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今こそ!再びカッパを本気で考える時が来た!

この夏、遠野市で "いかにも遠野らしい" 興味深い動きが始まりました。

皆さん、こんにちは。私、10年以上、遠野市外で宿泊業に携わり、縁あって「観光マネジメントボード遠野」の事務局にて働かせてもらう事になった小田島(コダシマ)と申します。

今回、遠野市の観光に関わる組織の事務局員として、この遠野らしい動きをタイムリーにレポートしたいと思います。

拙い文章でありますが、この熱量をしっかりお伝えできればと思います。
どうぞよろしくお願いいたします!

※「観光マネジメントボード遠野」については、後ほど詳しくご説明させてください


遠野市が抱える観光の課題

遠野市は『遠野物語』で知られる民話のふるさとですが、観光客は震災時をピークに減少が続いています。

遠野物語 初版

令和元年には震災前の8割となる170万人でした。

多くの人が沿岸部と北上盆地の間の経由地として立ち寄りますが、宿泊客は全体の4%程度にとどまり、この傾向は震災前から変わっていません。

年間を通して見てみると、遠野市へ訪れる観光客は5月と8月にピークを迎え、10月から3月の冬季に向かい著しく減少します。

2010年には、『遠野物語』発刊100周年を記念した「遠野物語100周年祭」を開催するなど盛り上がりを見せましたが、すでに10年以上も経ち、その盛り上がりもすっかり落ち着いてしまいました。

さらに、遠野観光を推進するための組織である遠野市観光推進協議会(平成29年12月設立)が令和4年4月に解散しており、観光地域づくりの管理組織が存在しない状態となっていました。


新しく設立された官民連携の協議会

旅行の多様化や新型コロナウイルスの影響に対応するため、遠野市でも新しい観光スタイルの提案が必要となりました。

これを受けて「これからの遠野の観光を考えるワーキング」が発足。

遠野市の観光を活性化するには、今後どのような取り組みを、どのような体制で推進すべきかといった会議が全9回にわたって開催されました。

そして、令和5年3月に「遠野市観光推進基本計画」を策定。

その中で、観光計画の基本方針として、エントリーテーマを設定し、それらを軸に情報発信していくことで遠野のブランド力を強め、イベントに頼らないPRを行っていくこととしました。

参考資料:遠野市エントリーテーマの考え方

遠野での体験を、つい人に語りたくなる“物語”ととらえ、来訪者それぞれの“物語”を人に語ることで、口伝えに人が人を呼び、そして遠野ファンとなり、また訪れたくなる地域になることを目指した考え方です。

この「遠野市観光推進基本計画」を実行していくため、同年4月には新しい官民連携組織「観光マネジメントボード遠野」が設立されました。

現在の遠野の観光の現場に立つフレッシュな面々と、これまでの観光を知るベテランの人たちで構成されたバランスの良い少数精鋭メンバーです。

遠野市の新たな官民連携組織構成図

DMOとして株式会社 遠野ふるさと商社が「観光マネジメントボード遠野」の事務局を担い、ターゲットに届く一元的なブランディングやプロモーション戦略を立て実行し、観光に関わるデータ収集と報告を行います。

イベントに頼らない持続可能な観光まちづくりを実現するため、危機管理や環境負荷についても調整を行っていきます。


「観光マネジメントボード遠野」初年度の成果

「観光マネジメントボード遠野」では、毎月定例会が開かれ、その中で観光促進についてさまざまな議論を行い、実施しています。

まずはエントリーテーマに沿ってかたちで、これまでの観光パンフレットやマップ、ポスターを刷新しました。

遠野市の新しい観光ポスター(ホップ・ビール&カッパ・妖怪)

これらは『遠野物語』に加え、ホップやビールなどの新たな遠野のイメージと、その先にある里山の暮らしや郷土芸能、雲海など、豊富にある観光資源を、地域に住む人たちが訪れた人に対して心を込めて伝えていくことを目指したものです。

遠野市の新しい観光ガイドブック(パンフレット)
新しい遠野市の観光ガイドブックはコチラからダウンロードできます。

また、これからのPRを考えていく上で、データ分析も不可欠です。

実は遠野市では、約8年もの期間観光に関する調査が行われていなかったため、データ分析のための情報も不足していました。

「観光マネジメントボード遠野」では、まず消費額や満足度調査を実施。

結果として、遠野観光の満足度は決して低くないのですが、消費額が岩手県下でも低く、買い物など消費面の満足度が低いことがわかったのです。

観光を推進していくうえで、これらの課題を解決していかなければいけません。

この結果から、令和6年度は観光客の満足度向上、消費額増のために新たなコンテンツを開発することを計画の一つに定めました。

そこで事務局が、新しい観光コンテンツの開発として目をつけたのが「カッパ」です。


カッパを本気で考える

遠野:カッパを本気で考える

なんと言っても遠野は、日本民俗学の父とも言われる柳田國男の著書『遠野物語』の舞台となった地。

『遠野物語』といえば「カッパ」、「カッパ」といえば『遠野物語』というくらい、『遠野物語』と「カッパ」は切っても切り離せないコンテンツです。

もはや遠野のアイデンティティと言っても過言ではないでしょう。

そこで新しいコンテンツとして「カッパ」が候補となったのですが、少し冷静になって考えた時、「そもそも『遠野物語』の知名度って一体…」となりました。

遠野 カッパ淵

遠野市民で知らない人はいません。もちろんいません。

とはいえ、「名前くらいは知っている」という、読んだことがない地元民も徐々に増えてきています。

かつては教科書にも掲載されるほどの『遠野物語』ですが、発刊から1世紀以上も経ち、徐々にその影響力が弱まっているのは否めません。

100年以上も読み続けられる名著でありながら、今では、岩手県内に住んでいる人でも、主に新しい世代で『遠野物語』を知らないという人も見られるようになってきました。

全国的に見たときに認知度は更に低くなっているに違いありません。

つまりは「カッパ」と『遠野物語』の繋がりがわからない人が多くなって来ていると言えます。

 遠野市としては由々しき事態です。


カッパが繋いだ縁?

