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【八人のアダム】 0-3 戦闘開始

ウィークシティの市長は、汗をかきながら、メガネをしきりに何度も触った。
動揺した時のクセなのだろう。
(こいつが、ギャラン=ドゥか。噂には聞いていたが、とんでもないヤツだ)
ウィークシティの市長の後ろに控えている部下が、市長に小声でささやいた。
「レーダーを確認しました。周辺、数キロ以内に、スターエネルギー反応はありません」
市長は小さく無言でうなずく。
(挑発に乗るか、退くか)
こちらの戦力は、採掘兼、戦闘用のスターズが六機。
対してギャラン側は二機、ギャラン自身のスターズともう一機だけである。
スターズの性能とパイロットの力量差は分からないが、現状数の上では六対二の状況である。
(やはり、これはチャンスか)
ウィークシティの市長とて、戦時中は軍用スターズのパイロットでもあった。腕に覚えがないわけではない。
もしこの場で、かの悪名高い「ギャラン=ドゥ市長」を撃退、もしくは捕縛できれば、この採掘地を含め、これまで手が出せなかった採掘地も探索できるようになる。
そして、ウィークシティはギャラン=ドゥを倒したとして、周辺のシティから一目置かれるようになるだろう。

緊張感のある沈黙がおとずれた。
と、ウィークシティの市長は身をひるがえして自分のスターズの影に入りながら言った。
「みんな、戦うぞ! ギャラン=ドゥを捕縛する!」
市長の号令を合図に、ウィークシティ側のスターズが機装を構える。
「フン!」
ギャラン=ドゥは不敵に笑うと、その巨体にもかかわらず、おどろくほど俊敏に動いて自分のスターズに飛び乗った。
ウィークシティのスターズはすぐさま発砲した。しかし、ギャラン達のスターズは一気に後退したため、ウィークシテイのスターズの砲撃は空を舞うか、岩場に当たるのみだった。
「先に撃ったのはあっち。大義名分はできたわね。散るわよ!」
ギャランとその部下は、左右逆方向に散開した。
交戦開始を予想していたウィークシティ側は戸惑ったが、ウィークシティの市長は各機に通信を送った。
「みんな、狙うのはギャラン=ドゥだけだ。あとの一機は深追いしなくていい」
そして一機だけをギャランの部下に差し向け、自分を含む残り五機はギャラン=ドゥを追撃するように指示を出した。
ウィークシティのスターズは五機と一機にそれぞれ散らばった。
「フン、悪くない判断ね」
ギャランは追走してくる五機のスターズの射撃をかわしながら、器用に岩場を抜けてゆく。
ギャラン=ドゥの駆るスターズ、ギャランはそれを<メタルギャラン>と命名していた。メタルギャランはモルゴンをベースにしたスターズであるが、ギャラン好みに大幅な改造をされている。
外見は、モスグリーンの地味な色をしたモルゴンとは異なり、そのボディは銀色に輝いている。また、明らかに無駄としか思えない鋭角なパーツが各部に取り付けられている。
モルゴンのような主砲はない代わりに、スピードと駆動性を重視したカスタマイズがされているため、ウィークシティのスターズはなかなか追いつけない。
「ギャラン=ドゥを逃すな!」
ウィークシテイの市長は、味方で最も速いスターズに突撃するよう指令を出した。そのスターズがメタルギャランに接近したときだった。

バババッ! 
と、岩陰から突如、ビームガトリング弾が放たれた。

予期せぬ攻撃により、メタルギャランに迫っていたウィークシティのスターズは脚部を破壊され、バランスを崩して横転した。
それを見たメタルギャランは即座に身をひるがえし、横転したスターズの機関部をビームソードですばやく切り裂いた。
横転したスターズは沈黙した。
「ピップ、いい仕事よ」
ギャランはビームソードを収めながらいった。

岩陰からビームガトリングで攻撃をしたのはピップのモルゴンだった。
(うまく、いった)
ピップはトリガーを握って震える手を押さえつけた。
(本当にギャランさんの言った通りになった)
ピップはギャランたちと周辺の地理を確認していたときの会話を思い出した。

ーーアタシが連中をここまで引き寄せる。ピップ、あんたは待機。アタシのメタルギャランが通り過ぎて、敵スターズの影が見えた瞬間、一気に撃ちなさいーー

ピップは本当にそうなるのだろうかといぶかしんでいたが、すべてギャラン=ドゥの言うとおりになった。
(恐ろしい人だ)
ピップは煙を吹きながら沈黙しているスターズを見ながら、唾を飲み込んだ。

慌てたのは、ウィークシティ側だった。
「市長、突然スターエネルギー反応が現れました! 伏兵です、一機やられました!」
「な、なにぃ! スターエネルギーを切って潜んでいたか!」

戦況は一気に動き、二対四となった。
ギャランからピップへ鋭く通信が飛ぶ。
「ピップ、散るわよ!」
「は、はい!」
メタルギャランとピップのモルゴンはジェットを吹かせ、それぞれ逆方向に散開した。先ほどと同じ状況である。
ウィークシティの市長は荒い息でメガネを触りながら、とっさに考えた。
(ギャランを逃すわけにはいかない。だが、あのモルゴンを放っておくわけにもいかん)
ウィークシティの市長は味方に通信を送った。
「お前たち、三機でギャランを追うんだ! 私はこのモルゴンを仕留め次第、合流する!」
ウィークシティの市長は、最も腕のたつ自分がモルゴンを仕留めることに決めた。
「許さんぞ、あのモルゴンめ!」
市長はスターズのジェットを噴射し、ピップのモルゴンを追いかけた。

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