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あの日、あの街で見た景色

GW明け。僕は北海道から1年ぶりに千葉へ帰省した。

犬4頭と暮らしているので、なかなか気軽に帰ることができない僕は毎年この雪解けの時期に帰るようにしている。

ありきたりなセリフだが1年はとっても早い。
去年父と男二人で旅をしたあの日からもう1年が経ってしまった。

まだ少し肌寒い北海道を出て飛行機に乗った。
1時間半。あっという間に羽田空港に到着した。

もうすでに人が多い。GW明けなのに羽田空港は人で賑わっていた。
気温は思ったほどに高くはなかった。

すぐさま高速バスに乗り実家へ。
過ぎていく東京の景色はとても懐かしかった。

20代の頃、散々走った首都高は相変わらず東京の動脈のように走っていて、僕たちはまるでそこに流れる血液のように都市の一部となっていた。

雨上がりの東京の空は美しかった。
いつも見ている北海道の空とは全く違う。

都市にいても自然にいても空はいつも美しいものだなと思った。

あれほど嫌だった都会の空も、今は新鮮に見ることができた。


羽田空港から野田までは車で1時間ちょっとの距離だった。
以前はとても遠くに感じていた距離だったけど、北海道の暮らしが染み付いてきているからなのか、短く感じた。

今回の帰省は6日間。その間仕事も2日。家族との旅行も2日。1日はお世話になった方の元へ行くのが決まっていたので実質1日しかフリーの日がなかった。

それでも多くの友人たちに会い、家族とも濃い時間を過ごせたと思う。

そんな中で僕がどうしても行きたかった街、それが二子玉川だった。

二子玉は僕が7年間住んだ大好きな街。

ごちゃごちゃした感じがなくて街はすっきりとしていて、何より河川敷がすぐ近くにあるから自然も感じられる。

今でも、東京に暮らすならこの街が良いと思っている。

そんな二子玉に、どうしても1日いたかった。


懐かしい駅前を進む。相変わらず人は多い。

歩いているうちに、色んなことを思い出していった。

頭の隅に置いてあった記憶が少しずつ蘇っていった。

楽と毎日歩いた出勤路、お巡りさんに職質された路地。

昔借りてたアパートまでの道。

当時大好きだった彼女と待ち合わせていたカフェ。本屋。

授業で学生たちと来た河川敷。

友人とひたすら夢を語り合った居酒屋。

全てが懐かしかった。

あまり過去に浸りすぎるのは良くないと思いつつも、その日は思いきり過去を懐かしんだ。

僕がいなくなった二子玉は当たり前だけれどその後もずっと二子玉で、今もずっと二子玉だ。

当時と全く変わりなく、サラリーマンや高校生たちが歩き、デートの待ち合わせをするカップルは駅の改札前で恋人を待っている。

ミニチュアシュナウザーを連れた若い女の子が、改札から出てきたスーツ姿の彼氏と合流した。

彼氏は彼女に笑顔で手を挙げ、その後わしゃわしゃとシュナの子を触っていた。

犬は全身で喜びを示して、るんるんで3人で歩き出した。

疲れ切った顔で歩くサラリーマンがすき家から出てきた。

手に袋を2つぶら下げて、イヤフォンをして音楽を聴きながら信号を待っていた。

ネクタイは緩み、シャツもどこかヨレた感じがあって、疲れが全身から見てとれた。

男女5人組の高校生がスタバで楽しそうに話していた。
周りを気にせず大きな声で笑う女の子に、男の子が注意をしていた。

隣で勉強していた大学生っぽい女の子が少し迷惑そうにしていたのをきっと見ていたんだ。

何も変わらない二子玉川の日常がそこにはあった。

違うのはもう僕がここの住人ではなく、北海道に行ったこと。

街は変わらず、僕が変わっていた。

もし、何かの選択が1つでも違っていたら、僕はこの街に住み続けていたかもしれない。

そしてこんな感情に浸ることもなく、当たり前に二子玉の住人として暮らしていたのかもしれない。

もしかしたら結婚もして子供もいたのかもしれない。

決して悲観的になったわけではなかった。

人生における多様性の不思議さを僕はずっと感じていた。

何か1つでも違っていたら、全然違う人生になっている。

普段は見えないだけで、僕たちは無数の選択肢の中から日々を選び、人生を選びとって今がある。

選んでいないと思う人生でも、必ず毎日選択をして決断をしている。

そんな当たり前のことを改めて全身で感じていた。

若い頃には感じられなかった感覚が今はある。あぁこれが歳を取るってことなのか、と思った。

一通り二子玉を歩いて、毎年ここに来ると寄る大好きな服屋さんでニットとパーカーを買った。

僕の20代の青春が全て詰まった街、二子玉川。

また来年も来よう。

そして改めて、僕はもうこの街には住めないとも思った。

ここは住む場所ではなく、行く場所だ。

そう思った。

でも、大好きな街であることには変わらない。

たまには過去に思いきり浸って、あの日を懐かしむのも悪くない。

20代の自分にもう一度会えたような、そんな不思議な時間だった。

みんなにもそんな時間や場所が、ありますか。




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