石とぼく
『あるところに、六つの国がありました。六つの国には、六つずつ持っていなければならない石がありましたが、どの国も、それぞれ一つずつ足りない石がありました。一つ足りない、というだけで、毎日争い、ケンカばかりでとても仲の悪い国々でした。全部で六つの石を見つけ、それぞれの国に納めれば、争いはなくなる。』
「はい、今日はここまで。ツバサはもう寝ようね。明日の学校に遅れたら嫌だもんね。」
お母さんは、絵本を閉じて、ぼくの首まで布団をかぶせた。
寝る前に読んでもらう絵本てぼくは大好きだ。
もう二年生になったんだから、自分で読んだら?と最近よく言われる。
続きが気になるけど、やっぱり読んでもらいたいから、明日にしよう。
次の日の夜、布団に入ってから、お母さんに続きを読んで、とお願いした。
『六つの石には、それぞれ意味がありました。
黄色の石には勇気、紫の石には正直、青の石には謝る、ピンクの石には思いやり、緑の石には許す、赤い石には認め合う、という意味のある石でした。
それぞれの国で一つずつ失くしてしまったこれらの石を集めなくては、これからも争い続けることになる。
集めることが出来るのは、君だけだ、と言われた若者は長い旅に出ました。
若者は順調に探していきます。
山のてっぺんや洞窟の中、川の底、森の中、空に浮かぶ小さな星、と二年ほどかかりましたが、五つの石を見つけることが出来ました。
ただ一つ、どうしても見つけることの出来ない石がありました。
最後の赤い石です。』
ツバサは、お母さんが両手でつかんでいる絵本のページを戻し、赤い石が何だったか確認しました。
「お母さん、赤い石の認め合うってどういうの?」
お母さんは、絵本から顔をあげて考える風な顔をしてから、
「そうねぇ、見た目や考えが違ってていいってことかな。」と言った。
「なにそれ?」
「うーん。例えば、ツバサはチョコが好き。お母さんは、おまんじゅうが好き。それぞれ好きなものが違うけど、それでいいってこと。わかる?」
お母さんは読むのを忘れて説明してくれた。
「ふーん、なんとなく。」
ぼくは、赤い石が早く見つかればいいな、って思った。
そこへ、家の電話が鳴って、お母さんは、電話を受けるためにリビングに行った。
話し方からして、相手はおばあちゃんかな、長くなりそうだなぁ。
絵本の続きが気になって仕方ないぼくは、自分でパラパラとページをめくってみた。
めくって驚いた。
もうページがない。
赤い石がどうなったのか書かれていない。
破れているわけではないけど、そこで終わっている。
ぼくは考えた。
この本を書いた人、最後まで書くのを忘れたのかな?それとも、本を作るのを失敗しちゃったのかな。
でもそれよりも、赤い石が見つかったのか、六つの国がどうなったのか知りたかった。
まだまだ終わりそうにないお母さんの電話。
突然終わってしまった最後のページをじぃっと見ながら考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。
次の日、絵本をめくると、やっぱりページはないままだった。
続きはどうしたんだろう。
ぼくはなんとく、お母さんには言わないでいた。
ぼくと絵本とのヒミツのような気がしたからだ。
きっとお母さんに話したら、大騒ぎして、いろんなところに電話するに違いない。
お母さんは、続きを読んで、と言わなくなったぼくを気にして、絵本読もうか?と言ってくれたけど、ぼくは断わった。
もう一人で読めるからって。
お母さんは感心していた。
ぼくは、汗をふいた。
その日ぼくは夢を見た。
幼なじみのりっちゃんが、赤い石を手にしているのを見てはっと目が覚めた。
りっちゃん!?
幼なじみと言っても、家がたまたま近所で、産まれた年も、病院も一緒、そんなわけでいつの間にか公園とかで一緒に遊んだりしたけど、実はぼくの中では、少し苦手に思っていた。
りっちゃんだけじゃなくて、女子というものが苦手なんだ。
じろじろ見るし、クスクス笑うし、給食の時間に牛乳をこぼしたら、嫌な顔するし。
だから夢にりっちゃんが出てきて本当に驚いた。
しばらくして、ぼくはあることを思い出した。
幼稚園の時、りっちゃんがぼくに、
「とってもきれいな石を見つけたの。今日誕生日だよね、これ、プレゼントにあげる。」そう言って渡された折り紙の包みを開けたら、赤い石が入っていたんだ。
それはキラキラと輝いて、こんな真っ赤な石をどこで見つけたんだろう、と思ったけど、聞かずに、ありがとうも言わずに、ただ、うなずいただけだった。
急にそわそわしてきた。落ち着かない!
あの石どこに置いたっけなぁ、捨てたかなぁ?
いや捨ててない、ぼくはなんでもかんでも捨てないんだ。
お母さんはよく捨ててるけど、まさかぼくのものは捨てたりしないよねぇ。
部屋中のおもちゃ箱をひっくり返し、机の引き出しを、全部開けて探したけど、見つからない。
そうだ、そうだ、ぼくの部屋にはない!
なんとなく、誰にも知られないような場所に隠したんだ。
ぼくは、慌てて階段を下り、玄関に向かった。
玄関の靴箱の扉を開けた。隅を見た。
あった、あった!
砂と土がついて、ボロボロになっている折り紙を開いた。見つけた、真っ赤な石。
まだ、とてもキラキラしている。
この石と絵本は関係ある?
とにかく部屋に戻って絵本を開かなきゃ!
あっ!最後のページから続きが書いてある。
びっくりして、一度絵本を落としてしまった。
新しいページには、
若者は、赤い石を少女からもらいました。
どうか、これで、六つの国が平和になりますように。そして、少年の心が開きますように。
若者は、ようやく揃った六つの石をそれぞれの国に納めに行きました。
六つの国は争いをやめ、平和を誓いました。
と書かれ、終わっている。
ぼくはドキドキした。
少年?は、もしかしてぼくのことなのかな?
見た目が違って、考えや言うことも合わない女子を、ただ苦手に思っていたけど、それじゃダメってことかな。
皆と仲良くするってことは、認め合うってことなんだ!
違ってていいってことなんだ!
最後の石を見つけてくれたのは、りっちゃんだ。
りっちゃんは、いつでもぼくのそばにいてくれたのかも知れない。
あー、ぼくってひどいや。
今からありがとうを言いに行こう。
ぼくは、石を握りしめ、急いで靴をはいて家を飛び出した。
おしまい
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