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やっぱり遠野物語は面白い㊵

遠野文化研究センター研究員 木瀬公二

 遠野での合宿編集会議を終えた三浦佑之は、東京に戻って5日後の9月29日、岩波書店に出向き、遠野で協議した翻刻原稿を確定させるための方針説明などをした。翌日からは赤坂憲雄、小田富英らとの間で、解説原稿の締め切り日時や口絵写真、キャプション原稿について確認するためのメールのやり取りを続けた。それが一段落した10月29日、岩波書店編集者の渡部朝香を交えた4人が、東京・武蔵小金井の小田宅に集まった。そこで、ゲラになっていた三浦と小田の解説原稿を読み合わせ、疑問点などを出し合った。このやり取りを踏まえて、赤坂が「原本遠野物語」の「はじめに」原稿を書き、三浦が「あとがき」を書くことも確認した。

 それらが入稿した11月18日の明後日は、遠野で「佐々木喜善賞」の表彰式だった。赤坂は選考委員会審査委員長、小田と木瀬公二は選考委員、大橋進は主催者側の遠野文化研究センター所長として式に出席し、合間を縫って、それぞれの進捗状況などを報告しあった。ここでの話も参考に、12月7日に岩波書店で三浦と小田が渡部と最終確認をし、14日にようやく完全原稿が出来上がった。これに合わせ岩波書店は「柳田國男自筆 原本遠野物語発刊」のチラシを作った。それが遠野にも届いた。あとは印刷機が回り、書店に本が並ぶのを待つだけになった

㊵喜善賞表彰式

佐々木喜善賞表彰式の様子

 約1か月後の2022年1月19日、ついに本が並んだ。反応はすぐにツイッターに表れた。
「原本遠野物語きました! サイズ気にせず買ったから大きくてびっくりしました。パラパラ見たけど紙だとやはり見やすいですね。少しずつ向き合おう〜 わーい」「これで5,500円はマジ破格だなー。倍くらいはするかと思った」「柳田國男の自筆に萌えるわ」などと書き込まれていた。
 専門的な投稿も結構あった。「『原本遠野物語』で驚いた 柳田國男のデザインへのこだわり。題字の位置の指定が細かい。拙著でこのデザインを踏襲したときも、題字の位置が不思議でいまだにその理由はわからないが、こだわりがあることがわかって前進した。理由があるなら、調べようがあるということだ」「凡例や翻刻はもちろん、所々に付された注も丁寧。本書が研究者だけでなく一般読者にも届けられたことが何よりも素晴らしい」「遠い日にまさしく私が戦慄した一文。そうか、そうか。これは、こんな筆跡で記されたものだったのか。赤坂憲雄の『はじめに』と三浦佑之『毛筆草稿 遠野物語ほか』は、特に胸が熱くなる。叫びだしそうだ」「自筆原稿の生々しさよ」などなどだ。

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2022年1月19日「柳田國男自筆 原本 遠野物語」発売

 事前に書店に注文していた人の「受け取ってきました。肉筆原稿等の貴重資料を翻刻した画期的な一冊。図録サイズを超える大判の大ボリューム。これで5,500円は破格。強いていうと買ったはいいけど本棚に入らない」「想像以上の読みやすさ、分かりやすさにひたすら感動です。読後はこの価格でいいのかと震えるばかり」など、サイズと価格にも触れた、好意的な反応が目立っていた。



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