煙幕になり、ピップの姿はうまくカモフラージュされたのだった。
そして、作戦は成功した。二発のロケット弾を受け、市長のスターズは沈黙した。



ピップは腕時計にある操作ボタンを押して、モルゴンを自分の近くへと呼び寄せた。
そして、モルゴンに搭乗し、操縦モードをマニュアルに切り替えると、射撃の照準を合わせたまま、ゆっくりと市長のスターズへ近づいた。
「抵抗するな。抵抗すれば撃つ。両手を高くあげて、出てくるんだ!」
ピップはモルゴンの外部スピーカを使って叫んだ。市長のスターズは変わらず沈黙している。
(死んでしまったのだろうか)
ギャランシティの軍属という立場ではあるが、ピップの役職はスターエンジニアであり、メカニックである。
ピップは本来、パイロットではない。そしてこれまで人を殺めたこともない。
(あと、十秒待っても出てこなければ、確認しよう)
ピップは非常にゆっくりと十秒を頭の中でカウントした。
長い十秒が、経過した。あごのあたりまで垂れてきた汗をピップは服の袖で拭った。
そのとき、市長のスターズのハッチがゆっくりと開いた。中から、メガネをかけた中年の男性が姿を現した。
肩を負傷しているようだった。おそらく被弾時の衝撃だろう。抵抗の意思は感じられなかった。
ピップは思わず安堵したが、それを気取られないように、再び外部スピーカーで叫んだ。
「手を背中の後ろにまわして、地面に這いつくばるんだ!」
市長が何かを言いかけたが、ピップはモルゴンのアームで地面を叩いた。
「早く!」
市長はゆっくりと膝をおろし、地面に伏せた。陽射しを受けた地面のが熱いのか、肩が痛むのか、市長は顔を歪めた。
ピップは拳銃を手に、モルゴンを降りた。
銃を向けながら市長に近づくと、銃口を後頭部に当て、膝で背中を押さえつけた。そして残った片手で、市長の両手首をギャラン軍特製の拘束用バンドで縛った。このバンドは片手でも操作できるように作られている。
「このままの姿勢で動くな」
そういうと、ピップは市長のスターズを操作し、すばやくスターバッテリーを抜き取った。スターバッテリーがなければスターズは動かせない。市長が驚くほどの早業であった。
「詳しいんだな、その年で……」
市長が口を開いたが、ピップは答えなかった。
「私をどうするんだ」
「決めるのはギャランさんだ」
二人は黙った。二人とも自分たち以外の戦況を案じていた。

沈黙を先に破ったのはピップだった。
「聞きたいことがあります」
「それに答えたら、私を解放してくれるのかい」
ピップは首を振った。銃口は市長に向けたままである。
「それはできませんが、答えていただければ、すこしは力になれるかもしれません」
「いいだろう、聞こう。だがこの姿勢では話がしづらいんだ。体を起こしてもいいかな?」
「起こすだけなら」
市長は手首を背中側に縛られた状態でよろよろと体を起こし、あぐらをかいた。
ピップは立ったまま銃を下ろした。
「きみはギャラン=ドゥの加勢に行かなくていいのかい?」
市長の問いかけをピップは遮った。
「時間がない、質問をします。ウィークシティに、アダムという人はいませんか?」
「アダム? フルネームはなんだね」
「アダム=アルファードです」
「アダム=アルファードって……あの、有名なアダム博士のことか? スターエネルギーの発見者である?」
「はい」
「どうして君はアダム博士を探しているんだ?」
ロバート市長がそう尋ねたとき、スターズのジェット音が岩場の上空に聞こえた。
ピップは市長と何かを話すと、慌ててモルゴンに乗った。
そして、岩場に一機のスターズが降りてきた。
それはギャラン=ドゥのスターズ、<メタルギャラン>であった。

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