見出し画像

トキノツムギB面

12  管理者②

 騎士の答えを聞いている時、あの声が男の頭に響いた。
〝そこに行きましょう〟
「そこに行くと言ってますが」
「言ってる?何がだ?」
 何がと言われても…
と男は考えた末、
「管理者の手足って名乗る、この…ピアスが?」
その答えを聞くと、騎士はククッと喉で笑った。
「ピアスが言っているか。しかしどうも不便だな。その手足に何か名前をつけた方が良いんじゃないのか」
そして、ふと気づいたように続けた。
「私の名前もまだだったな。悪い。私はソーヤといって、国直属の騎士だが、今は主にこの山の担当としていろいろ整備するのがメインの仕事になっている。頂上に行くとすると、少し歩くが…」
とソーヤが言うか言わないかの内に、清涼な風が強く吹いた。巻き上がる土を避けるために、2人は袖で目元を覆う。風が止み、それを下ろした時。
目の前にあったのは、上が平らな小山を中央に配置した場所だった。小山の周りは、白い小石が覆う円状の土地になっている。
「…頂上だ…」
ソーヤは思わずつぶやいた。
それに反応して、
「うわ。どんなシステムですか。風で移動?全然移動感なかったけど」
と、男が感動している。
「バカ言え。こんなこと私も初めてだ」
小山の上方に目をやりながら、男は続ける。
「それに、真ん中の上に浮かんでる巨大なガラスボール?あれはどういうオブジェですか?」
 オブジェ?
ソーヤの目には小山しか見えず、いつもと同じ景色だ。
「お前には何か見えるのか。私は何も見えない」

 ソーヤが言う言葉は、男にはにわかに信じられなかった。
 こんなに目立つ物が見えないって?
それは本当に、自然の中にあるならオブジェとしか言えない不思議な物体だった。
小山の上1メートルくらいの高さに浮かび、光沢のある絹糸で作った鞠のようなものを包んでいる、巨大な透明な玉。陽光の反射具合によっては繊細な銀のワイヤーを球状に巻いたものをガラス玉に入れているように見える、美しい物だ。
“管理者様ですよ“
と声がした。
「ああ、これが…管理者」
男は暖かで安らかな気分に浸っていた。自分が何も覚えおらずこの先もどうなるかわからないことなど、ここにいるとさしたることではない気がするのだ。
「管理者は、ここにいたのか」
ソーヤが呆然とつぶやいている。
「ガラス玉の中に、銀糸を毛糸の玉みたいに巻いたものが入ってる感じですごく綺麗ですよ」
男の言葉を聞くと
「…そうか。本当にいたのか…」
ソーヤは噛み締めるように言い、感慨深げにじっと中央部を見上げ続けていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?