ボクガシンダセカイ
監視カメラの死角を見つけて
フェンスを越えた。
最後に何を思うものなのか
考えていたけれど意外と何も思わない。
それはそうか。
思考回路なんてとっくに止まってる。
じゃなきゃここまで来てはいないさ。
強く吹く風が身体に当たって
それも心地良い。
目を少し瞑ってまた開ける。
やっぱりダメだ。
何も浮かばない。
まぁ良いや。
僕はタイマーのスイッチを押した。
……
小さく溜め息の様な深呼吸をして
ボクはそこから飛んだ。
夕方にはニュースになった。
なんで死ぬんだろうな。
嫌なら全部やめれば良いだけじゃね?
自殺する奴って全員頭悪いよな。
うちの兄ちゃんの友達がこの時に近くにいて
叩きつけられる時の音聞いたんだってー
トラウマになりそうだよねー。
これでもし下に誰かいて
巻き込んだらどうするんだ。
死ぬなら人に迷惑掛けないで死ねよ。
SNSには死んでも尚誹謗中傷する投稿が流れた。
静岡の実家に連絡が行くのにも
そう時間は掛からなかった。
スマホは粉々だったが
財布は形を保っていて
そこから身元は直ぐに特定された。
兄弟は不思議なもので
まずは両親に連絡をして
大丈夫かと連絡を取る。
案の定大丈夫ではなくて
母親は精神をおかしくした。
そうなると人は他人の心配に心を使うから
皆んなで母親の看病をした。
葬式は親族のみで行われて
線香をあげたいと言ってくれる友達もいたが
なかなか静岡までは来られなかった。
職場にも、友人関係にも
最初はそこそこ大きな衝撃が走った。
だけど1ヶ月、いや2週間経てば
僕の死はその人達の経験値に変わった。
自殺してしまった友達がいる。
死ぬ直前まで話してたのに
気付いてあげられなかった。
友達を守ってあげられなかった。
そんな経験値になった。
こんなもんだよな。やっぱり。
世界は当たり前の様に
ボクが死んでも変わらないし
悲しんでくれる人も
ルーズリーフ1枚に名前が書き切れる。
分かってたけど悲しいな。
ボクは大きく溜め息をついてタイマーの
スイッチを押した。
...…
相変わらず何も思わない。
何もかもどうでも良くて
今なら何をされたって怒らないだろう。
居ても居なくても何も変わらないこの世界から
僕はもう居なくなったのだ。
もう居ないんだから
誰も期待しないでくれ。
もう居ないんだから
常識なんて僕には適用しないでくれ。
もう居ないんだから
どこで何をしてても何も言わないでくれ。
風が強いな。
なんだか足が震えてきた。
高所恐怖症にはこんな所に長くいるのは
辛過ぎる。
ボクはシンダ。
もうボクはシンダんだ。
バレたら捕まるだろうな。
見つからない様に
僕はまたフェンスを登った。
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