見出し画像

やっぱり遠野物語は面白い㊸完

遠野文化研究センター研究員 木瀬公二

 フォーラム終了後に寄せた赤坂憲雄の感想はまだ続き、「実は一つ(編集会議の中で)議論をしたことがあったんです」と打ち明け話をしていた。
 そこでは、この種の本を出版する時に、編集者たちは徹底して研究し尽くすことが少なくないが「それをしてはだめなんです」と言っていた。研究し尽くすと、それ以上にやることはない本になって出版される。そうなると、その本を元にして若い世代の研究者は参入することができなくなる。赤坂は、そういう例をいくつか見てきたと述べ「だから、できる限り空白や謎を残したままでいい。つまり、謎をそのまま提示しようという風に我々は考えました」と編集に臨んでいた姿勢を伝えた。そうして編まれた「原本」には「解かれぬままの謎がここにうずもれています。ですから、たくさんの読者や研究者が、これを元にして、様々な研究をこれから始められればいいなと思っています。改めて遠野でも『遠野物語』の関心が高まって欲しいとも思います」と締めくくっていた。

㊸赤坂憲雄

 「改めて『遠野物語』の関心が高まってほしい」と伝える赤坂憲雄委員

 このフォーラムは、コロナ禍で入場制限をしたため、会場に入れたのは76人だった。その人たちの56人がアンケートに答えてくれ、フォーラムの内容が「とても良い」「良い」を合わせると54人だった。10点満点での評価では、最低点の5点を付けた人が2人で、最高点の10点は12人で、平均は8・2点で、主催者側は胸をなでおろした。
 聞き終えての感想は「謎をもって読むこと、面白いと思いました。貴重な原本をこのように見られること、 遠野に住む者にとって誇りに思いました」「原本のおもしろさのご紹介が興味深かった。人に『遠野物語』のおもしろさを伝えるときに役立てそう」「移住して少しですが、市民が本当に”遠野物語”に興味、関心があるのだなと思った。学生や子どもたちに、しっかりつないでいくことが大切だと感じました」「とてもわかりやすくおもしろかった!ゆっくり遠野物語を読んでナゾを見つけたいと思いました(私なりに)」「『物語』の意味の 深さを考えてしまいます。今日の3部作の刊行は未来へのとびらの予感」「『謎解きは興味深い』ことを市民に広めるきっかけになれると良いと思います」「原本を元に、謎解きをやってみたいと思います」「そうそうたる研究者の方々が泥くさく、目をこらし、議論を重ねながら編集されたことが想像できました。おもしろがり方を教わった気がします」「遠野物語は現実離れした記述内容と感じていたが、今回のフォーラムで更に謎の多い毛筆文であることが分かった。後世に生きる私達に多くのロマンを教えてくれますね」「謎解きの話はおもしろく、これまでと違った『遠野物語』の読み方ができそうだと思いました」「市民のために広く遠野物語を知ってもらおうという意図がひしひしと伝わってきました」などと記されていた。

㊸サイン会

終了後のサイン会の様子

 フォーラム終了後、ホールの一角では「原本遠野物語」の販売が行われた。人々が並んだ前で、三浦佑之編集と小田富英がサインをした。そこで53冊も売れた。「5,500円の本がそれだけ売れたことはすごいことだと思います」と書店関係者は、市民の関心の高さを驚いていた。
 ロビーの一角には、若い人たちが集まって話し込んでいた。「謎解き、始めましょうよ」「遠野物語の現地を歩きながらがいいですね」。そんな会話が聞こえてきた。

(終わり) 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?