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トキノツムギB面

2  リアン

 自分のベッドにバラッと投げただけに見えるのに、その数枚のカードは上手く扇型に並ぶ。その何枚かの模様を見て、青年はまたカードを引き、下に重ねる。何回かそれを繰り返した時、青年リアンは同室の青年アイリスから声をかけられた。
「またやってるの。真面目だね」
 この寮は2人一室だ。部屋の右端に寄せたベッドとその足元に勉強机が1つ、同じ物が左端に寄せた状態でもう1セットある。
 窓側のベッドで部屋の角にもたれながら積み重ねた本を読んでいるアイリスに、お前も大概だよと思いながら答えた。
「占いはウチの一族の伝統芸能だから。踊りとかと一緒で、ここで途絶えさせる訳にはいかないんだよ」
実家に帰る度にテストさせられるのだから毎日練習するしかない。
「…今日は出ないの?」
 よく消灯後に出かけ早朝に帰って来るアイリスに尋ねてみると
「うん、今日は休みだね」
とかけていたメガネを閉じた本の上に置いた。
 プラチナブロンドの柔らかい前髪がはらりと切れ長の目にかかリ、その鮮やかな青紫の瞳がリアンに視線を流す。
 ふぅっと惹き込まれそうになり、いやいや、と気持ちを立て直した。
こいつがメガネを外す仕草はいつでも花が咲いていくように見える。

 大学入学時から丸2年同じ部屋にいるが、かなり優秀な知能を何故かひた隠しにし、夜にはどこかに行って何かをして朝になると帰って来る。そしてこれだけ庇ってやってるのに、何をしているのか聞くと「それ以上言うな」という空気を漂わせ何も聞かせない。
「それ、何がわかる訳?」
アイリスがベッド上のカードを覗き込む。
顔にかかる髪をハーフアップ状に結わえてメガネをかけるので本気で教えて欲しいらしい。
「メインに使うのは、この、天地人のカード。天には「天」ってカードと、星、月、太陽。地には「地」ってカードと土、植物、水。人には「神」ってカードと人と動物、鳥。」
 その他、風とか虫とかサブカードは諸々あるが、最初に引くのは天地人のカードのみだ。そこで引っかかることがあれば補助でサブカードを引く。サブカードを引いた時は、「再生」という状態になるまで引くのが基本。「再生」とは、最初のメインカードからサブカード全てを辿るとまたメインカードに戻れるような流れのことを言う。「再生」の状態は何通りもあり、コレを覚えるのがかなりめんどい。「再生」になる途中の状態は「輪廻」という。
 
 かなりザックリと説明してアイリスの顔を見ると並んでいるカードのその先を見ているような鋭い目線で、アイリスの頭が回転している瞬間なのがわかった。
「『人』のカードのトップは『神』なの?」
「昔は天地神って書いて、テンチジンだったのかなと思うよね。でも、3文字中2文字が天と神って何かバランス悪いし」
言いながら、リアンはふと思いついて言った。
「…どこかで、そういう人知を超えたものを信じなくなって行ったからかな。ほら、山の『管理者』とかもさ」
「ああ、あるかもね」
アイリスは軽く頷いてから、リアンを見上げるように訊ねた。
「リアンもそうなの?占い継ぐ家なのに?」

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