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【Outer Wilds】を絶賛するだけ

2022年11月から約2ヶ月かけて、インディーズゲーム『Outer Wilds』をプレイし、ようやくクリアに至りました。意地でもノーヒントを貫いてよかった。

感想を端的に言えば「神!」の一言で、星の数では評価できないくらい、星の話をしただけで思い出して感傷に浸れるほど印象深い体験でした。

このノートでは『Outer Wilds』の体験を思い出しながら、その魅力を(作り手の気持ちを考えながら)解剖していきます。ネタバレはほぼありませんが、このnoteはプレイ済みの読者を想定して書いています。

未プレイの方は余計な情報に触れず、まずはご自身で体験して頂きたいです。

ゲームデザイン編

なぜ22分間のループが許されるのか?

このゲームのゲームデザインの根幹は《22分のループ》です。このループにより、プレイヤーは22分間隔で強制的にスタート地点に戻ります。

作り手の思考で言えば、これは超絶リスクの高いゲームデザインだと思います。普通、何度もスタート地点に戻されると不快だからです。

何度もトライを繰り返すアクションとしては「死にゲー」がありますが、基本的には直ぐに再スタートできるつくりになっているか、RPGのように自身のステータスを向上させて再挑戦するゲームがほとんどです。が、本作はどちらにも該当しません。

以下では、「なぜ22分でループするのか?」を中心にこのゲームのデザインを考えていきます。

22分間で新発見をしたい

私が考えるループの魅力のひとつは、22分間の間に新しいものを発見すれば良い、という目的の単純化です。

これは広大なマップでの謎解きゲームにおける目的意識の低下を解決する画期的なアイデアです。

ある謎で行き詰まり、数時間かけて苦悶しても答えが分からないとき、プレイヤーは進捗のなさから徐々に飽きを感じます。

本作は広大なマップで複雑な謎解きをするタスクを、「22分間で新しいものを見つける」タスクに分解していると言えます。プレイヤーはたとえ目の前の謎に苦戦したとしても、次の22分間で新しい何かに出会うことだけを考えれば良いわけです。

そういう観点でもう一度考えると、航行日誌のデザインは秀逸過ぎます。22分で航行日誌が1行でも増えただけでかなりの達成感を感じるようにコントロールされているなぁ、と思いました。

おつかいが無い

このゲームには《おつかい》がほとんどありません。

《おつかい》とは、「お店で人参を買ってから家に帰る」のような「AしてからB」というゲームシステムです。

アイデアを考えるのが比較的簡単で、組み合わせれば簡単に規模を膨らませるため、謎解きゲームではめちゃくちゃ使われている印象です。(鍵を拾う→スイッチを押す→鍵を使う→レバーを引く→…的な)

しかし本作は、謎解き主体なのにほとんど《おつかい》しません。これは作る側の立場で考えると本当に凄いと思います。

なぜ《おつかい》が無いのか?おそらく、おつかいが「次の22分で新しいものを見る」のを阻害すると考えたのでは、と考察しています。

たとえば、ある惑星で開かない扉があったとします。22分間で開け方が分からず、次の22分でも分からず…となったら段々と嫌になります。

そこで何時間も費やした後、結果「他の惑星でスイッチを押してから来ると開いてる」とか言われたら結構しんどい気がします。

要するに《おつかい》は、進展のない22分間を増やしてしまう原因になりかねないわけです。

行けそうな場所には必ず行ける

Outer Wildsは「あそこ行けそうだな…」と思わせる魅せ方がいくつもあります。

明らかな誘導は無くとも、光の加減や幽霊水晶の配置などから次に目指すべき場所をなんとなく理解できるようになっています。

行けそうな場所を見つけたら、後はアクションゲームの時間になります。22分間のループを繰り返して、操作感に慣れたりルートを見つけたりしていくと、いつか必ずたどり着けるようになっています。

個人的に偉いと思うのが、「行けそうな場所には行ける」の逆、「行けそうなのに実は行けない」場所を設けない点です。

本作では、その時点でたどり着くことが不可能な場所はそもそもプレイヤーが認知しないようになっています。

たとえば、辿り着く方法が特殊で、到達にはなんらかの知識が必要な天空城みたいなものがあったとします。

他の多くのゲームでは、序盤から天空城を空に浮かばせて、一度プレイヤーに向かうようトライさせるかもしれません。

対してOuter Wildsの場合は、辿り着けない天空城をプレイヤーから見える場所に配置しない心配りがあるように思います。終盤で情報を得て初めて、天空城の存在と行き方を同時に学んでいく感じです。

現段階では辿り着けない場所を無闇に目指さなくて済むような工夫を感じました。

気軽にループさせない

プレイヤーの死やタイムアップによってループが終わると、逆再生の走馬灯が流れます。システムの話をすればオートセーブの時間です。

ただ、これが結構しっかり長いです。冒険に出た瞬間に衝突死したりすると、「またこのムービー見るのか…」という気持ちになります。

しかし、この演出はわざと冗長に作られてるという可能性もあります。走馬灯が無い場合、プレイヤーはノーリスク・ノータイムで冒険をリセットできるようになり、「死にゲー」さながら試行回数を重ねられるようになります。

ただ、本作のループはあくまで貴重な命をかけた冒険であり、緊張感を大切にしていることは後述のBGM等からも感じられるところです。

真意は分かりませんが、もしかしたら長い演出を嫌がって、毎回の冒険を慎重に行うような工夫かもしれません。(毎回エレベーター登らされるのも?)

