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2023-12-21: 兼業で商業連載をするということ

2023年もダブルワーク、トリプルワークと、スケジュールが腸重積のように輻輳した兼業の一年でした。

私は大学院に進学した頃から商業連載を始めたので、足掛け10年ほど漫画家を続けています。
開始当初から理科系の大学院生と商業連載の二足の草鞋を履き、修士課程修了後はそのまま企業に就職したので、漫画家のキャリアを通じて兼業作家です。

キャリア初期には、まったく性格の異なる複数の職種に従事していく負荷に混乱し、どの仕事が自身の本業なのか悩みました。実際に、最初の連載作品はそういった問題意識をそのまま漫画に展開してしまったような気がします。

ライフイベントや作家としての作業量増加に伴い、年々負荷は高まっている気がしますが、10年もやれば凡人の私でも多少は慣れるものです。
成長の産物か、あるいは諦観の結果だかいまいち判然としませんが、「どうにもなんなかったことって今まで一度もないから、どんどんやればいいや」と思っています。『いいひと。』で主人公ゆーじもそんなことを言ってた気がしますし。

僕は脱稿が遅い

ところで私は脱稿が遅いです。

どれくらい遅いかと言うと、商業誌なら基本的にいつも〆切直前まで作画していますし、同人の合同誌でも〆切近くなって「スミマセン……」と恐る恐る主催に〆切延長の相談をしています。

いわゆる「パーキンソンの法則」ではないですが、〆切ギリギリまで作業が膨らんでしまうのが常です。

漫画はソフトウェア・エンジニアリングと違って、「90対90の法則」が示すような、作業終盤に高い不確実性が生じることは珍しいです。
漫画の不確実性は必ず作業序盤、ネーム出しに集中するので、ネームが切れれば後工程の工数は(他の職種と比較すれば)比較的見積もりが容易だと感じます。

ただ、商業漫画には基本的に外的要因で事前に決定された納期、つまり〆切があり、この納期は漫画の内容と完全に独立に存在するので、作業ボリュームの大きい漫画であるほど、作画開始時点で厳しい戦いが予測できます。
だから、できればネームは早く終わらせたい。
でも、ネームは早くできないのです。なぜなら工学のように再現性のない作業だから。

僕はネームが上がるのが遅い

ネームに時間を使えば使うほど、後工程の作画時間が減っていき、原稿の品質管理が厳しくなる上、漫画家(やアシスタント)の負荷も上がります。

ですがネームは漫画という仕事において最も再現性の低い仕事なので、「これだけ工数をかければ終わる」ものではないです。
衛藤ヒロユキ先生はネームのアイデア出しを「天使待ち」と呼んでいましたが、天啓を待つに似た、アンコントローラブルな作業です。

だから、ネーム作業の長大化によって作画時間を逼迫しないためには、アイデア出し・ネーム着手時期を早めるしかない。

そして、私はこの着手が遅いです。
毎回奥さんに「お前は毎月のネーム着手が遅い」と言われます。私もそれはアグリーです。

以下は、1ヶ月間における、私の過ごし方例です。
あくまでたとえですので、実際のカレンダーではありません。

私の平均的な1ヶ月の仕事

基本的に平日日中は勤めの仕事をしていますので、平日の画業は始業前や業後に行うことになります。
サラリーマンとしての業種は、グラフィッカーやCG、デザイナーのようなアート関連の仕事でなく、ソフトウェアエンジニアリングなので、漫画家とコンテキストは全く違います。

『上伊那ぼたん』は一般的な月刊連載と比較して月々のページ数が少ないのですが、私一人で全て作画し、かつ平日日中は着手できないとすると、リードタイムはざっくり上図のようになります。
というか、これはずいぶん余裕のあるスケジュールで、上伊那にかけている工期はもっと短い場合が多いです。

最近は『上伊那』IP関連の様々な案件があり、それに関する差し込み的な原作者作業も月々発生します。

あとは、イラスト案件の差し込みや、コミケのタイミングで合同誌のお誘いを頂いたりするので、それらに工期を割り振ります。
今年は夏コミで高負荷になったので、冬コミは上限を決めてお断りしたのですが、やはりというか、修羅場になってしまいました。
ほんの瞬間的に、手塚治虫みたいな負荷状態になっていたと思います。すみませんでした。。

副業というのは、ソフトウェアエンジニア関連の副業で、今年は諸事情あり、少しだけ業務委託で入っていました。
そっち方面で本格的に手を広げていくのは現状厳しそうです。本当に死んでしまうし、ご迷惑をおかけしてしまう。
基本、サラリーマンとして時々の所属組織に奉じたいと思っています。

上図ではネーム開始が8日ですが、これをもっと早く実施して、早く終わらせられれば、ページ数も増やせますし、余裕も発生すると思います。
脱稿後、すぐに次のネームに着手すればいい。多くの作家はそうしているはずです。

ですが、それができない。なぜできないか。

ハードワーク後にスタンが入る

画業的にスタン(気絶)状態になります。
体も壊れますが、精神的にもスタンに入ります。漫画が終わってすぐ漫画に移行できない。

また、画業でオーバーワークしていた時期を抜けると、ソフトウェアエンジニアリングの作業・勉強・キャッチアップなどに時間を使いたくなる(この業種を継続していくために)ので、そちらにフォーカスしてしまうというのもある。

スタンするならしない程度に仕事を減らせば良いのですが、仕事はいつでも降って湧くものではない「チャンスの女神の前髪」なので、やれる時にやる必要がある。
特にフリーランスな業種は、そういう性質があると個人的には思います。何事も、ヤバくてもやりたいならやるしかない。

このスタンからの復帰をいかに加速させるかが、最近の課題であります。
この復帰が早くなれば、きっと『上伊那』の月々のページ数が増えたりするでしょう。
FANBOXもいっぱい更新できるかもしれません。

生活との折り合い

なんか仕事のことばかり書きましたが、24時間仕事だけしてるわけもなく、私にも一応家庭生活があります。

朝7時ごろ活動を始め、洗濯皿洗いゴミ出しや、子供の朝食着替えや登園準備・送迎を行います。
奥さんは夜遅くまで仕事していたり、そもそも朝が弱いので、朝はワンオペが比較的多いです。逆に、私は夜に都内で打ち合わせをすることがあるので、そういった場合に子供を任せたり、最初の寝かしつけは任せてしまいます。

家庭の用事を終えたら即始業し、子供を迎えに行く時間まで勤務して、一旦作業打ち切って送迎。状況によっては夜間も会社の仕事をします。
子供が体調不良だったら、そこから通院の流れもあります。

夜はバタバタして21時ごろやっと作業できる状況。ここからくたばるまで作業しますが、経験上午前3時を回って起きてると翌朝寝坊する可能性がある(私が起きないと家族全員寝坊する)ので、ハードストップ。

とはいえ、シングルの人からすれば夫婦で負荷分散しているので全然EASYです。シングルの人はどうやって回してるんだ?

独身時代は、全部自分の都合で生きていたので、仕事にオーバーフィッティングした生活をしていました。
ただ、そういうのはYOUTHな生活だなとも思っていたので、オッサンになった自分としては、今の生活のほうがしっくりきます。そこらへん結構価値観が古いのかもしれません。

終わりに

来年はもっと忙しく動き回ってやる

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