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やっぱり遠野物語は面白い㉙

遠野文化研究センター研究員 木瀬公二

「姉妹」の話が一段落したところで午後4時35分になっていた。「何話目までやっておけば明日に終わるでしょうか」と、三浦佑之が時間を気にし出した。この後、「こども本の森 遠野」視察と、博物館で行われている「遠野物語と遠野の縄文文化展」を見ることにしていた。すこし心を残しながら「戻ってきて時間があったらまたやりましょう」と三浦が言って、この日は一旦、これで終了することにした。
 歩いて「本の森」へ行く途中も「新字にしてしまえば味気なくなるな」「柳田の意図が伝わらないものね」「これは一種のナゾ解き遊びですものね。推理ゲームですよ」「柳田のイメージカラーは何だろうね」などと会話が弾んだ。「本の森」と博物館を見て回った一行は午後6時過ぎに宿舎に戻り、そこで夕食をとり、この日は解散した。

㉙本の森見学1

「こども本の森 遠野」を視察する一行

翌9月24日は午前9時半から、翌月で退任する本田敏秋市長を表敬訪問した。編集委員長の三浦佑之が、持参した岩波ゲラを見せながら、前日までの作業を説明した。「ようやくこの貴重な本が公刊されて皆さんに読んでいただけるようになります。ありがたいと思っています。うまく進行していると思います」とあいさつした。
 これを受けて本田市長は「私の方からもお礼の言葉を申し上げさせていただきます」と切り出し、遠野物語三部作が出版されると「遠野の伝統の重さ、底力を改めて全国に、さらには世界にも発信できる画期的なものになるのではないかと思っております」と出版に向けての尽力にお礼を言った。

三浦が、本の題名を、これまで使われてきた「遠野物語初校本三部作」ではなく、「原本遠野物語」にすると昨日決めたことを報告すると本田は、「この本の中で、柳田国男の聞き間違いだとか勘違いとかあることが分かるのですか?」と聞く。三浦は即座に「いっぱいありますね」と言い、小田富英が「あるからまた面白いのです。柳田の間違いを見つけると親近感がわきますね」。
 三浦が「喜善さんが語ったものから、どうやって今の本ができたかというその間を埋めていくことができます。完全には埋められませんが、かなりいろいろ分かってきます」と意義を伝えた。赤坂憲雄は昨日の編集作業に触れ「ものすごく細かい作業で、いまこれを反映できるのは岩波書店だけだと思います。2万円とか3万円の豪華版の本を作るのなら、他でもやれるのです。でも一般の人が買うことができる値段にするのです。これがポイントなのです」「これで若い研究者がこの本を手に取って遠野に来るようになる。シニア世代も遠野に呼び込む。それが大事だと思います。一部の研究者が抱え込んだらダメなんです」と力を入れて説明した。

㉙市長表敬1

遠野市長への表敬訪問

 本田は「我々は、遠野物語という賞味期限のない永久に使えるものを持っているわけですね」とした上で、「原本遠野物語」の読み方について「読者の方が、柳田先生は何を勘違いしていたのだとか、あんたはそう思うかもしれないけど俺はこう思う、という自分の世界が出てくるわけですよね」と編集陣に確認。三浦が「その通りです。ともかく面白い本を、いい本を作りたいと思っています」と応じるなど話が弾み、訪問を終えたのは予定を20分近くもオーバーしていた。


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