コンセプト編

宇宙の絶望が魅せる孤独と絆の対比

宇宙は広大です。そこに取り残された孤独と絶望を、ゲームを通してリアルに体験できることに驚きました。

本作では、惑星に衝突して船が大破した時だったり、アクションに失敗して銀河の彼方に飛ばされた時だったり、どこを向いても星しか見えない宇宙空間を漂いながら死を待つ時間があります。

ゲームを作る上で、「本当に為す術なく死を待つのみ」なんて状態を作るのは、かなり挑戦的だと思います。

そんな絶望を味わった後だからこそ、広大な宇宙空間で自分以外の生命を発見した安心感が強調されます。姿は見えないけど、宇宙のどこかで彼らはきっと音楽を奏でているはず。そんな気持ちにさせてくれるゲームです。

そして「宇宙の広大さと小さな命の対比」こそ、本ゲームのメインとなる主張だと私は考えています。

無限に広がる宇宙と矮小な私たち、延々と続く宇宙とたった22分の冒険。空間的にも時間的にもちっぽけな我々の生命に、宇宙レベルで意味を見出せるのか…という問いが提示されているような気がしました。

サウンド編

「私」の生命を感じる呼吸音

宇宙は真空なので音がありません。ただ、そこはゲームなので、BGMを付けようと思えば付けれるわけです。

ただ本作は、冒険中にBGMがかかっていない時間が結構あります。無音の宇宙空間に響く「私」の息遣いが強調され、それが凄まじい臨場感、没入感を演出していると感じました。

特に酸欠で死亡する時の呻きはリアル過ぎてちょっとキツいくらいでした。

酸素不足で死亡した後、嗚咽して目覚める演出も、芸が細かくて好きでした。

タイマー代わりのBGM

本作は22分間をループするゲームですが、なんとタイムリミットを正確に知ることができません。これも面白い設計です。

タイムリミットが分かってしまうと、どうせ間に合わないから次でいいやという打算的な思考が生まれてしまいます。そのような思考は冒険を作業的にし、新天地に挑戦するヒリヒリとした臨場感が失われてしまうため、あえてタイマーを隠しているのだと思います。

その代わり、ループの終盤になるとBGMがスタートします。BGMは時間とともに盛り上がっていき、最高潮に達した後、冒険は幕切れとなります。

序盤はあまり意識しないのですが、ゲーム終盤になるとBGMの盛り上がり方で時間の進行を把握できるようになり、臨場感が一気に高まります。

ちょっとネタバレになりますが、全ての謎が解けた後の最後の冒険では特別なBGMが始まります。大変感動的なので、未プレイの方は楽しみにしておいてください。

UI・UX編

操作性を下げてのびしろを作る

Outer Wildsは操作性が絶妙に悪いです。序盤はその操舵の難しさに心が折れそうになります。

チュートリアルでラジコンを動かした瞬間に絶望したのを覚えています。

ただ、アクションゲームはプレイヤーが技術的な成長を感じたときに面白くなるジャンルです。なので、あえて特殊な操作感にすることで、のびしろを作ることも大切です。

本作の操作性はまさに、のびしろのある絶妙な調整だと感じました。

アイテム選択も装備変更も無い

操作は複雑で慣れが必要ですが、その他のインタラクトはシンプル過ぎるくらいシンプルです。

これ自体はよくありますが、アイテムやドキュメントにインタラクトできるときにのみ、ボタン指示が表示されます。これだけで覚える手間がずっと省けるのでありがたいです。

さらに特筆すべき点として、冒険中は一切の画面遷移がありません。アイテムインベントリも、道具選択も、バイタル情報表示も、マップ表示も、タスク確認もありません。設定しか開けません。

私が似たようなゲームを作るなら、真っ先にアイテムインベントリを作ったり、道具の選択ホイールを作ったりする気がします。

アイテムは1個しか持てないのでインベントリはもちろん不要なんですが、こういう余計なゲーム性の排除も見習うべきポイントだな、と思います。

既存のゲームによくあるからという理由で色々くっつけないで、引き算をすることも大切だなと感じました。

振動のリアリティ

これは技術的に驚いたというだけですが、振動がリアルすぎませんか?

宇宙船の発着時の揺れ、猛スピードで衝突した衝撃、タイムアップの空気の揺れが伝わってくる感じ、竜巻の風圧等々、ゲームでここまで振動の効果を感じたのは初めてです。

まとめ

今回はOuter Wildsをプレイした際に感じた魅力を文章化してみました。

こうして意識して考えてみると、プレイしていた時には気づかなかった側面を掘り下げることができて面白かったです。

ここからは個人的な主張なので全然読まなくて大丈夫です。

ゲームの評価をしようとすると、欠点を探す方が簡単です。しかし、欠点をあげつらうのは基本的に「あなたの感想」でしかないと思っています。

なぜなら、①その欠点を理解した上で残したかもしれないというクリエイター側の視点が無視できるし、②その欠点を欠点と感じない他のプレイヤーの視点も無視できるからです。

例えばラーメン屋のレビューに「店が汚いので☆1」と書く人は、ラーメンの味に命をかけて衛生面の優先度を下げている店主の視点を無視しています。また、「量が多いので☆1」と書く人は、おなかいっぱい食べたい他のお客さんの視点を無視しています。

こういう批判的な視点は、作り手にとっては改善の余地としてある程度意味があるのかも知れません。

が、遊ぶ側にはメリットの無い行為です。

結局、長所と短所は表裏一体ですから、エンタメに触れるからには全て長所として落とし込むべきだというのが個人的な考えです。

という気持ちで「絶賛するだけ」を書きました。

今後も体験したエンタメを「絶賛するだけ」のnoteを書く予定です。

機会があればまた読んでやって下さい。

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