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やっぱり遠野物語は面白い①

遠野文化研究センター研究員 木瀬公二

「原本遠野物語」謎解き始まる

 40年以上も前のことなのに、似内邦雄(78)は今でも、遠野市立図書館博物館開設準備室にいた当時の体験が、夢に出てくる。それはこんな内容だ。

 薄水色の絞りの風呂敷包みを持った年配のご夫婦が、応接室に入ってきた。テーブルも袖机もあるのに、ソファーに座った夫は風呂敷包みを膝の上でしっかりと抱えたままでいた。出したお茶を飲むときもそれを離さず、席を外すときは妻に預けた。預かった妻も、同じように膝の上で抱きしめていた。そういうシーンだ。

 風呂敷包みには、「日本民俗学門出の書」とされる『遠野物語』に関連する資料が入っていた。のちに似内は専門家から、「それは日本民俗学のバイブルだぞ」と言われて震え、ご夫妻の態度に得心した。

似内さん写真

似内 邦雄 氏

 柳田国男は、佐々木喜善から聞いた話を毛筆で記録した。それが「毛筆初稿本」。推敲を重ねて整理し、出版社に渡すために原稿用紙にペン書きしたものが「ペン書き再稿本」。印刷所から戻ってきたゲラに、赤ペンで直しを入れたのが「校正本」で、その三点セットが収められている桐の箱が、風呂敷包みの中味だった。この「遠野物語初稿本三部作」が、来年早々にも「原本遠野物語」として岩波書店から出版されることになった。

 それぞれの段階で、柳田はどこをどう直したのか。そこを対比しながら読み進めば、どのように『遠野物語』が誕生したかがわかりそうだ。さらに、「柳田はなぜそう直したのか」「なぜここを省いたのか」などを考え合わせれば、『遠野物語』の深淵が見えてくるかもしれない。どんな秘密が隠されているのか。その謎解きに、3月まで遠野文化研究センター顧問だった三浦佑之・千葉大名誉教授を編集委員長とし、元センター所長の赤坂憲雄・学習院大教授と、センター研究員の小田富英・柳田國男全集(筑摩書房)編集委員の三人が挑む。9月には遠野市で合宿をし、詰めの作業に入った。日本人という民族を理解する上でも、遠野市にとっても意味ある本になりそうで、期待が膨らむ。

遠野物語原稿

原本遠野物語

 さて、どのような本になるのか。その内容に触れる前にまず、この至宝がどのようにして遠野市立博物館が所蔵するようになったのか、の紹介から始めたい。
 (登場する人物の肩書は、断りがない限り、当時です)

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