「観光マネジメントボード遠野」では解決策を模索しており、その参考事例のひとつとして福崎町の「ガジロウ」がありました。

福崎町キャラクター「ガジロウ」 | 福崎町 (town.fukusaki.hyogo.jp)

福崎町は「リアルなご当地キャラクター」が各種メディアで話題になり、ご存じの方もおられるはずです。

実はこの福崎町、遠野市とはとても深い縁のある町です。

兵庫県という岩手からずいぶん離れた場所の福崎町は、「民俗学の父」といわれている柳田國男のふるさとであり、柳田國男の代表作といえば我らが『遠野物語』です。

福崎町の事例をよく見てみると、ガジロウは地域のPRはもちろん、観光の誘客にも、グッズ展開などによって消費額の向上にも有効であることがわかり、何かしらの形で参考にしたいと模索していました。

しかし、遠野市にはすでに公式キャラクターがいます。


愛される公式キャラクターの存在

遠野市には「カリンちゃん」「くるりんちゃん」という公式のキャラクターがいます。

遠野市公式キャラクター「カリンちゃん」

デザイン的な制限などいくつか課題があるのも事実ですが、市内のあちこちでカリンちゃんを目にすることができ、イベントではいつも着ぐるみが登場するなど、長年遠野市の公式キャラクターとして地元の人達に愛されているのも確かです。

遠野市公式キャラクター「カリンちゃん」(左)と「くるりんちゃん」(右)

決して粗末に扱うわけにはいきません。

※実は、先程の福崎町にも公式キャラクターがいたようでしたが…。
福崎町キャラクター「フクちゃんサキちゃん」 | 福崎町 (town.fukusaki.hyogo.jp)

整理すると、持続可能な観光促進、『遠野物語』の認知度の向上や、観光消費額の向上といった、これらの課題の解決に有効なコンテンツの開発を検討するというのがここまでの経緯です。


観光マネジメントボード遠野事務局の提案

事務局では、福崎町の事例を参考に、新たなコンテンツとして、新キャラクターの開発を定例会で提案し、内容について協議することとしました。

観光マネジメントボード遠野 定例会

メンバーは熱い想いを持って集結した面々です。

「そもそも新しいコンテンツはキャラクターでよいのか?」
「これまでのキャラクターはどうするのか」

など、活発な議論が繰り広げられます。

観光マネジメントボード遠野 定例会

遠野をどうPRしていくのか?遠野に足を運んでもらうためにはどうすべきか?メンバーそれぞれの想いが会議室に溢れます。

観光マネジメントボード遠野 定例会

様々な意見が交わされる中で、「富川屋」代表の富川岳さんからとても興味深い提案が出されました。

富川屋について簡単に説明すると…

富川屋は、遠野市を拠点に「ローカルプロデューサー」として、民俗学の視点とクリエイティブな創作・表現を用いて土地の魅力を発信し、郷土の高い文化振興を担う組織です。

https://www.tomikawaya.com/

本当にはじめての遠野物語』を執筆・発行するほどの富川さんです。

『遠野物語』やカッパに造詣が深いのは間違いありません。

遠野市内でもたくさんのプロデュースを行っており、定例会でも意見を求められていました。

観光マネジメントボード遠野 定例会

 その富川さんの提案が、

「既存の公式キャラクターはこれからも大切にしたい。
 その上でもし新たに作るのであれば、公式キャラがより引き立つように、
 アンパンマンに対するバイキンマンのような、
 ライバル or 敵役という立ち位置ならどうか?」
というもの。

「妖怪とは、神が零落レイラクしたもの」とされ、それをキャラクターに当てはめて考えると、公式キャラクターは神様側に、新しく開発するのはもう一方の妖怪側になる敵役のキャラクターにしたら良いのではないかというのです。

観光マネジメントボード遠野 定例会

加えて、これまでのキャラクターについても「同じストーリーに登場するファミリーとしてリブランディングするのはどうか?」との提案でした。

そもそも遠野は、様々なものが共存している「カオスな土地」と語る富川さん。

「故・米山利直氏は、日本文化はおよそ百の盆地を単位にして成立しており、それぞれが小宇宙(地域文化)を形成している「小盆地宇宙論」を著書に記している」と説明しました。

これを参考に、いろいろなカッパが同居する町「小盆地”河童”宇宙」として、これまでのキャラクター含め、全体に光があたるようなところまで目指していこうというアイディアです。

富川さんの提案は、遠野市の意向にもマッチしているとのことで好評でした。

観光マネジメントボード遠野 定例会

ただし、好評とはいえあくまでも「観光マネジメントボード遠野」という組織の中でのことです。

広く意見を集めて進めていきたいとの意見もあり、意見交換会の開催や、デザインを公募するなどを検討しました。

白熱した協議の結果、ひとまず決定したのは、新しいコンテンツとして開発されるのは「新キャラクター」となりました。

新しいコンテンツ開発=新しいキャラクター

観光マネジメントボード遠野 定例会

新しいキャラクターをどう開発していくのか?
語りたいことは、まだまだ山程ありますが、今回はここまでです。

今後の動きもお伝えしたいと考えております。
現場からは以上です。