ごめんねがいえなくて
おうち時間が増えると、どうしても体を思いっきり動かす機会が減ってしまう。
なんだかイライラしがちな子ども。遊んでいた自分の手がパーンと当たって、せっかく作ったレゴの作品が、テーブルから落っこちる。
ガシャーンと音をたてて、バラバラに壊れてしまった。
レゴの崩壊とともに小さな体の中に積もっていた不満が、体から噴き出した。
持っていたおもちゃを放り投げ、キイキイと、不満を撒き散らす。
わざと大きな音を立てながら、文句を言いながら、レゴを組み立て直す。
けれど、一つ部品が足りない。仕方なく、泣きながら探す息子を手伝った。ものを退かして、ないね、どこに行っちゃったかな?と穏やかに相手をするも、子どものグズグズスイッチは入ったままだ。
子どもはいよいよ、私に当たり始めた。
気持ちは分からないではないけれど、ダメだ。むしゃくしゃしているときに、それをやっていいとインプットしてほしくない。他の解決方法を見つけられるようになってほしい。
今のは八つ当たりだということ、お母さんは協力したのにそんな態度をされて悲しいと伝えると、また激しく泣いて止まらなくなった。
落ち着くまで、お母さんは、寝るお部屋に行ってるよ。そう言って、リビングを離れた。
大きく泣いたり、すすり泣いたりが、さざ波のように繰り返し繰り返し聴こえてくる。
どれくらいたったか。15分くらいはかかっただろうか。しばらくして、すすり泣きがこちらの部屋に近づいてきた。
そっと私のいる寝室に入ると、何を言うでもなく、すすり泣いたまましばらく入り口でモジモジしていた。しばらく放っておくと、何を思ったのか、今度はすすり泣いたままベッドの下に隠れるように潜り込んだ。
どうしたの?何か用があってきたんでしょう?
そうやって声をかけて、ようやくようやく、手に握りしめていた段ボールのかけらを、私のすぐそばに置いた。
段ボールには、「ごめんね」と思しき字が書かれていた。
そろそろひらがなを書く練習をさせたくて、ドリルを買っていたけれど、なかなか本人の気が乗らなくて、いつもすぐにイヤになって止めてしまっていた。
「め」なんて、「ね」なんて、まだ書く練習もしていない。どの文字も、ほとんど書いたことがないけれど、きっときっと、すすり泣きながら、あいうえお表を見ながら、がんばって書いたんだ。
あ、ごめんねって書いてあるね、頑張って書いてくれたんだねと言うと、すすり泣きはまた大泣きになって、涙をボロボロこぼしながら、ようやく、
「さっきはごめんね」
と涙混じりに言えた。
ぎゅーっとしっかり抱きしめると、しっかりと抱きついて、今度は静かに涙をこぼし、落ち着いた。
ごめんって言わなきゃいけないと、思ってはいるけれど、すぐに言えなくて、自分の心の中のイライラと葛藤していた子ども。ひらがなの練習が嫌いなのに、どんな気持ちでこの字を書いたのかな。段ボールの切れ端の「ごめんね」に、子どものいろんな気持ちが詰まっている。
私が子どもから貰った字のある手紙は、これが初めてだ。
きっと、ずっと、捨てられない。
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